第030話 パーティーかー
私は敗北してしまった。
我が人生において、敗北はありえない。
常勝。
勝って勝って勝ちまくる。
すべての戦いに勝利してきた。
それが我が人生。
我が覇道。
しかし、その爆勝ロードはここで潰えてしまった。
だが!
だがである!
ここで折れてはならない!
かつて、どっかの偉い人は100戦し、99回負けたらしい。
だが、最後の1回に勝利し、天下を取ったのだ。
我もこれを見習うべきではないのだろうか?
そう!
我が覇道はここから始めればいいのだ!
「終わりました?」
「たかが、狩りの勝負で何でポエミーになっとるんじゃ…………というか、おぬし、アトレイアでは逃げまくっとったではないか」
私は拳を握り、天(井)を見ていたのだが、すぐにやめた。
「マジレス禁止ー。お腹空いたし、帰ろー」
「いや、帰ろうと思ったのに、急にミュージカルみたいなことをしだしたのはハルカさんじゃないですか」
「それも、どんくさすぎて、何をしたいのかわからんかったな」
マジレス禁止って言ってんじゃん!
「私批判はもういいから帰ろう。ユニコーンを42匹も倒したからキミドリちゃんもEランクの100位以内に入れるんじゃない?」
私は誤魔化すために、話を変えることにした。
「あー、それなんですが、今回の成果は全部、ハルカさんのものにしてください」
キミドリちゃんは横領をした人間とは思えないことを提案してくる。
「なんで?」
「いや、今回の成果は引っ越し費用に充てないといけないじゃないですか? 私の成果にすると、全部、借金返済に取られちゃうんですよ」
あー……
せっかく貯めた引っ越し費用がキミドリちゃん名義にすると、取られちゃうのかー。
ランクアップは出来なくなるが、今回ばかりは仕方がないな。
「というか、借金の返済ってどうなってるの?」
「私の成果は100%取られます…………」
「えー……暮らしていけないじゃん」
「ですねー……だからハルカさんに寄生しているんですよ。実家も追い出されましたし」
一応、寄生している自覚はあるんだ……
「車、売れば? 6台も7台もいらないじゃん」
維持費も高いし、1台あれば十分だと思う。
「嫌だなー。死んじゃいますよー」
死ねばいいのに……
「じゃあ、ランクが上がんないじゃん。借金返すまではずっとEランクなの?」
「いえ。ハルカさん達と一緒に行く時は一緒に行きますけど、それ以外でも一人で行って借金を返していきますよ。ランクが上がって、深層に行く方が儲かりますしね」
まあ、10階層よりも15階層。
15階層よりも20階層の方が稼ぎはいいだろう。
「一人で大丈夫? 女の子は危険とか言ってたじゃん」
私が試験を受ける時にキミドリちゃんがしつこいくらいに注意していた。
キミドリちゃんだって、見た目はいいんだから気を付けたほうがいい。
「危険ですけど、このギルドは割かし安全ですよ。このギルドに所属している上位ランカーはロビンソンさんとムッキーさんでしてね。御二人とも女性に手を出す事を嫌う方なんで」
意外だ。
ロビンソンはいい加減だし、ムッキーさんは野盗みたいなのに…………
「あの2人って、まともなんだねー」
「御二人とも、娘さんが出来てから、そういうのにうるさくなったそうです」
あー、ロビンソンは娘さんを溺愛してたもんなー。
ってか、ムッキーさんもなのかー。
2人共、娘がいるんだったらもっと恰好を気にすればいいのに……
「じゃあ、安全なんだね」
「まあ、それでもやる人はやりますけど、私も一応、強いことで有名なんですよ。狙われませんし、来ても返り討ちです」
Aランク2位の二つ名持ちを狙う人はいないのか……
「わかった。じゃあ、そうする」
私は成果をまとめるために、ウィズとキミドリちゃんからユニコーンの角を受け取り、アイテムボックスに入れると、目の前にある魔方陣に乗って、帰還することにした。
◆◇◆
ダンジョンから帰還すると、武器屋で武器を預かってもらい、受付のあるフロアに戻ると、機械から番号表を取り、今回はきちっと番号を確認し、覚える。
そのまましばらく待っていると、受付上にある電光掲示板に自分の番号が映った。
私は何度も自分の番号表と電光掲示板に表示されている番号を見比べ、受付に向かう。
受付に着くと、大量のユニコーンの角を出し、精算をしてもらう。
私が3人分のユニコーンの角を納めたことに受付の人にビビられたが、特にトラブルもなく、スムーズに精算が完了した。
結果として、110万円が今回の成果だった。
また、戻ってきた探索者カードを見ると、私の順位も上がっていた。
名 前 : ハルカ・エターナル・ゼロ
二つ名 : 少女喰らい
パーティー : ノーブル
ランク : E
順 位 : 31位
31位か……
ランクアップの申請をして、Dランクに上がったほうがいいだろうね。
処女厨の馬はもう飽きたし…………って、パーティーの欄に何か書いてあるし!
