第040話 悪魔は悪いヤツ。多分、辞書にもそう書いてある
私はロビンソンに選んでもらったパソコンとカメラと、サマンサが選んだテレビをアイテムボックスに入れ、持ち帰った。
家に帰ると、ウィズに指示されるがまま、パソコンとテレビを設置した。
なお、パソコンは床に直置きだ。
台なんか持ってないし、使うのはウィズだから別に良いだろう。
というか、ウィズに携帯を買った意味がないような…………
使わないならサマンサにあげようかな…………
私は買い物や家電の設置で疲れたので、ベッドにダイブし、新しいテレビをつけ、ニュースを見る。
ニュースはつまらないものばかりだが、新しくて大きいテレビだと、楽しく見えた。
大きなベッドの上でサマンサと一緒にゴロゴロとテレビを見ていると、キミドリちゃんが帰ってきた。
私達はキミドリちゃんが買ってきたご飯を食べ、お酒を飲み、就寝した。
翌日は家から一歩も出ずにゴロゴロしながらゲームをする。
サマンサは自室で本を読んでいる。
この世界の勉強をしたいらしい。
お姫さまって、すごいね。
ウィズはひたすらパソコンをいじっている。
何が楽しいかわからない。
キミドリちゃんは借金を返すためにダンジョンに行っている。
頑張れとしか言えない。
翌日も同じように皆、思い思いのことをしていた。
そして、その次の日である金曜日はキミドリちゃんと共にサマンサも出かけた。
探索者の実技試験があるのだ。
2人が出かけた後、私とウィズは怠惰に過ごしている。
ゲームやパソコンをし、ご飯を食べ、お酒を飲みながらゲームやパソコンをする。
これを幸せと呼ばないで何と呼ぶ?
私のここ数日は久しぶりの休みを満喫できるものとなっていた。
夕方になると、キミドリちゃんとサマンサが帰ってくる。
サマンサは当然のごとく、合格した。
これで晴れて、サマンサも探索者となったのだ。
そして、その翌日、キミドリちゃんとサマンサは探索者ランクを上げるためにダンジョンに行く。
私はベリアルの頼みで調査となる。
実を言うと、私とウィズが外に出るのは3日ぶりである。
正直、行きたくない……
「はるるん様、私もなるべく早く、Dランクになりますので、一緒にダンジョンに行きましょうね!」
サマンサは家を出る前、玄関で靴を履きながら笑顔でそう言ってきた。
本当にかわいいなー。
「うん。キミドリちゃん、サマンサをお願い」
私はサマンサと一緒に出掛けるキミドリちゃんにサマンサのことを頼む。
「任せておいてください。まあ、サマンサさんの方が格上なんですけどね。私、全然、魔力が上がんないし」
キミドリちゃんは結構な頻度で私の血を飲んでいるが、まだ、階級なしだ。
だが、まだ、吸血鬼になって2週間程度だし、そんなに早く、階級を得るほどの魔力が上がれば、誰も苦労はしない。
「キミドリちゃんは気が早いよ。専門のメイジであるサマンサですら階級持ちになるには数年かかったんだよ? というか、キミドリちゃんに魔力はあまりいらないと思う。キミドリちゃん、普通に強いし」
階級なしが伯爵級天使を倒せるのだ。
普通に考えて、キミドリちゃんは強い。
「でも、スライムAなんでしょ?」
気にしているのはそこなのか……
「じゃあ、ドラゴンAでいいよ」
「うーん、有象無象は嫌だなー」
ドラゴンを有象無象と言える実力があるくせに、何をねだってるんだろう?
