第034話 目標達成!
「ハルカ、いい加減、起きろ」
耳元にウィズの声が聞こえてきた。
「うーん、眠いよー」
私はウィズの声に反応し、何とか上半身を起こすと、隣には何も着ていない小柄な黒髪の少女が眠っていた。
もちろん、その全裸少女はサマンサである。
どう見ても、ローティーンだが、こう見えて30歳を超えている。
「サマンサー、朝だよー」
私はスヤスヤと寝ているサマンサの肩に触れ、揺り起こそうとする。
「疲れたんだろう。もう少し寝かせてやれ。少しは加減すればよいのに」
おそらく、昨日の情事の声を聞いていたであろうウィズはやれやれといった感じだ。
「サマンサが求めてきたんだよ。クスクス、可愛らしくおねだりちゃって」
「まあ、サマンサはおぬしに執着しておったし」
それは嬉しい。
「まあ、可愛いものね。それより、今、何時?」
私は寝ているサマンサを見ていたが、時間が気になったため、サマンサから目線を切り、ウィズを見た。
「9時じゃな。シャワーでも浴びてこい。その間にサマンサを起こしておく」
「お願いね」
私はウィズにサマンサをお願いし、お風呂に行き、シャワーを浴びる。
うーん、それにしても、サマンサがこっちの世界にまで追ってくるとは…………
でもまあ、嬉しいことだ。
新居予定のマンションは部屋も多いし、住まわせようかなー。
でも、住んでくれるかな?
アトレイアにいた時もサマンサは私と一緒に住もうとはしなかった。
なんでも、一人で過ごすことが好きらしい。
とはいえ、この世界の事を何も知らないサマンサを一人にはできない。
うーん、どうしよう?
私はこれからの事を考えながらシャワーを浴び終えると、服を着て、部屋に戻る。
すると、サマンサが布団の上で上半身を起こしシーツで身体を隠していた。
「サマンサ、起きた? シャワーを浴びてきなよ」
「あ、はい」
サマンサはそう言うと、立ち上がり、裸のまま、フラフラと部屋を出ていった。
「吸いすぎたかな?」
「まあ、それもあるが、疲れたんじゃろ」
もうちょっと手加減すれば良かったかな?
サマンサ、ベリアルのせいで、病み上がりだし。
なにせ、腕ごと胴体を真っ二つって言ってたし、大丈夫かな?
「いやー、昨日はすごかったですねー」
私がサマンサを心配していると、キミドリちゃんが押し入れから出てきた。
「ごめんね。そんな所で寝かせて」
私はこんな暑い夏に通気ゼロの押し入れで1泊させたことを謝った。
「いや、まあ、いいんですけどね。ただ、まさかおっぱじめるとは思いませんでしたよ。文句も言えませんでした」
「あの子は定期的に愛してあげないと、嫉妬するから」
ちょっと放っておくと、すぐに拗ねる子だ。
「それは見た感じでなんとなくわかりますけど…………しかし、あの子、声を出しすぎでしょう…………しかも、とんでもないことを言ってませんでした? 首を絞めて、とか…………」
うーん、聞こえてたかーって、そりゃそうか…………
「あの子、夜はドMだから…………」
昼は他人を見下すクール系なのにね。
「私は見なかったことにします」
というか、覗いていたのか…………
その後、私は髪を乾かすために、ドライヤーをかけ、キミドリちゃんが淹れてくれたコーヒーを飲んでいた。
「あ、あの、はるるん様、昨日は申し訳ありませんでした」
サマンサの声がしたので、振り返ると、髪が濡れた素っ裸のサマンサが立っていた。
もうシャワーを浴び終えたらしい。
「こっちにおいで」
「はい」
私はサマンサを手招きすると、鏡台の前に座らせ、ドライヤーをかけてあげる。
「身体の方は大丈夫?」
私はドライヤーでサマンサの長い髪を乾かしながら体の調子を聞く。
「は、はい。ちょっとダルいですが、問題ありません」
「そう? でも、無理は禁物よ。血が足りてない状態だろうし」
「戦いはちょっと厳しいですが、普通に動く分には大丈夫です」
まあ、今日は精算だけで、ダンジョンに行くつもりはないので問題ないだろう。
私はそのままサマンサの髪を乾かし続ける。
サマンサは気持ちよさそうに目を細めており、非常にかわいらしい。
サマンサの髪を乾かし終えると、皆で朝ご飯を食べる。
サマンサはパンの柔らかさとイチゴジャムの甘さに感動したようで、何枚もおかわりをしていた。
「これ、すごいですね。どれだけの砂糖を使っているのでしょうか?」
サマンサはジャムの瓶を持ち、聞いてくる。
「さあ? いっぱいじゃない? この国では砂糖はそんなに高くないのよ」
「豊かな国ですね」
「他にも甘いものはいっぱいあるから帰りに買ってあげるよ」
「いいんですか? ありがとうございます!」
うんうん。
かわいい、かわいい。
私達は朝食を食べ終えると、各自、出かける準備を始めた。
そして、準備を終えると、家を出て、電車で北千住のギルドに向かう。
「あ、サマンサさん、アイテムボックス内に武器ってありますか?」
電車に揺られながら駅の到着を待っていると、キミドリちゃんがサマンサに聞く。
「ええ、もちろんです。護身用に持っていますよ」
あれ?
