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第035話 サマンサは甘いものが好き。私も好き


 精算を終え、目標額に到達した私達はギルドから出た。


 サマンサは日陰におり、いつもの無表情で待っていたが、私達、というか、私を見ると、パーッと笑顔になる。


「終わりました? 早かったですね?」


 サマンサはすぐにいつもの無表情になって、聞いてきた。


「精算だけだからね。じゃあ、ベリアルとの待ち合わせ場所に行こうか」


 ベリアルとは昨日と同じ喫茶店で話をすることになっている。

 微妙に遠い。


「ふっふっふ。皆様方はまた電車に乗るつもりですか?」


 キミドリちゃんがムカつく顔としゃべり方をしながら聞いてくる。


「そりゃあ、遠いもん。昼間に霧になりたくないし」


 別に死にはしないし、ダメージを受けるわけじゃないが、単純に不快なのだ。


「私にはねぇ、電車なんかより優れた乗り物があるんですよ! カモーン!!」


 キミドリちゃんはそう言って、ギルドの裏に回るために歩き出した。


「キミドリさんは急にどうしたんですか?」


 私が内心うぜーなと思いながらついていってると、サマンサが聞いてくる。


「キミドリちゃんは車が大好きなの。めんどくさいからあまり触れない方がいいよ」

「はぁ?……わかりました」


 サマンサはよくわかってなさそうだが、頷いた。


 私達がギルドの裏にある職員専用の駐車場に行くと、そこには10台近くの車が止まっていた。

 その半分以上は高そうなスポーツカーだ。


 もしかして…………


「キミドリちゃん、車をここに置いてるの?」

「です! 家を追い出されましたから! ハルカさんの家、駐車場ないし」


 まあ、確かに駐車場はないが、だからといって、普通、ここに止めるか?


「いいの?」

「何とかお願いしました。まあ、車通勤の人は少ないですし」


 職権乱用では?

 もうギルマスじゃないけど……


「まあ、いいならいいけど……」

「では、では! どの子に乗りたいです?」


 めんどくさいことを言い出したな……

 どれも同じだよ。


「妾はこの黒いのがいいなー」


 ウィズさんは希望があったようだ…………


「おー! インプちゃんを選ぶとはお目が高い!」


 どうせ、何を選んでも、そう言うでしょ…………

 全部、好きで持ってるんだから。


「私はよくわかりませんので、シュテファーニア様に従います」


 サマンサはウィズの意見に乗っかった。


「私もそれでいいよ…………」


 私も乗っかった。


「では、インプちゃんで行きましょー! ささ、乗った、乗った!!」


 私達はめっちゃご機嫌なキミドリちゃんに促され、車に乗り込む。

 そして、相変わらずのスピードでベリアルとの待ち合わせ場所であるホテルを目指した。


「ところで、シュテファーニア様って、何ですか?」


 キミドリちゃんが運転をしながら聞いてくる。


 そういえば、キミドリちゃんにも言ってないし、サマンサにも改名したことを言ってなかった。


「妾のことじゃ。サマンサ、妾はハルカが名前を憶えてくれないという悲しい理由で名前をウィズに変えた。だからこれからはウィズと呼べ」


 ごめんね……


「そ、そうなんですか…………えーっと、魔族の方は名前を重んじると聞いているのですが、よろしいのでしょうか?」

「その重い名前を憶えてもらえないのだから仕方がないじゃろ…………」


 本当にごめんね…………


「わ、わかりました。ウィズ様ですね。とてもいい名前だと思います」

「だよね!」


 サマンサはわかってるなー。


「名前くらい覚えましょうよー。ダメですねー…………チッ!! 私のインプちゃんを抜くとはいい度胸だ!!」


 ダメなのはあんただよ……



 私達は乱暴なキミドリちゃんの運転でホテルまでやってきた。

 そして、駐車場に車を置き、喫茶店に向かう。


 喫茶店に入ると、日曜の昼時だというのに、お客さんは一人しかいない。

 もちろん、その唯一のお客はベリアルである。


「あんた、いちいち、貸し切るのをやめたら?」


 私はベリアルの対面に座ると、注意する。

 なお、サマンサは私の隣に座り、キミドリちゃんはベリアルの隣に座った。

 ウィズは私の膝の上だ。


「あまり人に話したくない話だし、静かな方が良かろう。それに飲食店に猫はマズい」


 まあ、そうだけど…………


「お金持ちは違うわねー」

「君もこんなマンションに住めるのだから持ってはいるだろう。ほら、これが書類だ」


 ベリアルはそう言って、封筒を渡してきた。

 私はそれを受け取り、中身を見る。


 中身はマンションの契約書などの書類だった。


「もう借りたの!?」


 昨日の今日だよ!?