「……何これ?」
私は受け取ったカードを見て、つぶやく。
「ああ、それは昼にキミドリちゃんが申請しましたので、登録しておきましたよ」
受付の女の人は私のつぶやきに反応し、笑顔で教えてくれた。
私はそれを聞き、バッと後ろにいるキミドリちゃんを見る。
「あ、パーティーを組んでおきましたよー」
キミドリちゃんは思い出したように、悪びれもなく言う。
パーティーを組むのはいいんだけど、一言あっても良くない?
「このパーティー名は何? だっさいんだけど」
ノーブルって何?
チョコレート?
「日本語で高貴って意味です。ハルカさん、高貴だから」
おー、かっこよく見えてきたね!
ノーブルオマージュみたいな言葉がなかった?
あれっぽい。
「ふむふむ。我にふさわしいな。ところで、パーティーを組むと、良いことあるの?」
以前からパーティーの欄が気にはなっていた。
ダンジョン探索ではパーティーを組んだ方がいいとはロビンソンも言っていたし、当然、仲間が多い方が危険も少ないだろう。
もしかしたら、それ以外にもランクが上がりやすいとか、そういうメリットがあるのかもしれない。
「いえ、別にないです」
ないのか…………
まあ、私達って、友達だよねー程度のものだろうなー。
「まあいいわ。Dランクへのランクアップの申請をお願い」
私は再び、正面を向き、受付の人にお願いする。
「かしこまりました。まあ、問題ないと思いますが、審査をしておきます。次回に来られた時に結果をお知らせする形でよろしいですか?」
「他にもあるの?」
「Dランクへのランクアップですと、審査はすぐです。結果をお電話でお知らせすることもできますが、正直に申しまして、この場でランクアップしても良いくらいです。わざわざ電話をするのもどうかと思いまして」
なんとなくわかってきた。
Dランク程度は、簡単に上がれるんだな。
一応、審査をしましたよという形を作りたいだけだろう。
私達、仕事をしましたよー的な……
というか、この人の口ぶり的に私が審査に落ちることはないんだろうな。
「じゃあ、今度来た時でいいわ。我が落ちるわけないし」
「かしこまりました。お待ちしています」
受付の人はそう言って、微笑んだ。
私は清算と申請を終えたので、ギルドを後にする。
私達は帰る途中で、いつものドラッグストアに寄って買い物をした後、家に帰った。
家に帰ると、一日の疲れを癒すためにビールを開け、乾杯をした。
そして、ポテチを食べ始める。
「まーた、ポテチですか? 好きですねー」
キミドリちゃんは剣先イカを食べながら言う。
「昔はそんなに好きじゃなかったんだけどねー。あっちに200年もいれば、こういうジャンクフードが恋しくなるのよ」
アトレイアの食事は味付けも塩がメインだったし、堅い肉、臭い魚、堅いパンばかりだった。
はっきり言って、めっちゃ不味かった。
吸血鬼になったし、別に食べなくても死にはしないが、食欲というのは人の3大欲求の一つであり、生きていくうえでは、重要な娯楽でもある。
アトレイアの食事も200年も食べていれば、そのうち不味いとも思わなくなったが、こっちに帰って、故郷のご飯を食べると、もうあっちの食事は食べたくないと思った。
「そんなものですかねー。というか、料理はしないんですか?」
「出来ないし、めんどい」
アトレイアの食事が不味いと思った時に自分で作ろうとも思ったが、スキルも知識もない私では無理だった。
「ハルカさん、トロいし、不器用ですもんねー」
それ、関係ある?
