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第042話 死ぬのは慣れているが、死んだままはさすがに……


 スーパーの奥にある部屋の光景は人が見れば、思わず口を押さえるような光景だった。

 

 その部屋はロッカーが所せましと並んでおり、おそらく更衣室か何かだと思う。

 その更衣室には、複数の人間の死体が無造作に横たわっており、そのすべてが赤いというか、黒い。


 見ただけでわかるが、全員死んでいる。

 気の弱い人間なら吐いてしまうような光景だ。


 私は気の弱い方だが、さすがに修羅の世界であるアトレイアに200年もいた。

 非常に不本意だが、こういう光景に慣れてしまっていた。


「ふむ」


 ベリアルが死体をまさぐりながら。頷く。


「何かわかったの?」


 ベリアルが何かに気付いたようなので聞いてみる。

 さすがに、慣れたとはいえ、死体を調べるのは嫌だ。


「詳細な死因は検死の後だが、魔法による斬殺だな。これは風魔法かな?」


 ベリアルは死体のお腹部分を指差すが、黒くなっていて、私にはわからない。


「そこまでわかるんだ……」

「私達魔族は魔法のスペシャリストだ。魔法であれば、大体わかる」

「じゃな。この切口は風魔法じゃろ」


 魔族って、どうして血なまぐさいんだろう?


「他には何かわかるの?」

「いや、これ以上は検死に回してみてだな…………」


 ベリアルはそう言って、立ち上がると、更衣室を出たので、私達も更衣室から出る。


 私達は更衣室を出ると、お菓子が散乱している机まで戻った。


「天使の気配はあるか?」


 机の前まで戻ると、ベリアルが聞いてくる。


「妾はわからん。匂いも血の匂いが強すぎてな……」


 ウィズはわからないか……


「君は?」


 ベリアルが私を見る。


「微妙だけど、魔力を感じるわね。多分、隠してはいたんだと思うけど、完全には消しきれなかったんだと思う」


 私も普通にしていたら気付かなかっただろう。


 ここに天使がいるかもしれない。

 そうやって、警戒をしていたから気付けたレベルだ。


「結界を張り、それでいて、ここまで魔力を隠すことが出来る者…………まだ天使かどうかの確証はないが、雑魚ではないと思うのう」


 私の言葉を聞いたウィズが敵の予想を立てる。


「そうなると、魔法が得意なヤツで間違いないな…………そいつの居場所はわからんか?」


 ベリアルはそう結論付けて、私に居場所を聞いてきた。


「それなんだけどね、そう遠くは行っていないと思う。なんとなくだけど、微妙に魔力を感じるのよ」


 私はある程度の距離でも魔力を感じることが出来る。

 そうやって、強敵から逃げてきたのだ。


「近くか…………まあいい。ひとまず、ここを出よう。そろそろ昼食時だし、一度、どこかで昼食がてら作戦会議でもして…………ん?」


 ベリアルが話をしている途中で天井を見た。


 それと同時に、私も強い魔力を感知する。


「ハルカ! 離れろ!!」


 ウィズの叫び声が聞こえ、私は反射的に、この部屋を出ようとした。

 直後、天井から大きな衝撃音が聞こえ、脳天から胴体にかけて、身体に衝撃が走る。

 そして、私の視界が赤く染まった。


 私はその衝撃を受け、床に倒れる。


 倒れた私の目にはがれきが見えている。

 そして、そのがれきの上に一人の男が立っていた。


 男の服装は普通のキトンだが、ピンク色の髪の毛を逆立てさせており、特徴的な髪型をしている。


「まずは一人仕留めたわ! ホホホ!」


 男はがれきの上で高笑いしている。


 このうざさは天使だな……

 天使で間違いない。


「私の巣に悪魔が忍び込んでくるとはねー。もっとも、この程度の魔法を躱せない雑魚でしたが。さあ、残りは2匹ですね」


 どうやら私は天井越しに魔法を食らったようだ。


 そして、脳天を貫通し、貫かれた。

 普通は即死だろう。

 だが、私はこの程度では死なないし、ダメージすらない。


 私はさっさと回復しようと思い、血を操作し始める。


『≪少女喰らい≫、少しの間、そのままでいてくれ』


 私が再生しようとすると、ベリアルが念話で待ったをかけてきた。


『いや、何でよ。言っておくけど、死にはしないけど、気持ち悪いのよ?』


 っていうか、私の私服が悲惨なことになってない?