サマンサ、武器を持ってきたの?
「サマンサ、アイテムボックスにアイテムを入れたまま来たの?」
「そうですけど…………え? もしかして、マズかったですか?」
私達はこちらの世界に来る際、ウィズの判断で、念のためにアイテムを置いてきたが、サマンサは普通に持ってきたらしい。
とはいえ、サマンサに異常は見られないし、別にアイテムボックスに物があっても問題ないようだ。
「いや、大丈夫ならいいよ、それよか、キミドリちゃん、何でそんなことを聞くの?」
私はキミドリちゃんがサマンサに何故、そんなことを聞くのかがわからない。
「前に言ったじゃないですか。ゲートを通る時に武器を持っていると、反応しちゃいますよ」
あー、そういえば、そうだ。
「どういうことです?」
サマンサはよくわかってないようだ。
まあ、仕方がない。
「この国は基本的に平和なの。だから、許可なく武器を持つことは禁止されているのよ」
「え? それで暴漢に襲われたらどうするんですか?」
「一応、警察っていう、兵士もみたいなものもいるし、そんなことは滅多に起きないから」
「はぁ……? それで大丈夫なのか不安ですけど、わかりました。でも、どうしましょう? 一度帰って置いていきましょうか?」
あー、それはめんどいな…………
『今日は精算だけで、すぐに終わるじゃろ。ちょっとだけ、外で待っていればよかろう』
今は電車の中なので、ウィズが私達に念話で提案する。
「サマンサ、大丈夫? ちょっと暑いけど」
「大丈夫です」
サマンサは嫌そうな顔もせず、頷く。
「じゃあ、それで行きましょうか。なるべく早く終わるように順番を無視しましょう」
キミドリちゃんがマナーの欠片もないことを言う。
「それ、いいの?」
「暑い中、外で子供が待ってるんですって言えば、誰も文句言いませんよ」
うーん、車に子供を置いて、パチンコに行くダメ親のように見られないだろうか?
「サマンサを一人で待たせるのかー。ちょっと心配だな」
サマンサはかわいいし、誘拐されない?
「私は大丈夫です。病み上がりですが、後れは取りません」
サマンサは自信満々にそう言うが、その自信が逆に怖い。
一般人に魔法をぶっぱなさないよね?
『サマンサはハルカと違って、しっかりしておるし、大丈夫じゃろ』
ウィズが念話でそう言うと、キミドリちゃんもうんうんと頷いた。
そうやって、人を引き合いに出すのは良くないと思う。
私はちょっと2人の反応に不満を持ったが、心当たりがいっぱいあったので反論せず、静かにそのまま電車に揺られることにした。
電車で移動中、サマンサは昨日と同様に町の外を見ている。
この景色に見慣れた私には何がそんなに楽しいのかはわからないが、子供みたいでかわいいなと思った。
しばらくすると、電車が駅に着いたので、私達は電車を降り、ギルドに向かう。
ギルドに着くと、サマンサには外で待ってもらうことにし、3人で中に入った。
中に入ると、キミドリちゃんが番号表を取らずに受付に行き、受付嬢と何かを話し始めた。
そして、すぐに私に手招きをする。
「話は通しました」
キミドリちゃんがドヤ顔で言う。
なお、受付嬢は苦笑いだ。
「じゃあ、精算をお願い」
私はアイテムボックスからユニコーンの角を出そうとした。
「あ、ちょっと待ってください。ここは狭いので、あっちの部屋に出してください」
受付嬢は試験をした部屋を指差すと、立ち上がり、こちらにやってきた。
そして、部屋に向かって歩いていったため、私達もついていく。
部屋に入ると、受付嬢が机の上に出すように指示してきたので、私はアイテムボックスからユニコーンの角を出し、机の上に並べていった。
「本当に多いですねー。まあ、昨日、キミドリちゃんが取ってきたんでしょうけど…………」
私が素材を探索者カードと共に提出しているため、すべて私の成果ではあるが、さすがに受付嬢もわかっているようだ。
まあ、昨日、一日中ダンジョンに籠っていたキミドリちゃんがその日は何も提出せず、次の日に私がダンジョンにも行かずに大量の素材を持ち込めば、誰でもわかることだろう。
「ごめんねー。私が精算すると、全部取られちゃうでしょ。ちょっとお金がいるのよ」
キミドリちゃんは勝手知ったる元同僚に謝る。
「まあ、わかってますよ。でも、あまりこういうことはしないほうがいいよ」
「わかってるわ。今回が特別なの。次からは真面目に返済していくわよ」
「頑張ってね。しかし、多いなー。数えるのが大変そう…………」
キミドリちゃんとの会話を終えた受付嬢はユニコーンの角の数を数えていく。
「値崩れしないかな?」
私は疑問に思ったので、キミドリちゃんに聞いてみる。
スケルトンの骨とかは大量持ち込みすると、値崩れするって言ってたし、ユニコーンの角も同様じゃないだろうか?
