第037話 新居にお引っ越し
サマンサと買い物をした私はコンビニに寄り、ウィズやキミドリちゃんの分も合わせて適当なご飯やおつまみ、お酒を購入し、帰宅した。
新居に帰ると、エアコンの冷風が部屋中に行き渡ったようで、部屋の中は完全に涼しくなっていた。
「おかえりー」
ウィズがリビングの真ん中で堂々と迎える。
「ただいま。キミドリちゃんは?」
広いリビングにはウィズしかおらず、キミドリちゃんの姿が見当たらない。
まだ、実家から帰っていないのかな?
「キミドリはちょっと前に帰ってきて、今は部屋で荷物を広げておる」
なるほど。
仕事が早いな。
「アパートの荷物と買ってきた物をアイテムボックスに入れてるから私もそうするかな」
最悪、ベッドと冷蔵庫は設置しないといけない。
「あ、はるるん様、私も自室でベッドや買っていただいたものを整理してきます」
サマンサもベッドのセッティングや整理をしたいらしい。
「いってらーい」
私が許可を出すと、サマンサは嬉しそうに自室に向かった。
「嬉しそうじゃのう」
ウィズはサマンサの後ろ姿を見ながらつぶやく。
「色々と買ってあげたし、買い物も楽しかったしねー」
「そうか…………ベッドは買ったのか?」
「そりゃねー。出していくよ」
私は購入したベッドやアパートから持ってきたものを出していく。
冷蔵庫などのキッチン周りのものは対面式キッチン内に置くが、テレビやタンス、テーブルなんかは適当に置いていく。
レイアウトなんかは一切、気にしない。
ただ、堕落に生きるための配置だ。
私が配置を終え、一息ついていると、キミドリちゃんとサマンサがリビングにやってきた。
「うわー。また大きいベッドを買いましたねー」
キミドリちゃんが私が買ったキングサイズのベッドを見ながら驚く。
「キングだからねー」
「妾達に相応しいな」
王級だもんね。
えっへん。
「まあ、いいですけど」
「キミドリちゃんは終わったー?」
私はキミドリちゃんの進捗状況を聞いてみる。
「ひとまずは、ですね。少しずつやっていきます」
まあ、そうだろうな。
こういうのは半日で終わることじゃない。
「サマンサは?」
サマンサの方の進捗状況も聞いてみる。
「ベッドの設置をしましたので、私もとりあえずです」
まあ、この子は色々と揃えるところからだろう。
色々と付き合ってあげようじゃないか。
「よーし、じゃあ、新居のお祝いをしよー」
私は引っ越しパーティーをするために、買ってきた食べ物やお酒を出していく。
私が食べ物を出すと、キミドリちゃんが食べ物を並べていく。
そして、私がお酒を出すと、サマンサがコップとワイングラスとお皿を持ってきて、それぞれ注いでいった。
準備を終えると、キミドリちゃんとサマンサがグラスを持ったので、私もグラスを取り、静かに立ち上がった。
「今宵、我々は偉大なる一歩を踏みだした…………見よ! この夜景を!! これが我らが崇拝する闇の世界の神である!! 我らはこの神に祝福され、あの6畳アパートを抜け出した。そして、今日からこの100万円もする賃貸マンションで堕落して生きることが許された。だが! だがである!! これは始まりに過ぎない! 我らの栄光なる堕落は始まったばかりなのだ!! さあ、同胞たちよ! 盃を持て! そして、闇に掲げよ!! 我らの栄光を神に祈るのだ!! よーし、かんぱーい」
「かんぱーい」
「かんぱーい!!」
「……かんぱーい」
私達はそれぞれの飲み物を飲む。
「あー、食べよ、食べよ。途中で着地点を見失っちゃったわ」
コンビニのチキンって、美味いな。
「いや、ちゃんとまとまっておったぞ。長いなーとは思ったが」
ウィズは猫缶を食べている。
「よくそういうのを思いつきますよね。でも、盃を持てって言われた時にえ?って思いましたよ。皆、最初から持ってるのに」
キミドリちゃんは焼き鳥を食べている。
「素晴らしいです。かっこいいと思います。まあ、まだ、7時なので暗くないなとは思いました」
サマンサはプリンを食べている。
皆、色々なものを食べ、私の音頭を称賛してくる。
一言ずつ、いらんけど…………
私達は思い思い、食べ物や飲み物を平らげていく。
もっとも、全部、コンビニの出来合いだ。
「サマンサって、料理できる?」
私は豪華な対面式キッチンが気になったので、サマンサに聞いてみる。
「いえ、すみません。そういうことは他の者がしてきましたので」
そりゃそうか。
お姫様だもんね。
専用のシェフとかいるよね。
「誰も出来んのか……あんなに立派なキッチンがあるのに」
ウィズが呆れているが、あんたも出来ないでしょ。
でも、確かに無駄だ。
誰も使わないし、使えない。
もったいないなー。
「カップラーメンを作るのにお湯を沸かしますから使いますよー」
キミドリちゃんがフォローになっていないフォローをする。
多分、システムキッチンさんは泣いているだろうな。
「まあ、いいじゃん」
現代は料理が出来なくても大丈夫なように出来ている。