「まあ、地道に頑張ってよ」
「ハルカさんの血をいっぱい吸おー」
吸血鬼というより、蚊だな。
「はるるん様も大丈夫かと思いますが、お気を付けて」
サマンサはメイドのようにうやうやしく頭を下げた。
「うん。ウィズやベリアルも一緒だし、大丈夫だよ」
「まあ、それもそうですね。それでは、私達は行ってまいります」
「いってきまーす」
サマンサとキミドリちゃんは玄関のドアを開け、出ていく。
「いってらっしゃーい」
私はそんな2人に手を振り、見送った。
「おぬしも準備した方がいいぞ」
「そうね」
2人を見送ると、私はリビングに戻り、着替え始める。
天使と戦闘になるかもしれないが、ダンジョンでもないのに、昼間からドレスを着る気にはなれないのだ。
私が着替え終え、鏡台に座り、櫛で髪を解いていると、携帯が鳴った。
「ベリアルー?」
私は鏡台の前にいるため、電話を見ることが出来なかったため、ウィズに聞く。
「じゃな。出るわ」
「おねがーい」
私がお願いすると、着信音が止まった。
『もしもし、おはよう。今、着いたところだ。下にいるから準備が出来たら降りてきてくれ』
ベリアルの声だ。
「うむ。すまんが、ハルカはまだ準備中だ。終わり次第、降りる」
『まだ約束の時間ではないし、女性は時間がかかるのものだ。ゆっくりでいいぞ』
ベリアルって、紳士ー。
さすがは既婚者だ。
まあ、正体は≪煉獄≫の二つ名で恐れられたバケモノなんだけどね。
ベリアルがそのまま電話を切ったため、私はゆっくりと髪を整える。
「いや、待たせておるのだから、急いだほうが良くないか?」
ウィズが鏡台に座る私の膝の上に乗ってきた。
「ゆっくりでいいって言ってたじゃーん」
「それはまあ、そう言うじゃろ。髪なんかどうでも良くないか? デートをするわけでもあるまいし」
「ウィズは猫になっちゃったから女の子の心を忘れたんだね」
ちゃんと手入れしないとダメだよ。
そうだ! 今度、猫用のブラシを買ってこよう!
「妾は元からあまり気にせんかったが…………そういえば、おぬしら吸血鬼共はやたら身なりを気にしておったな」
「元貴族階級の人間が多いからねー。昔、流行ったらしいよ。永遠の若さを欲しがる令嬢やマダムたちが吸血鬼になりたがるの」
不純かもしれないが、アトレイアの貴族の女性は美しさと若さが絶対なのだ。
おばあちゃんになっても、その欲求は終わらない。
死ぬまで美しさを追い求めるのが貴族令嬢の嗜みらしい。
私の眷属の子を引き取ってくれたセーラもその一人だった。
見た目が完全に子供なセーラは永遠の若さを手に入れたが、今でも、美しさを追い求めている。
「そのくせ、引きこもるんじゃな」
「太陽が嫌だし、所詮は自己満足よ」
男に見せるわけじゃない。
ただ、美しくなりたい。
誰よりも輝いていたいのだ。
って、セーラが言ってた。
私はあまり興味がない。
だって、貴族じゃないし。
高貴だけど、ド庶民だもん。
「理解できん」
ウィズはまったく気持ちがわからないようで、首を横に振り、呆れる。
「あんたら魔族の闘争心の方が理解できないわ……うーん、こんなものかなー」
鏡の向こうには、金髪をまとめた赤目の少女が映っている。
「いいと思う。おぬしは不器用のくせに、髪をまとめるのが上手じゃな」
「こっちの世界の髪の長い女の子は誰でもできるよ。多分、キミドリちゃんの方が上手」
キミドリちゃんはいつも1本にまとめているだけだが、やろうと思えばできるだろう。
「ふーん、そんなもんかー。今度、サマンサにもやってやれ。喜ぶと思うぞ」
「そうしようかなー」
サマンサはかわいいし、似合いそう。
今度、やってあげよー。
私はサマンサの髪をいじることに決めると、鏡台の椅子から立ち上がった。
「行くか……」
「だねー」
私は準備を終えたので、家を出ると、エレベーターで1階のロビーに降りる。
そして、外に出ると、そこには白いセダン車が止まっているのが見えた。
私は運転席に乗っている人を確認し、車の助手席に乗り込む。
「おはよー。おまたせー」
「おはよう。問題ない。とてもよく似合ってると思う」
うーむ、こいつ、本当にベリアルか?
ベリアルは私がシートベルトをしたことを確認すると、車を発車させる。
「あんた、やたら紳士よね? 前からそんなんだったっけ?」
初めて遭遇して、殺されそうになった時は恐怖100パーセントだったので、あまり覚えていない。
お菓子をくれたことは覚えているのだが……
「いや、アトレイアにいた頃は他の悪魔と同様に戦いのことしか頭になかった。こっちに転生した当初も同様だ。小学校や中学の時はケンカばかりだったな」
ヤンキーかな?
今はその筋の人に見えるんだけど……
「高校で変わったの?」
中学まではケンカばかりということは、高校で変わったということだ。
勉強にでも目覚めたのかな?
それともラグビー?