もし、そうなら売却のタイミングを考えた方がいい。
「大丈夫ですよ。ユニコーンの角は主に薬の材料に使われるんですが、保存も利きますし、いくらあっても困りませんからね」
なるほど。
そういえば、アトレイアでもユニコーンの角は薬に使われていたし、結構、需要があるのかもしれない。
「10階層って、ぼろ儲けできるんじゃない?」
1日で10匹倒すだけで、日給10万円だ。
2日で私の前の会社の給料になる。
そう考えると、探索者って、本当にすごいな。
「できますよ。初心者はここでお金儲けとレベル上げをして、次のステップに行きます。そうしたら初心者を卒業して、中堅ですかね」
「わざわざ危険を冒さないでも10階層で稼いで生きていけばいいのに…………」
死より安定を取った方が良くない?
「そういう人もいますよ。別に悪いことでないのですが、周りからはバカにされますね。あと、まあ、欲望と言いますか、自信と言いますか、若さによる勢いでもっと奥でやれるって思っちゃうんですよね」
「ふーん」
やけに真に迫っているし、キミドリちゃんの実体験だろうな。
「ふう…………終わりました。421本もありましたね…………よくもまあ、一日でこんなに狩れるもんですよ。キミドリちゃんは探索者に復帰して正解だね」
ユニコーンの角の数を数えていた受付嬢は大量のユニコーンを仕留めたと思っているキミドリちゃんを称賛する。
まあ、実際はウィズの分もあるからキミドリちゃん一人ではないが、これだけの量を仕入れても疑問が浮かばない程度にはキミドリちゃんは優秀なことで有名なのだろう。
『妾が223本を狩ったのじゃ。今回は勝ったぞ』
ウィズは前回負けたのが悔しかったようで、わざわざ念話で勝利を報告してきた。
『体力ですねー…………猫と人とでは疲れ具合が…………』
前回は3時間だったためキミドリちゃんが勝ったが、今回は長時間だったので、体力で差がついたようだ。
「ハルカ様、すべて買い取りでよろしいですね?」
ユニコーンの角を数え終えて、ちょっと疲れている受付嬢が聞いてくる。
「お願い。それと私のランクアップはどうなったの?」
ドキドキ。
「あ、もちろん合格です。落ちる要素がないですしね。ハルカ様は今日からDランクとなります。Dランクは15階層まで行けますが、くれぐれもEランクの人を連れては行かないでください。これを破ると、厳罰になりますのでご注意ください」
ということは、キミドリちゃんとまだ登録していないけど、サマンサも11階層には行けないのか…………
「まあ、Dランク程度なら数日でなれますよ」
元ギルマスのキミドリちゃんがそう言うならそうなんだろう。
「わかったー」
まあ、大丈夫だろう。
「では、受付に戻り、精算とカードの更新をしましょうか」
受付嬢にそう言われ、私達は受付に戻った。
そして、受付に戻ると受付嬢からカードを返してもらう。
名 前 : ハルカ・エターナル・ゼロ
二つ名 : 少女喰らい
パーティー : ノーブル
ランク : D
順 位 : -
Eランクとはいえ、せっかく、順位が31位まで上がっていたのだが、また圏外になってしまった。
仕方がないけど、ちょっと残念。
また、ユニコーンの角の精算もしてもらい、お金を口座に振り込んでもらった。
ついに目標額である500万円に届いたのだ。
午後からはベリアルと会うことになっているし、これで、引っ越しが出来るだろう。
やったね!
本日の成果
ユニコーンの角 10000円×421個 = +4210000円
計 +4210000円
はるるんの所持金 576万円