第045話 頭の良いヤツとゲームをしてはならない
サマンサを落ち着かせた私はベリアルに謝罪し、ひとまずは帰ってもらった。
そして、そのまま家に帰り、キミドリちゃんの治療を行った。
治療を行ったのはサマンサだ。
サマンサはキミドリちゃんに謝りながら回復魔法をかけていた。
キミドリちゃんはいいよ、いいよと笑っていたが、若干、サマンサに引いていた。
キミドリちゃんを安静のために、休ませると、私はサマンサをリビングにある自分のベッドに引きずりこんだ。
ここでイジメてあげないと、拗ねそうな気がしたからだ。
なお、ウィズは完全に呆れてしまい、パソコンに集中していた。
そして、夕方になると、休んでいたキミドリちゃんがリビングにやってきた。
「あのー、私に休むように言うなら声量を落としてくれませんかね?」
キミドリちゃんはベッドでイチャイチャしている私とサマンサに文句を言ってくる。
「聞こえました?」
素っ裸のサマンサが起き上がり、キミドリちゃんに聞く。
「そりゃあねー…………っていうか、あなた、私に聞かそうとしてません? 御二人が楽しむのは勝手ですが、プレイに巻き込まないでいただきたい」
サマンサは痴態を見られたり、声を聞かれると、興奮するド変態だから仕方がないのだ。
アトレイアにいた時も絶対にメルやエリーゼと絡むことはなかったが、やたら2人がいる時にせがんできていた。
「まあいいじゃん。調子はどう?」
私はキミドリちゃんに体調を聞く。
「あー……サマンサさんの魔法が効きましたね。すっかり良くなりましたよ」
「なら良かった。サマンサは回復魔法も得意なんだよ」
「恐縮です」
私がサマンサを褒めると、サマンサは嬉しそうに答えた。
「実際、すごいですよねー。あの傷がこんなにすぐに治るんですもん。サマンサさん、ありがとうございます」
キミドリちゃんはサマンサにお礼を言う。
私も回復魔法をかけている時を見たが。傷だらけだったキミドリちゃんの身体が瞬く間に傷一つなくなっていた。
「いえ、元はといえば、私が巻き込んでしまったのです。傷が残らなくて良かったですよ」
サマンサはほっとしている。
アトレイアでは、傷モノの女性は忌避されるケースが多い。
サマンサはそれを危惧しているのだろう。
「その辺は大丈夫ですよ。というか、吸血鬼になったら現役時代の古傷が消えたんですけど…………」
キミドリちゃんは私を見てくるが、知らない。
私は古傷なんかなかったし。
「ごめん。それはわかんない。サマンサは知ってる?」
私はサマンサに振った。
「ごめんなさい。私も古傷はなかったので…………でも、まあ、基本、吸血鬼は傷がすぐに治るので、一緒に治ったのでは?」
サマンサもよくわからないようだ。
まあ、サマンサはお姫様だし、傷がつくような場面がそもそもない。
「うーん、まあ、治る分にはいっかー。それよりも、お腹が空きましたねー」
キミドリちゃんは自分のお腹をさすりながら、冷蔵庫に向かう。
「うーん、何もないなー」
キミドリちゃんはそう言って、ビールを片手に冷蔵庫から戻ってきた。
「すきっ腹にお酒はやめた方がいいよ」
私はビールをがぶ飲みし始めたキミドリちゃんに呆れる。
「酔いが回りやすくて、いいじゃないですかー。それよか、ご飯どうします? 何もなかったですけど」
キミドリちゃんはダメ人間みたいなことを言いながら、聞いてくる。
「買いに行こうかなー」
そうは言うものの、正直、めんどくさい。
今日は疲れたし、サマンサを抱いたので、外に行くのが億劫だ。
「ピザでも取りましょうか?」
いつの間にか、服を着たサマンサがデリバリーを提案してくる。
「いいかもー。キミドリちゃんはそれでいい?」
「大丈夫ですよ。吸血鬼になったので太りませんし」
キミドリちゃんはビールを飲みながら同意する。
「ウィズー。猫って、ピザ食べれるー?」
私はパソコンを噛り付くように見ているウィズにも聞いてみる。
「猫はダメだと思うが、妾は食べるぞー」
食べるらしい。
まあ、大丈夫だろう。
ウィズの場合は死んでもユニークスキルで転生するだけだし。
「じゃあ、ピザにしようかー、えーっと、チラシがどっかにあったな…………」
私はアパートにあったものをすべてアイテムボックスにしまっている。
確か、その中にピザのチラシがあったはずだ。
「あー、あった、あった」
私はピザのチラシを取り出し、広げる。
そして、4人で食べたいピザを選び、注文した。
しばらくすると、ピザが届いたのでテーブルに広げ、皆でお酒を飲みながら食べ始める。
「そういえば、サマンサって、3ヶ月前に来たって言ってたけど、3ヶ月も何をしてたの?」
私はシーフードピザを食べながらサマンサに聞く。
「多分、はるるん様達が午前中に行っていたスーパーにいましたよ。最初ははるるん様を探していたんですが、明らかに吸血鬼じゃない黒髪のはるるん様がいましたので、まだ来てないと思い、待機してました」
3ヶ月前の私って、何をしてたっけ?