「早い方がいいと思ってな。まあ、こういう所とも繋がりはあるんだよ」


 すげー。

 ベリアルさん、すげー。


「ほう……さすがに早いのう」


 ウィズは目を細め、ベリアルを褒める。

 でも、嬉しいのはわかるんだけど、あまり外でしゃべらないでほしいな…………

 一応、店員さんも近くにいるわけだし。


「今日からでも住めるようにはしてある。とはいえ、家具はないからその辺は任せる」


 仕事が出来るおじさまだなー。


「ありがとー」


 私はベリアルに対し、素直にお礼を言った。


「いやいや、気にするな。それと、君が≪少女喰らい≫の眷属の≪狂恋≫だな。先日はすまなかった」


 ベリアルはサマンサに謝罪をする。


「いえ、先に手を出したのは私です。こちらの方こそ申し訳ございませんでした」


 サマンサはその場で立ち上がると、綺麗に腰を折り、謝罪した。


「じゃあ、まあ、これでおっけーっと。ベリアル、また、お願いがあるんだけど…………」


 私はベリアルとサマンサの闘争の話はさっさと流したかったので、別の話に切り替える。


「まあ、その前に何か頼みたまえ。ちょうど昼時だし、貸し切りにしている以上、何かを頼まなければ失礼だろう」


 そうかもー。


「おごり? 長官、おごりですよね? 私、お金がないんです!」


 図々しさの塊であるキミドリちゃんが隣に座るベリアルを上目遣いで見る。


「もちろんそうだ。好きなものを頼みたまえ」


 元部下の失礼さと図々しさに慣れているであろうベリアルは無表情で許可をした。


 私達はそれぞれメニューを見て、注文をする。

 私はチョコレートパフェを頼んだ。


 それぞれ注文したものが届くと、それらを食べ始める。


「それで頼みとは?」


 改めてベリアルが用件を聞いてきた。


「サマンサを探索者にしたいんだよねー」


 私は単刀直入に話を切り出す。


「なるほど。身分を証明できるものがないということか。それについては、こちらも話すつもりだった。≪狂恋≫には探索者になってもらう予定だったのだ」


 私の言葉だけで、ベリアルはすべてを理解したようだ。


「仕事が早いねー。でも、探索者なんだ……」


 こっちはそのつもりだから別にいいけど、何でだろ?


「私が手を回せるのがギルドなんだ。探索者カードがあれば身分は証明できるだろ」

「あんなカードが身分証明になんの? 本名すら書いてないんだけど」


 探索者カードに書かれているのは探索者ネーム、二つ名、パーティー、ランク、順位ぐらいで、住所どころか、本名すらない。

 あんなもんが身分証になるとは思えない。


「あれはプライバシーの観点から見た目はそういう仕様が、ちゃんとICチップが埋め込まれていて、機械で読み取れるようになっている。君も探索者になる時に個人情報を書いただろう」


 そういえば、色々書かされたな。


「じゃあ、それでお願い」

「話は通しておく。後日、試験を受けさせたまえ」


 あ、試験は受けないとなんだ……

 まあ、サマンサなら大丈夫か……


「りょーかい。サマンサもそれでいいよね?」


 私は隣に座っているサマンサに振る。


「え? あ、はい。ありがとうございます」


 サマンサはイチゴパフェに夢中でロクに話を聞いていなさそうだ。


 この子、甘いものが好きだったんだな…………

 30年も一緒にいるのに知らなかった。


「よろしい。話は以上かな?」

「うん。終わりー」

「そうか。実はこちらからも頼みがある」


 私達の用事が終わると、今度はベリアルも用事があるようだ。


「なーにー? 天使がらみ?」


 私はパフェを食べながら適当に予想する。


「そうだ」


 あ、本当に天使だったし。


「何かわかったのか?」


 ウィズが天使という言葉に反応した。


「実は郊外に潰れたスーパーがあるのだが、そこに不審者がいるという情報が入った」


 不審者?


「なーに、変態さん?」

「それは不明だが、その街は行方不明者も出ているらしい。調査に行きたいのだが、私は探知魔法が苦手でね。その点、君は優れているだろう。力を借りたい」


 ふむふむ。

 ベリアルは人間であることを見破った私のことを評価しているのだろうな。


 めんどいけど、色々と話を通してもらっているし、断りづらい……

 まあ、今後も何かを頼むことはあるだろうし、権力者であるベリアルの頼みくらいは聞いておくか。


「いつ?」

「次の土日でお願いしたい。本当はもっと早く調査をしたいのだが、こちらも立て込んでてね」


 まあ、権力もお金も持っているから忙しいんだろうな。


「わかったー。天使を放っておくわけにもいかないからねー」


 あの性悪共が何を企んでいるのかもわからないし、どれだけの規模かもわからない。

 この前のハワーとやらは伯爵級ではあったが、二つ名持ちではなかった。

 だが、もしかしたらガチの上級天使もいるかもしれない。


 こちらにはベリアルやウィズがいるから大丈夫だとは思うが、私も手伝いくらいはした方がいいだろう。


「感謝する。では、土曜の朝に迎えに行くから…………そのマンションでいいか? それとも今のアパートのほうがいいかね?」


 アイテムボックスがあるし、1週間もあれば、引っ越しできるかな。


「新しいマンションでお願い」


 私はクーラーのあるマンションを借りて、ウィズとキミドリちゃんが1週間も我慢できるとは思えず、新居でお願いすることにした。


「了解した」


 私って、こっちの世界に戻ってから働いてばっかだなー。

 そうだ! 今週は土曜までお休みにしよ!


 私はすでにイチゴパフェを食べ終え、羨ましそうに私のチョコレートパフェを見るサマンサを無視して、残っているチョコレートパフェを平らげた。

 昨日のメロンパフェは残しちゃったし、今日は全部食べると決めているのだ。


 恨めしそうに見ないでよ……

 というか、どうせベリアルのおごりなんだからもう1個、頼めばいいじゃん。

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