第041話 スーパーは人がいないと微妙に怖い
私はウィズを膝に乗せて、ベリアルが運転する車に乗っている。
ベリアルはキミドリちゃんみたいな爆走ではなく、安全運転だ。
私は助手席に座り、景色を見たり、話をしながら車に揺られている。
ドライブは嫌いじゃない。
でも、さすがに飽きた。
すでに発車してから1時間も経過しているからだ。
「それで、どこまで行くの? 郊外って言ってたけど…………」
私は車が止まる気配がないので聞いてみる。
「車で2時間かかる」
遠っ!
「めんどいなー」
「というか、そんな遠くの異変がよく分かったのう」
ホントだよー。
働きすぎだよー。
「一応、各ギルドにはダンジョンだけでなく、周囲で異常な事象や事件が起きたら報告するように通達してあるのだ。今回も現地のギルドからの報告になる」
「へー。そんなんあるんだー」
密告社会みたい。
なお、密告社会については、詳しく知らない。
「表向きは探索者の犯罪取り締まりだが、実際はダンジョンの芽をばらまいたヤツの捜索だ。今は天使もかな…………まあ、思ったより、探索者の取り締まりの成果が大きかったがな」
やっぱり探索者による犯罪は多いみたいだ。
武器は持ち出し禁止だが、単純に身体能力は上がっているし、魔法も使える。
よく考えたら危ないなー。
「ギルドが何て言ってきたの?」
「潰れたスーパーに何者かがいる、だ。これだけなら警察に任せればいい。だが、調査をしようとして中に入ると、気付いたら外に出ているらしい」
寝ぼけたわけじゃないんだろうなー。
そうなると……
「結界?」
「そう睨んでいる。人払いの結界だろう。暗躍が大好きな天使が得意とする魔法だな」
天使が直接戦うことはあまりない。
ヤツらは人を騙し、仲間内での同士討ちを好む種族だ。
まあ、性格が悪いね。
「そりゃ怪しいわねー」
「その結界も情報社会であるこっちの世界ではあまり効果がないようだがな」
建物に入って、気付いたら外に出ている。
魔法が当たり前のように身近にあるアトレイアであれば、変だなーと思う程度かもしれない。
だが、科学が発達したこっちの世界では異常でしかない。
人払いの結界が逆に怪しまれ、人を呼ぶ結果となるわけか……
「罠の可能性は?」
行ってみたら天使がうじゃうじゃー。
「どちらにせよ、対処はしないといけないし、邪魔な野次馬がいないからこちらにとっては好都合でもある」
それはあるな。
もし、私がやられて、復活でもしたら『あいつ、人間じゃねー!』とかなりそうだし、それこそ配信者なんかいたらマズい。
私はまとめサイトにまとめられるぐらいには知名度があるし、すぐに特定されるだろう。
「対処はこの前と同じ? 尋問して、殺す感じ?」
私は以前の伯爵級天使ハワーとのやり取りを思い出す。
「情報は仕入れたいからなるべく手は出さないでくれ」
「了解した。始末はそちらに任せる。妾達は調査じゃったな」
ウィズはすることないでしょ、と思ったが、鼻が良いんだった。
「頼む。悪いが、もう少しかかる」
退屈だなー。
◆◇◆
車に揺られ、2時間が経った。
高速を使い、着いた場所はビルが立ち並ぶような所ではないが、そこまで田舎でもない街だった。
「この辺?」
「あそこだ」
私がべリアルに聞くと、運転しているベリアルが顎で前方を指した。
私は釣られるように前を見ると、何も書かれていない大きな看板が見える。
「あれ?」
「そうだ」
さらに車が近づくと、何も止まっていない駐車場と看板が外され、白色が目立つ1階建て平屋のスーパーが見えてきた。
だが、駐車場に入るための入口はロープがかけられ、侵入防止となっている。
ベリアルはスーパーの近くに車を止めると、車から降り、そのロープを外す。
そして、また車に乗り込み、スーパーの前まで動かすと、停車した。
「ふう…………やっと着いた」
私は車が止まったので、車から降り、手足を伸ばす。
ウィズも私の横で背中を伸ばしている。
「あー、疲れたのう。猫はジッとできんのだぞ」
いや、昨日まで、パソコンの前でジッとしてたじゃん。
「帰りもこれ? というか、明日も? 嫌だなー」
「今日で終われば、明日はないじゃろ。さっさと見つけよう」
「だねー」
私は今日中に終わらせようと決意し、ウィズを抱き上げた。
「早速だが、何かわかるかね?」
ベリアルが煙草に火をつけながら聞いてくる。
そういえば、ベリアルは運転中にまったく吸っていなかった。
多分、私が乗っていたからだろう。
Mr.紳士と呼ぼう。
「結界があるのう……」
