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第025話 血を吸う快感


 世の中は使えないヤツばかりだ。


 戦うことが大好きな悪魔。

 黄金ばかりに執着する竜。

 傲慢なだけの天使。


 そして、群れることでしか生きられない人間。


 すべてが愚かであり、私の琴線に触れることはない。


 私は生まれた時から必死に勉強した。

 だが、5歳の時に理解した。


 すべては何も意味のないことだ、と……

 その瞬間、私の世界は灰色に変わってしまった。


 まったく色がつかない世界。


 くだらない。

 すべてがくだらない。

 この世の中のすべてが愚かしい。


 ある日、そんな私にも唯一の色ができた。


 私はあの日を忘れることはない。

 あの日、あの夜、あの光景を決して忘れてはならない。

 今でも、目を閉じれば、あの美しく輝く金色の絶対的存在が浮かぶ。


 その金色は私の心そのものなのだ。


 だが、その金色は消えさった…………

 また、私の世界は灰色に染まってしまった。


 私は目の前にある大きな鏡を見る。


 そこに映し出されているのは10歳で止まった小さな身体。

 長い黒髪。

 そして、濁った目…………


 狂おしい……悲しい……寂しい……


 鏡を見た後、空しくなった私は豪華なベッドに座った。


 かつて、この大きなベッドで愛してもらった…………


 ああ…………もうダメなのだろうか?

 私にはあの温もりを味わうことは出来ないのだろうか…………


 体が熱い…………

 心が寒い…………


 熱い…………

 寒い…………

 熱い…………


 私は今日もその小さな手を下腹部に伸ばす。


 ああ……満足できない。

 何をしても、どんなことをしても…………

 

 私には耐えられない。

 世界中の生物が滅んでもいい。

 私はただ、あなたがいればそれでいい。


 だから、だから、だから、だから、だから、だから。


 私はすべてを捨てる。

 この力、この頭脳を駆使し、必ずや成し遂げよう。

 あなた以外には何もいらない。

 あなたさえ、いればいい。

 あなただけが…………私の光なのだ。


 もう一度、会うために。

 もう一度、愛してもらうために。

 もう一度、イジメてもらうために。

 もう一度、血を吸ってもらうために。


「ああ……………はるるん様…………この公爵級吸血鬼、≪狂恋≫のサマンサが会いに行きましょう…………そして、あなたのすべてをもらいます…………すべてを滅ぼしてでも!!」




 ◆◇◆




「ハルカさーん、こいつがラスボスですよ」


 私は先ほど、とあるRPGを始めたのだが、それを見ていた居候の女がいきなりとんでもないことを言ってきた。


 居候の女は私がゲームを始めようとしたら、隣にやってきて、ゲームを見始めた。

 興味があるのかなーと思っていたのだが、もしかしたら、やったことがあるのかもしれない。


「何を言ってんのよ。序盤だし、こいつ、完全にモブじゃん」


 テレビ画面には新しい街へ引っ越してきた少年が映っている。


 昔、評判が良かったので、買ったはいいが、忙しくて積んでいたゲームである。

 それを先ほど、始めたばかりなのだ。


「いや、そいつがすべての元凶です。そいつ、神様なんですよ」


 私はゲームの電源を切った。


「キミドリちゃんさー。あんた、友達いないでしょ」


 私はとんでもないネタバレをしてきたキミドリちゃんを責める。


「いますよー。最近は連絡を取っていませんけど」


 切られたな。

 私も切りたい。


 だが、それは出来ない。

 この女は私の眷属だからだ。


 キミドリちゃんは先日、足がなくなった。

 それを治すために眷属の吸血鬼にしてあげたのだが、今のところ、その恩を仇でしか返してもらってない。


 こいつは人の家に居候を始めると、やれ狭いだの、やれ暑いだの、本当にうるさい。

 しかも、一銭も稼いでこないどころか、食費、酒代に加え、探索者試験の試験代まで出させられた。

 挙句の果てには、このネタバレである。


 こいつは呪いのアイテムか何かか?