「それより、これからどうしますー?」
キミドリちゃんが焼き鳥を頬張りながら漠然とした質問をしてくる。
「どうって?」
「まあ、これからの目標です。私達は引っ越しを目標にやってきたじゃないですか? 次の目標があると、励みになると思うんです」
なるほどねー。
でも、キミドリちゃんには借金返済という明確な目標があると思う……
「キミドリちゃん、あのさ…………」
「…………言いたいことはわかります。私は地道に返していきますよ。個人の話ではなく、パーティーというか、この4人の目標です」
「うん…………でも、まあ、お金儲けじゃない? 豪邸を建てるって、ウチの魔王様が言ってるし」
豪華さが好きな猫さん。
「まあ、シャンデリアは欲しいな」
無駄に豪華さが好きな猫さん。
「お金かー。まあ、そうですよねー。となると、11階層以降ですか?」
こういう話題になると、元ギルマスだけあって、まともなんだよなー。
ほっぺに焼き鳥のタレがついてるけど……
「だねー。もうユニコーンは飽きたよ」
「私やウィズさんの方が飽きてますよ……」
2人は400匹以上も狩ってたもんね……
「キミドリちゃん、悪いけど、サマンサを連れて、Dランクまで上げてくれない?」
私はこれからの事を考え、キミドリちゃんにサマンサの事をお願いする。
「いいですよ。サマンサさんが資格を取れるのが金曜ですので、ハルカさんがいない土日でDランクにしておきます」
頼もしい。
言ったら悪いけど、キミドリちゃんのくせに頼もしい。
「土日だけでできる?」
「Eランクの100位以内は簡単なんです。大半が資格を持っているだけの幽霊探索者ですので」
幽霊?
こわっ。
「死んじゃったの?」
夏だからって、そういうのはいらないよ。
まあ、スケルトンもレイスも不死友達だけど。
「いえ、幽霊部員のほうの幽霊です。資格を取ったのはいいけど、やっぱり怖いって感じで、資格だけは持ってるっていう人が多いんです。やる気ある人はすぐにDランクになりますし、Eランクは本当にレベルが低いので、Dランクには簡単に上がれます」
なるほどねー。
確かに、そういう人は多いだろう。
アトレイアでも冒険者になったものの、魔物が怖くて何もできないっていう人はいた。
そう、1週間でクビになったかつての私のこと。
「じゃあ、お願い。サマンサもそれでいい?」
サマンサの意見も聞いておこう。
「はい。でも、私、受かりますかね?」
「大丈夫。実技は有って無いようなものだし、筆記は職員の人が答えの紙を持ってるから魔法で盗み見ればいいよ」
「わかりました。やってみます」
うんうん。
サマンサなら余裕でしょー。
「やっぱりカンニングしてたんですね。ハルカさんが100点を取るからそうだろうなーって、思ってました」
あ、ここに私の時の試験官がいた。
「やったのはウィズだけどね」
私はすぐに責任転嫁した。
「妾のせいにするな。おぬしだって、最初からカンニングで行くって言っておったではないか」
だって、勉強とかしたくないし。
「まあ、別にいいんですけどね。ギルド側だって、あの試験をなくした方がいいと思ってますし、私らも試験官をやる時はやる気は皆無ですし」
キミドリちゃんはギルマスだった人とは思えないセリフを言う。
「やっぱそうなんだ」
「ええ。ちなみに、EランクからDランクへの昇格もです。実質、名前と成果をざらっと確認して、ハンコをポンッです」
まあ、あの職員の口ぶりからして予想はつく。
「じゃあ、余裕そうだね。皆がDランクになったら11階層に行こう」
そして、お金を稼ごー。
「今週はどうするんです?」
今日は日曜日。
サマンサの試験日である金曜までは時間がある。
「休み。キミドリちゃんは頑張って借金を返しなよ。私は寝てるか、サマンサと買い物に行くから」
まだ、色々買ってあげないとなー。
「いや、まあ、そうしますけどね。あ、でも、一日ほどサマンサさんを借りますよ。筆記と面接の試験を受けないといけませんから」
それもそうか。
「だってー、サマンサー」
私はサマンサに振る。
「わかりました。よろしくお願いします」
サマンサは礼儀正しく、頭を下げる。
でも、ほっぺにチョコがついてる。(お前もか……)
この子、甘いものしか食べてないな。
「いえいえー。いつがいいです? 私はいつでもいいので合わせます」
キミドリちゃんがサマンサに聞く。
「早い方がいいので、明日はどうでしょうか?」
「おけー。じゃあ、明日、行きましょう」
「お願いします」
仲良くねー。
「はるるん様は土日に天使捜索でしたね。はるるん様なら問題ないと思いますが、気をつけてください」
「大丈夫だよー。ウィズもベリアルもいるし」
この2人がいれば、問題ない。
武闘派の上級悪魔だし。
「この前みたいなうざいヤツじゃないといいですねー」
キミドリちゃんがケラケラ笑いながら言う。
こいつは足を切られたのに、何故、笑えるんだろう?