「今の妻に出会ったのだ」
あ、もういいや。
「この話は終わりね。そういうのはいらないから」
「そうかね? まあ、人に話すことではないか」
そそ。
そういうのは奥さんと夜にしっぽり話しなさい。
あの頃はあーだったねー、的な。
「ところで、気になっておったんじゃが、おぬしは何で死んだのじゃ?」
私の膝にちょこんと座っているウィズが尋ねる。
「そうそう。私もそれが気になってた。あんた、大公級の大物じゃん。当時は勇者もいなかったし、何で死んだの?」
大公級悪魔で二つ名持ちって、最強格じゃん。
「ふむ。嫌なことを思い出させるな…………それ以上の大物に挑み、負けただけだ」
大公級より大物って、王級!?
「え? あんた、王級に挑んだの? バカじゃない?」
王級のくせに弱い私が言うのもなんだけど、王級は桁が違う強さだ。
「若気の至りかな…………まあ、若くもなかったがね。簡単に言えば、増長していたのだ。負け知らずだったからな」
まあ、二つ名持ちの大公級なら増長もするか……
なら、仕方がないのかな?
「誰に挑んだのじゃ? 王級天使のルシフェルか?」
「いや、ルブルムドラゴンだ」
バカだ……
やっぱバカだ。
ドラゴンはあらゆる種族で最強種である。
その王級に挑むとか、バカ以外の何者でもない。
「そら死ぬわ」
「よく挑もうと思ったのう……」
私とウィズはさすがに呆れた。
「王級と戦いたかったんだ。しかし、王級は皆、姿を現さないから場所がわからなかった。ただ唯一、場所がわかるのが神の山に住む王級竜、≪支配者≫のルブルムドラゴンだった」
それで戦って、死んだのか……
「善戦した?」
私はルブルムドラゴン相手に大公級悪魔がどこまでやれたのかが気になった。
「数分は耐えた」
「すげー。私、3秒」
3秒でパクッ。
「おぬしは好かれておったぞ」
「髪が金だからね! 蒐集されるとこだったわ!」
ドラゴンはカラスと同じで光るものを集める習性がある。
それは主にお宝だ。
ドラゴンの巣には金銀財宝が大量に眠っているのである。
だから、人間の冒険者は最強種であるドラゴンに挑むのだ。
もし、ドラゴンを倒せたら金銀財宝はもちろんのこと、捨てるところがないと言われるドラゴンの素材も手に入る。
ドラゴンを倒せば、一気に億万長者になれるらしい。
そんなドラゴンの親玉であるルブルムドラゴンもその習性は変わらない。
挑む者はいないけど。
そんなルブルムドラゴンは私が女の子を探しに空を飛んでいると、いきなり襲い掛かってきたのだ。
キラキラ光る私の頭に惹かれて、最強竜が私に突進してきた。
私は魔法を放ったが、まったく通じず、3秒後には口の中だった。
速攻で逃げたね。
「ルブルムドラゴンに襲われたのか…………それは災難だったな」
ベリアルは苦笑している。
「私、何もしてないのに…………あんたといい、どうして、私を襲うのかしら?」
「私の時もそうだったが、君は無警戒すぎる。経験値の塊である吸血鬼が空をトロトロと飛んでいれば、誰でも襲うだろう」
私、そんなにトロくないと思うけどなー。
「こっちの世界に帰ってきて良かったわ」
本当にアトレイアは修羅の世界だ。
私のような小心者が生きていい世界ではない。
「しかし、ルブルムドラゴンに襲われて、生き残れたのはすごいな」
ベリアルは生存した私を褒めてくる。
「私、死なないし。真祖の吸血鬼をなめるんじゃないわよ」
私、すっごい!
「真祖の不死か…………エターナル・ゼロが最強と言われたゆえんだな。それなら君も倒してしまえばよかろう」
「死にはしないけど、こっちの魔法も効かないのよ。永遠にパクッか、ブレスで焼け死に続けるのなんて、嫌に決まってんじゃん」
私、よっわい!
「そんなものか……」
「ハルカは性格が戦闘向きじゃないし、仕方があるまい」
むしろ、現代日本人で戦闘向きの性格だったらヤバいでしょ。
危険人物確定だ。
「あんたらが変なの! 少なくとも、この世界では私の方が常識人よ」
絶対にそう!
「どうしてだろう。言っていることはわかるんじゃが、首を縦に振れない妾がおる」
「そこは完全に同意できる」
悪魔どもめー!!