 ドレスを着てくればよかった。


『こいつから色々聞きだしたいんだ。すまんが、死んだふりをしていてくれ』


 えー…………

 マジか……


『早くして』

『善処する』


 私はベリアルに頼まれたので、死んだふりをすることになった。


 ぐえー、やーらーれーたー。


「君は天使かな?」


 ベリアルは私との念話を終えると、天使と会話を試みる。


「まあ、否定することじゃないから言うけど、そうよ。そういうあなたは悪魔ね?」


 天使は意外にもすんなり、自分が天使であることを認めた。


「そうだ。私はゴロウという悪魔だ。この店に張ってあった結界といい、隠密性といい、先ほどの魔法といい、君は上級天使だな?」


 ベリアルの人間時の名前は吉田ゴロウだったはずだ。

 さすがは悪魔。

 嘘はつかない。


「ゴロウ? うーん、聞いたことないわねー。まあいいわ。私は侯爵級天使のアーチャーよ。知ってるかしら?」


 アーチャー?

 聞いたことがあるような、ないような…………


 私は思い出そうと、頑張るが、一向に出てこなかった。


「ほう…………≪奈落≫のアーチャーか……」


 ベリアルはこの天使の名前を知っているようで、感心したようにつぶやく。


「あら、私の事を知ってくれてるのね? ダンディなおじさまに知ってもらえるなんて幸せだわー」


 アーチャーとやらは身体をくねくねさせている。


 何、このキモいオカマ……


『ウィズ、≪奈落≫って知ってる?』


 私はベリアルの邪魔をしちゃいけないと思い、ウィズに念話で聞いてみる。


『うーん、確か、魔法が得意な天使だったような気がする』


 ウィズから微妙な返事が返ってきた。


 まあ、とにかく、こいつは魔法が得意で、二つ名持ちの侯爵級天使ね。

 上級天使であることには間違いないし、大物だろう。

 だけど、オカマっぽいしゃべり方と言動のせいで、緊張感はない。

 私、死んでるけどね。


「もちろん知っているとも。しかし、そんな大物がこんなところで何をしているのかな?」


 もっと大物のベリアルがわざとらしく、情報の聞きだしを続ける。


「フフフ。あなたは上手ねー。でも、一方的に女性の情報を引き出すのは良くないわ」


 アーチャーはいい女っぽく笑った。


『女性?』

『そこは触れてやるな』


 私がウィズに疑問を投げかけると、ウィズは空気を読むように諫めてくる。


「それは失礼。君も質問があるかな?」


 ベリアルはアーチャーに素直に謝った。


「そうねー。じゃあ、まずはそこの猫ちゃんの名前を聞こうかしら? その子も悪魔よね?」


 ウィズが悪魔なことはバレているようだ。

 まあ、ウィズは隠密が得意じゃないし、魔力も普通に漏れているから仕方がないことではある。


「妾か? 妾はウィズじゃ」


 アーチャーに聞かれると、これまで黙っていたウィズは名前を名乗った。


「おや? そちらも知らないわね。てっきり大物かと思ったのだけど…………うーん、悪魔は嘘をつかないし、珍しく女の勘が外れたかしら?」


 女の勘にはツッコまないが、こちらとしては上手くいった。

 ベリアルもウィズも嘘は言っていない。

 おそらく、ベリアル、シュテ…………と名乗れば、この天使は逃げてしまうだろう。


「まあ、有名な名前ではないからのう」

「ふーん、じゃあ、もう一つだけ聞いてもいいかしら?」


 まーだ、聞くんかい。


「何かな?」


 ベリアルは相手の情報を引き出すために、譲歩している。


「そこの明らかにただものじゃない魔力を持っている吸血鬼が復活しないのは何故? 死んでないでしょ」


 アーチャーがそう言った瞬間、ベリアルとアーチャーの魔力が一気に膨れ上がったのがわかった。


 そして、ベリアルが消えたと思ったら、一瞬にして、アーチャーの背後に回り、手刀で胸を貫く。

 だが、アーチャーの胸からは血が流れていなかった。


「あらあら。いやらしい悪魔さんねー」


 アーチャーは胸を貫かれたというのに、痛そうなそぶりを見せずに笑っている。


「傀儡か……」


 ベリアルがポツリとつぶやいた。


 傀儡というのは魔力で自分そっくりな人形を作る魔法である。

 魔力を込めれば、操作をすることも出来るし、簡単な戦闘程度も可能だ。

 アトレイアでは、主に偵察とかに使われていた。


「自分の巣に人外が3匹も忍び込んだら警戒もするわよー。それも正解だったわ。あなた、名前は聞いたことがなかったけど、上級悪魔ね?」

「どうかな?」


 ベリアルはアーチャーの追及にとぼけた。


「フフフ、隠し事をする男性は素敵だと思うけど、今は意味ないわよ。ハワーを殺した4匹の人外がいるとは聞いていたけど、どうやらあなた達ね」


 あれ、そこまでバレてんの?