仕事はしていたと思うが、覚えてないな。
「あんなところ、暇じゃない?」
あのスーパーは何もなかった。
私は3ヶ月もあそこにいる自信はない。
「根城にしてただけで、色々見て回ってましたよ。でも、飛行機には驚きましたねー。霧の状態で飛んでいたら、目の前に、ものすごい速度で飛ぶ鉄の塊がいるんですから。新種のドラゴンかと思いましたよ」
そら、ビビる。
「ふーん。あの天使は? アーチャーだっけ?」
「あれは私がスーパーに帰った時に出会ったんです。なんか、男の人と致している最中でしたね。暇そうにしてたので、利用してやろうと思ったんです」
更衣室にあった死体について、アーチャーは拒否されたから殺したとか言っていたが、結局、ヤッてんのかい。
「なるほどねー。だから、あのスーパーにはアーチャー以外にもサマンサの魔力が感じ取れたのか…………」
実は私はスーパーに行った時、サマンサの魔力を感じ取っていた。
私はアーチャーがキミドリちゃんを狙っているとわかった時も、宙に浮くアーチャーの下でサマンサが倒れていた時も、サマンサの心配は一切していなかった。
正直に言えば、私は最初からサマンサと天使が繋がっていることに気が付いていたのだ。
でも、サマンサが天使なんかと組むわけないし、どうせ、いつものかまってちゃんアピールだと思っていた。
だって、サマンサが魔力を消し忘れることなんて、ありえない。
わざとらしいくらいに、気付いてほしいアピールをしていたのだ。
そして、それは大体、合ってた。
「天使の情報は何かあるか?」
ウィズが器用にピザを食べながらサマンサに聞く。
「うーん、すみませんが、あまりないですね。特に会話もしませんでしたし。ハワーとかいう天使が死んだ時にすごく怒ってましたね。なんか狙ってたらしいです」
アーチャーがハワーの仇を取りたかったのは、仲間意識じゃなくて、そっちか。
「アーチャーはハワーを殺したのは妾達と知っておったようだが?」
「私がそう言いました。あの天使にはウィズ様を足止めしてもらって、その隙に私がはるるん様を手に入れる予定だったんです。でも、あの天使はウィズ様を無視して、はるるん様ばかり狙うんですもん。ホント、使えないです」
まあ、そんなことだろうと、思ったよ。
「…………まあよい。おぬしの事はハルカに任せる。アーチャーはどうやって、こっちの世界に来たのかはわかるか?」
ウィズはサマンサに何か言いたそうだったが、諦めたようだ。
「それについては、はるるん様から聞いたハワーと同じです。なんか急に呼び出されて、気付いたらこっちの世界にいたと言ってました。でも、アーチャーはこの世界を支配することに興味がなかったそうです。そういう天使は結構いるみたいな口ぶりでしたね。得体のしれないヤツの言うことは聞きたくないそうです」
天使は他の種族と比べ、同族意識が高い。
というか、他種族を見下している。
そして、階級を重視する傾向がある。
王級天使ルシフェルの言うことなら聞くかもしれないが、正体のわからない者の言うことは聞きたくないのだろうな。
「なるほど。天使も一枚岩ではないわけか…………」
ウィズがふむふむと頷いている。
「だと思います。ですけど、天使ですからね。指示には従わなくても、勝手にそういうことをし始めると思います。人間を騙し、負の感情を好む種族ですので」
それが天使の特徴だ。
実にうっとうしい種族である。
「放ってはおけんか…………ハルカ、このことはベリアルにも伝えておけ」
「わかったー。でも、ウィズもやる気だねー」
他種族どころか、同族にも興味が薄いウィズとは思えない。
「あー…………実は天使は他種族の中でも魔族を最も嫌っておるんじゃ。こっちが無視しても、向こうからやってくる」
そうなのか……
まあ、そんなイメージはある。
天使と悪魔って対なる存在で仲悪そうだし。
「ウィズ、魔力を消す練習しときなよ」
「そうじゃなー…………そうするか…………天使が襲ってきて、マンションを壊されたら嫌じゃし、妾のHDDは守らねば…………」
そのHDDには何が入っているんだい?