「あんた、少しは敬いなさいよ。我は王級吸血鬼だぞ」


 しかも、あんたの親。


「あー、そういえば、その王級とか、大公級って何です? この前の天使は伯爵級とか言ってましたけど」


 キミドリちゃんは私の言葉を聞いて、思い出したかのように聞いてくる。


「あれ? 説明してなかったっけ?」

「してませんよー。この前の長官との会合だって、全然、説明してくれなかったじゃないですか? だから、長官や皆さんがあの天使と話している時も、こいつら、何を言っているんだろうって思ってましたよ」


 うーん、そういえば、説明してないかもー。


「まあ、魔力の格付けみたいなもんよ。探索者で言うランク。それを王侯貴族の位で表してるの。アトレイアは強さが絶対だからその指標の一つなのよ」


 階級なし→男爵級→子爵級→伯爵級→侯爵級→公爵級→大公級→王級


 これが階級である。


「じゃあ、ハルカさんやウィズさんの王級が一番高いんですかね? その次が長官の大公級?」

「まあ、そんな感じ」

「へー、じゃあ、ハルカさんも強いんですねー。長官よりも強いんですか? この前の長官、めっちゃ怖かったですけど」


 そういえば、ベリアルがあの天使を脅した時、キミドリちゃんもビビってたね。


「いやー、あくまでも、階級は魔力の強さだからねー。私は魔力は膨大だけど、戦闘はからきしだから」

「まあ、弱そうですね。小っちゃいし」

「でしょー。実際、私って、戦闘らしい戦闘をしたことがないの」

「そうなんですか?」

「だって、雑魚は魔法で一発だし、強い相手は逃げるからね」


 怖いもん。


「逃げるって…………よくそんな世界で生き残れましたね」

「私、死なないもん」


 不死の吸血鬼は死なないのだ。


「えー……私に血がなくなったら死ぬって言ってたじゃないですか」


 吸血鬼は確かに死なないが、血を失えば死ぬ。

 だが、血をコントロールする魔法があり、たとえ、傷を付けられ、血が流れ出ても、血をコントロールすれば、いくらでも輸血が出来るのだ。


 しかし、キミドリちゃんはこの前、吸血鬼になったばかり。

 そして、すぐに天使と戦ったが、吸血鬼になったばかりだったため、そういう魔法を一切覚えていなかったのだ。


「そりゃあ、キミドリちゃんは吸血鬼になりたてでしょ? 弱いよ」

「そんなぁ……じゃあ、私の階級はどれくらいです?」

「階級なし。その辺の雑魚と一緒。スライムA」


 ゴブリンAでもいいよ。


「ガーン! 私って、その程度なんですか……」


 キミドリちゃんがわざとらしいリアクションで落ち込んだ。


「いや、まあ、キミドリちゃんは元が強いから実際はもっと強いよ。伯爵級天使を倒したじゃん」


 というか、元だけど、Aランク2位の実力者だ。


「そういえば、そうですね。しかし、魔力かー。どうすれば、上がります?」

「ダンジョンでモンスターを倒しなよ。人間の時より魔力吸収は多いし。あとは血を吸うことかな。吸血鬼だし」


 敵を倒せば、魔力を吸収できる。

 まあ、ゲームで言う経験値みたいなものだろう。

 皆、そうやって強くなる。

 ただし、種族性なのか、吸血鬼は血を吸ったほうが効率はいい。


「あー、そういえば、吸血鬼って、血を吸うんでしたね。吸血衝動とかないんですか? 今のところは平気ですけど」

「普通はあるけど、私は真祖だからね。キミドリちゃんは真祖の眷属。その辺の雑魚とは違うし、普通に抑えられるよ」

「それは良かったです。夜な夜な生き血を求める怪物にはなりたくないですし」

「だよねー。わかる、わかる」


 私はやってたけど。

 目的は性欲。


「でも、血を吸うのがいいのかー。血って、美味しいんです?」

「ものによるかなー。私は少女の血しか吸わないけど、まあ、美味しいよ。あと、性欲が満たされる」


 私はそのために生きていると言っても過言ではない。


「性欲? マジですか?」

「吸血鬼にとって、吸血というのは性行為に近いのよ」

「へー。なんかエッチですね? うーん、どんなものなのかなー」

「吸ってみる?」


 私はTシャツの襟をずらし、首元を露出する。


「え? ハルカさん、私とエッチしたかったんですか? いやー、はしたないですよー」

「いや、別にエッチするわけじゃないよ。というか、ババアはお断りよ」


 私は≪少女喰らい≫だぞ!

 男の血も吸わないし、女も基本的には16歳以上の血は吸わない。


「だって、性行為みたいなものって言ったじゃないですかー」

「いや、みたいなものよ。価値観なんてそれぞれだし、私にとっては、血を吸いながら本当にエッチするのが性行為よ。別に血を吸われるくらいなら問題ないわ。吸うのは嫌だけど」