「誰から聞いた?」


 ベリアルの表情が険しくなる。


「その表情も素敵だわー。でも、言うわけないじゃない。それにしても、ハワーは剣で斬られたって聞いていたけど、あなた達じゃなさそうね。あなたは武器を好まなさそうだし、あとは猫とガキンチョだもん」


 ガキンチョって私?

 …………まあ、私しかいないか。


「貴様の目的は何だ?」


 ベリアルは手刀で胸を貫いたまま、尋問を続ける。


「目的ねー。実はあまりなかったのよ。ここを根城に適当に生きてただけ」

「奥の死体は?」

「あの子達は私が愛してあげると言ったのに拒否したのよ。だから死んでもらっただけよ」


 だから、男の死体しかなかったのか……


「目的がなかったと言ったな? ということは今はあるのか?」


 ホントだ!

 過去形で言ってた!


「決まっているじゃない? ハワーを殺したヤツを同じように殺してやるの。でも、あなた達じゃなかった…………ということは、あの女ね?」


 女…………


 え?

 キミドリちゃん!?

 そこまでバレているの!?


「貴様っ!」

「フフフ……傀儡で来て良かったわー。ハズレを引くところだった。じゃあ、私はこの辺で…………あの女をバラバラにしてやるわ!!」


 アーチャーの表情が急変した瞬間、ベリアルはアーチャーの頭を掴み、ねじ切る。

 アーチャー(傀儡)はそのまま砂のように崩れ落ちた。


 私はそれを確認すると、すぐに再生し、魔力でドレスを作り、身につける。


「アーチャーの狙いはキミドリちゃんよ!」


 私は復活すると、2人に向かって叫ぶ。


 しかし、ベリアルはポケットからタバコを取り出し、吸い始めた。


「何してんの!?」


 なめとんのか!?


「落ち着け。こういう時こそ焦るな。まずは電話をかけてみろ」


 ベリアルは紫煙を吐きながら冷静に言う。


 私はその通りだと思い、携帯を取り出し、キミドリちゃんに電話をかける。

 だが、いつまで経ってもキミドリちゃんは出てこなかった。


「出ないわ!」


 私は携帯を耳に当てながら叫んだ。


「そうか…………ここから車で2時間……青野君の力ならすぐにやられることはないと思うが、どう思う?」


 ベリアルはあくまでも冷静に聞いてくる。


 2時間…………

 キミドリちゃんは元々、強い探索者だった。

 吸血鬼になって、不死性は上がっているし、いい勝負にはなると思う。

 だが、相手も二つ名持ちの侯爵級…………


「きついわ。キミドリちゃんは吸血鬼になったばかりだから魔力が低い。アーチャーは魔法が得意のようだし、厳しいかもしれない」


 私はキミドリちゃんの力を信じているが、相手が悪いと判断した。


「わかった。≪暴君≫、転移の魔法は使えるか?」


 ベリアルはタバコを携帯灰皿にしまいながら、ウィズに聞く。


「妾は使えん。おぬしは?」

「私も使えない」


 悪魔共は戦闘魔法ばっかりで、本当にそういう便利な魔法を覚えないな!

 なーにが、魔法のスペシャリストだ!


「私の霧の魔法で飛んでいきましょう! それが一番早いわ!」


 車で2時間かかったが、信号も遮蔽物もない空ならもっと早く着けるだろう。


「ふむ。そうするか」

「じゃのう…………ハルカ、焦るな。キミドリは簡単にはやられん」


 私もそう思うが、心配なのは仕方がない。


「霧になるわ! 2人とも私に触って!」


 私がそう言うと、ウィズは私の腕の中に飛んでくる。

 そして、ベリアルは肩を触った。


「行くわよ!」


 さすがに、今回は詠唱をせず、霧の状態になると、アーチャーが魔法で開けた天井から上空へと一気に浮き上がった。


 キミドリちゃん、無事でいてね!

 サマンサは…………うん、信じてる!

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