私の腕の中にいるウィズがスーパーを見上げながら言う。
「だな。それは私にもわかる。とはいえ、それほど強力な結界ではなさそうだ」
ベリアルもまた、スーパーを見上げた。
「まあ、結界があることは確かじゃ。天使の可能性が高い」
「当たりか…………君は? 何か感じるかね?」
ベリアルが私にも聞いてくる。
「あるねー。めっちゃ血の匂いがする。一人や二人じゃない」
実は車から降りる前から気付いていた。
「本当か? 妾は何も匂わないが……」
ウィズは鼻をスンスンさせる。
「結界で隠しているんでしょ。でも、吸血鬼は血の匂いに敏感だからね。これは結界程度では誤魔化せない量の血の匂いよ」
それも臭い。
多分、死んでるね。
「そうか…………嫌な方も当たりか」
ベリアルがタバコを携帯灰皿の中に入れ、ため息をつく。
「嫌な方?」
「この町はここ最近、数名の行方不明者が出ている」
あー……繋がっちゃった。
「決まりっぽいね。スーパーの中の人、多分、死んでるし」
「やれやれ。これは警察も呼ばねばならんか…………面倒なことになったな」
ベリアル的には内密に処理したいんだろうが、さすがに複数人の死人が出ていれば、隠すことは難しいだろう。
「とりあえず、入ってみるか。結界を消すぞ?」
ウィズがベリアルに確認する。
「頼む」
ベリアルが許可を出すと、ウィズがスーパーを見る。
そして、ウィズから魔力があふれているなーと思った瞬間、スーパーを覆っていた何かが割れたような気がした。
「消したぞー……って、確かに、血の匂いじゃのう」
結界を消したことでウィズも匂いを感じ取ったらしい。
「行くか……私が先行する。何かあったら教えてくれ」
ベリアルはそう言って、スーパーの入口まで歩いていく。
スーパーの入口は自動ドアではなく、手動で開けるガラスの扉だ。
「鍵は?」
「管理者から借りている」
ベリアルはポケットから鍵を取り出し、入口の扉を開けた。
「血の匂いはどっちだ?」
扉を開けると、ベリアルがカギをポケットにしまいながら聞いてくる。
「奥ね。あっち」
私は血の匂いがする方向を指差した。
「行くぞ」
ベリアルは私が指差した方向を見ると、歩き出す。
私もウィズを抱えたまま、ベリアルについていった。
スーパーはすでに閉店しているため、棚はあるが、商品はない。
だが、所々、壁にスプレーでアートっぽい落書きがしてあった。
「不良のたまり場だったのかしら?」
私はそんな壁を見て、壁にスプレーといえば、不良だろうと思った。
「そのようだな。実際、行方不明者の中には若い男が2人いる。写真を見たが、まあ、そんな感じだった」
ここでたむろって、天使か何かにやられたのかな?
「ここが閉店したのはいつじゃ? そこまで散らかっておらんし、長い間、放置されているようには見えんが…………」
ウィズが言うように、落書きこそあるが、廃墟という感じではない。
閉店してからそこまで時間は経っていないっぽい。
「ここが閉店したのは3ヶ月前だ。この辺りでそれらしい行方不明者が出たのも大体それくらいだ」
「そうか…………血の匂いが強くなってきたぞ。そこの扉の奥じゃな」
ウィズがスーパー奥にあった扉を見る。
私もそこから血の匂いを感じていた。
それと同時に…………
「魔力は感じるか?」
ベリアルが私達に聞いてくる。
「妾は感じないな」
ウィズは魔力を感じ取れないようだ。
「………………私も感じない」
「…………そうか。まあいい。行くぞ」
ベリアルは私を見つめていたが、すぐに前を向き、扉に歩いていく。
私もベリアルに続き、扉に向かっていった。
そして、ベリアルが扉を開け、中に入ったので、私達も続く。
部屋の中は店員の休憩室のようで、机と椅子が置いてある。
机の上にはまだ、新しめのお菓子や飲み物が散乱していた。
「ここで飲み食いしていたのか……?」
ベリアルが机の上にあるお菓子の袋を手に取った。
「じゃない? 天使か悪ガキのどっちかはわかんないけど」
「ふむ」
ベリアルは考えるようなそぶりを見せている。
だが、すぐに部屋の奥にある扉を見た。
「あそこか?」
ベリアルが扉を見つめたまま、聞いてくる。
「だねー」
「じゃな」
ベリアルは持っていたお菓子の袋を机に置き、奥の部屋に向かった。
そして、扉を開け、中を覗く。
「1、2、3…………6人か……行方不明者の数と一致するな」
ベリアルはそう言い、部屋の中に入っていった。
それを見た私も奥の部屋に向かい、部屋の中を覗く。
そこには血だらけで横たわる数人の男の死体があった。