「まあ、天使対策もいいですけど、ダンジョンにも行きましょうね。思ったんですけど、ハルカさん、全然行ってないですよね? お金、大丈夫です?」
キミドリちゃんが痛い所をついてくる。
実は500万円以上あったお金はすでに100万円近くまで減っている。
調子に乗って、物を買いすぎたのだ。
「それも行かないとねー。来月の家賃も払わないとだし、冷蔵庫も大きいのに買い替えたいし」
お金はいくらあっても足りない。
稼がねば!
「あ、サマンサはDランクになれそう?」
私は結局、サマンサがどうなったのかを聞いていない。
「昨日の午前中でユニコーンを狩りまくりましたので、大丈夫ですよ。まだ、審査中ですが、まあ、落ちる人はいませんので」
どうやら、サマンサはDランクに上がれそうだ。
これで、私もキミドリちゃんもサマンサもDランクになった。
Dランクになれば、15階層までだが、11階層以降にいける。
11階層以降にどんなモンスターが現れるかは調べてないが、私達が15階層に到達するくらいにはCランクになれるだろう。
ユニコーンは十分に美味しいモンスターだったが、もっと稼がねばばらない。
生活を豊かにし、自堕落に生きる。
私達の目標はまだ先なのだ。
私達の戦いはこれからだぜ!
~ 完 ~
◆◇◆
ピザパーティーをした翌日は、全員が家にいた。
昨日、大量にお酒を飲んだ私達はもれなく二日酔いになり、外に出る気がなかったのだ。
私は昼に起きると、ベリアルに電話し、サマンサの事で迷惑をかけたことの謝罪とサマンサから聞いた天使情報を話した。
ベリアルはサマンサの事は特に気にしていないようだったが、やっぱり、ウィズやキミドリちゃん同様に、若干、引いていた。
まあ、人前であんだけ騒ぎ、私にキスをし、挙句の果てには、スカートの中に手を突っ込んでいる幼女を見たら、多少なりとも引くだろう。
私はベリアルとの電話を終えると、ベッドに行き、寝ころびながらゲームを始めた。
ウィズはいつものようにパソコンで何かをしており、キミドリちゃんはそれを見ながらウィズと話している。
サマンサは私の隣で本を読んでいる。
私のベッドの上で本を読むのは構わないのだが、私の枕を股で挟むのはやめてほしい。
このド変態は絶対に何かしてるでしょ?
「サマンサー、一緒にゲームしない?」
私は見かねて、サマンサを誘う。
「私はいいです。本を読んでいますので…………」
私が誘うと、サマンサは拒否してきた。
だが、さっきからちらちらと本越しにテレビのゲーム画面を見ていることには気が付いている。
この子はどうして、遠慮するのだろう?
興味があるのなら言えばいいのに。
「ほら、そう言わずに一緒にやろうよー」
私は再度、サマンサを誘った。
「はるるん様がそう言うなら…………」
サマンサは遠慮がちにそう言って、本を置いた。
私はもう一つのコントローラーを取りに行き、サマンサに渡す。
「上から色んなスライムが落ちてくるの。同じ色のスライムを4つ重ねれば、消えるんだよー。あ、このボタンで方向を変えれるよ」
私はサマンサにゲームの遊び方を教えながら、対戦をする。
「こうですかー?」
「そうそう」
教えながらやっていると、サマンサのスライムが許容をオーバーしたので、ゲームオーバーとなった。
「こんな感じで溢れちゃうと、負けになるんだよー」
「なるほどー。シンプルでわかりやすいですね」
このゲームならゲームをやったことがないサマンサでも出来るだろう。
「じゃあ、やってみよっか。ゆっくりでいいからねー」
「はい」
私達はまた最初から対戦を始める。
私は順調にスライムを消していく。
…………。
………………ん?
…………………………んん?
サマンサは何でスライムを消さずに、ものすごいスピードでスライムを重ねているんだろう?
えい?
ふぁいあー?
…………あれれ?
連鎖だとぅ!?
………………………………ばたんきゅ~。
私は開始数十秒で即死した。
「やったぁ………………あっ…………ごめんなさい」
サマンサは小さくガッツポーズをして喜んでいたが、私の表情を見て、すぐに謝ってくる。
私はコントローラーを置き、サマンサを押し倒した。
「きゃっ! だ、ダメですよぅ…………ウィズさんとキミドリさんが見てますぅ!」
サマンサはそう言うが、体はまったく拒否してないどころか、頬を赤らめ、私の背中に腕を回す。
「まーた、やっておる……」
「羞恥プレイに私達を使うのを止めてもらうように言ってもらえません?」
「妾は関わりたくない。無視しろ」
2人はそう言うが、サマンサの≪狂恋≫は決して止まることはなかった。
私も止まらなかった。
ここまでが第2章となります。
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