「その価値観がよくわかんないです」

「だから試してみればって言ってるの。私はあなたの親だからそういうことを教える義務があるの」


 何も知らずに適当な人間の血を吸い、吸い過ぎて殺しちゃいました、はシャレにならない。

 暴力に満ち溢れる修羅の世界であるアトレイアならそれでもいいが、平和な現代日本ではマズい。


「うーん、じゃあ、吸ってみようかなー。噛めばいいんですか?」


 キミドリちゃんが私の正面にまわり、近づく。

 何かキスするみたいだ。


「噛むというより、歯を立てるの。あとは本能が教えてくれる」

「本能ですか? よくわかりませんけど、やってみます…………いただきまーす」


 キミドリちゃんはそう言って、私の首元に噛みついた。


「その言い方は止めてね。んっ」


 キミドリちゃんが私の血を吸っているのがわかる。


 噛まれているが、痛みはない。

 むしろ、血を吸われる快感が全身にいきわたっていく。


 私のユニークスキルである快楽吸血ほどではないが、吸血鬼に血を吸われると、快感を得るのだ。

 もっとも、まったく趣味ではないキミドリちゃんに吸われても、こしょばいなー程度だけど。


 キミドリちゃんはどんどんと私の血を吸っている。


「ねえ、キミドリちゃん、いつまで吸うの?」


 私は抱きついているキミドリちゃんの背中をポンポンと叩く。


「おいひいでふ」


 いや、長くない?


「ねえ、暑いんだけど…………」


 今、7月だぞ。

 くっつかれると、暑い。


「めっひゃ、おいひいでふー。あ、きほちいい…………なんかいきひょう――――げふっ!!」


 私はキミドリちゃんが不穏なことを言い出したので、蹴飛ばした。


「いったー!! 何するんですかー!?」


 私に蹴られたキミドリちゃんはお腹をさすりながら抗議する。


「いや、あんた、どんだけ吸うのよ」

「美味しかったもんで、つい」

「しかも、不穏なことを言ってたし」

「いやー、性行為に近いって、マジですね。なんか、すごかったです」

「人間にやったらダメだよ。普通に死ぬから」


 めっちゃ飲まれた。

 人の致死量は軽く超えている。


 吸血鬼あるあるだが、最初は殺すつもりもなく、ちょっとだけ吸おうと思っていても、血の美味しさと吸血の気持ちよさで、吸い過ぎてしまい、相手を絶命させてしまうことがある。

 特に吸血鬼になったばかりの初期の頃はその調整が難しい。

 だから、吸血鬼は危険な種族であり、人間の討伐対象になるのだ。

 まあ、普通に強いし、怖いというのもある。


「でも、そうしたらハルカさんのしか飲めないじゃないですか」


 キミドリちゃんは不満そうだ。


「我慢して。言っておくけど、私以上に美味しい血はないのよ」

「そうなんですか?」

「真祖の王級吸血鬼だもん。しかも、処女」


 自分で言うのもなんだが、これ以上の味はないだろう。

 うんうん。


「なるほどー。でも、ハルカさん、ポテチ食べすぎです。ちょっと芋の味がしましたよ」


 私はキミドリちゃんにそう言われて、顔が熱くなる。

 多分、顔が赤くなっていると思う。


 なんだろう?

 めっちゃ恥ずかしい。


「そういうことは絶対に言わないで!」


 本当にデリカシーないな。


「ですかー。まあ、吸血がどういうものかはわかりましたよ」

「たまにでいいなら吸わせてあげるけど、私は絶対にあんたの血は吸わないからね」


 熟しすぎ。

 私はロリの血しか吸いたくない。


「いや、別に吸ってほしくはないですけどね。いやー、暑いなー」


 キミドリちゃんは手で仰ぐ。


「キミドリちゃんがくっついてくるからでしょ」

「いやー、あんなにすごいとは思わず」

「まあ、少しずつ教えていくわよ」


 めんどうだけど。


「うーん、ハルカさんの血を吸ったし、これで階級持ちになりましたかね?」

「なるわけないじゃない。普通は何十年もかけてなるものなのよ」


 私は階級なしから一気に王級になったけどね。


「足りないかー…………よーし、じゃあ、もうちょっとください!!」


 キミドリちゃんが私を押し倒す。


「えー……」


 まあ、いいかー。

 下手に抑制させて、人様に牙を向けても困るし。


「いいからいいから。ん? コンホメ、たへまひた?」


 私は無言でキミドリちゃんの腹を蹴り上げた。


 言うなって言っただろ!!

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[一言] かのゲーム会社を約8年間支えたロリコン番長が出てくるP4ですか? 更新楽しみに待ってます。程々に頑張ってください。
[良い点] アトレイアに残されたハルカの眷属もストーリーに絡んでくるようで楽しみです。 [気になる点] Aランク2位の有名人で友人達から縁を切られるとかキミドリちゃんはどれだけクズな行いを… [一言]…
[一言] 面白くて一気読みしてしまった!! これは良いものだぁ…続きも期待して待ってます!
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