「キミドリちゃんは?」
絶対に出来ないだろうと思っているが、一応、聞いてみる。
「出来ると思います?」
「まったく」
「ですよね。それが答えです」
でしょうねー。
これで家庭的だったらびっくりだわ。
「ああ、そうそう。今日の事で疑問があったんだけど、ランクや順位って、主に持って帰った素材で判断するんでしょ?」
私は精算時に疑問を持ったことを聞いてみることにした。
「ですねー」
「それってさ、今回みたいに譲渡したら簡単に上がらない?」
「上がりますよー。もっと言えば、素材を買って、提出すれば、Aランクになれます」
ダメじゃん。
「それっていいの?」
「まあ、ご自由にです。そんなんで実力以上のランクを手に入れても、どうせすぐ死ぬだけですし、そこまではギルドも面倒を見切れませんよ」
自己責任か……
「でもさー、それで人気になって、儲けられない?」
上位ランカーは名前が公表されるらしいし、スポンサーとかテレビとかで儲けられそうだ。
「そういう人もたまにいますよ。でも、すぐにぼろが出て、ばれます。急にランクアップする超新星って、大体がそれですね」
「そうなの?」
「そういう人って、主にテレビや動画サイトに出て、儲けるんですけど、話を聞いていると、こいつ、明らかにダンジョンに行ってないなってわかりますよ。そういうのはすぐに裏を取られ、めっちゃ炎上します」
なるほどねー。
視聴者もバカじゃないし、同業者もばらすだろう。
「わかるわかる。この前もまとめサイトで話題になっておったな」
私達の話を聞いていたウィズが同意する。
というか、ウィズさんはまとめサイトをご覧になっているらしい。
「私もそう思われないかな?」
「思われると思いますし、もう思っているんじゃないですかね? ハルカさん、小っちゃいし、弱そうだし、ドジだし」
言い過ぎでは?
「北千住に変な金髪ロリがいるって、話題になってたぞー」
まとめサイトにもうまとめられてるのか…………
「まあよいわ。我が本物か偽物か…………それはすぐにわかるであろう……」
ふっふっふ。
「そうかもしれませんねー。先に謝っておきますと、私に寄生していると思われる可能性が大です」
元Aランク2位とパーティーを組む弱そうなロリ…………
うーん、思われそうだし、逆の立場なら私もそう思う。
「まあ、別にいいでしょ。私の目的は有名になることじゃなくて、お金を稼いで、自堕落に生きることだから」
テレビや動画サイトに出る気はない。
ユニコーンを適当に狩るだけでお金持ちになれるし、ダンジョンのもっと奥に行けば、もっと稼げる。
「ですねー。今日で110万円を儲けましたし、明日で500万に行くんじゃないですかね?」
「かなー。まあ、頑張るかな」
こんなに働くのは生まれて初めてのような気がする。
「あ、そうそう! 今日は私が勝ったので、言うことを聞いてくださいよ」
キミドリちゃんは余計なことを思い出したようだ。
「何すんの? 言っておくけど、抱かないよ」
抱いてほしければ、若返るか、転生しろ。
「いえ、まったく抱いてほしくありません。血をください」
「がっつくねー。血肉の味を覚えた獣みたい」
そんなペットは殺処分だよ。
「いいじゃないですか。美味しいし、早く魔法を使いたいんですよ。そして、階級が欲しいんです。スライムAは嫌です」
「ポイズンスライムになりたいのかー」
「いえ、ラージスライムになりたいです。というわけで、いただきまーす」
キミドリちゃんはそう言うと、私を押し倒し、首元に噛みついた。
「絵面やばくない?」
押し倒された私はウィズに聞いてみる。
「やばいな。子供に襲い掛かる変態じゃな」
「ひどいね」
世も末だよ……
「いつものおぬしじゃろ」
ごもっとも。
私がぐうの音も出ませんと思っていると、キミドリちゃんが私から離れた。
「ん? もういいの?」
今日は早いね。
私は私から離れたキミドリちゃんに疑問を持っていると。私から離れたキミドリちゃんはビールをぐいっと飲んだ。
そして、再び、私に覆いかぶさると、噛みつき、血を吸う。
「ひーるをのみながらだと、よりおいひいでふねー」
私はお酒のつまみかな?
本日の成果
ユニコーンの角 10000円×110個 = +1100000円
計 +1100000円
はるるんの所持金 156万円