第024話 動物を飼う時は責任をもって最後まで飼いましょう
伯爵級天使ハワーはキミドリちゃんが倒した。
「天使族がこの世界に来ている……か」
天使から情報を引き出したベリアルが悩みながらつぶやく。
「ルシフェルは関係なさそうじゃのう」
ウィズがベリアルのつぶやきに反応した。
「多分な。だが、ルシフェルではないのなら誰だ? …………あのハワーが言うには相当の数の天使をこの世界に呼んだことになる」
神様じゃね?
「絶大な力の持つ者か、時渡りの秘術とは違う方法を取ったか…………」
違う方法って何?
「ふぅ……どのみち、まだ判断は出来ん。とはいえ、一歩進んだことは確かだ。世話になったな」
「妾は何もしておらんがな」
解説してたじゃん。
「あのー、長官、私、そろそろ限界なんですけどー。病院に行きたいんですけどー」
キミドリちゃんは血を流しすぎたのだろう。
顔が真っ青だ。
「そうだな。病院に連れて行こう。君達はどうする?」
ベリアルが私達に聞いてくる。
「私は家に帰るよ。パーティーの続きをする」
「じゃのう」
私とウィズはパーティーをしながら家探しをしていたのだ。
それを途中で止めて来ている。
「そうか…………今日は本当に感謝する。何かあれば、頼ってくれ。礼はする」
「わかった。あ、キミドリちゃん、退院したら連絡ちょうだい。キミドリちゃんのこれからについて、話があるから」
私はぐでっているキミドリちゃんに告げる。
「あー……そうですねー…………わかりました。退院したら連絡します」
キミドリちゃんはそう言うと、ベリアルと共に車に乗り込んだ。
そして、車は病院へと向かっていった。
私とウィズはそれを見送る。
「しかし、意外だったのう」
ウィズは2人きりになると、私の腕の中に飛び込み、顔を見上げた。
「何が?」
「おぬしがキミドリを眷属にしたことじゃ」
なんだ、そのことか……
「そう? 面白い人じゃん」
「それは否定せん。じゃが、おぬしは小さい子しか眷属にせんかったからのう。キミドリを気に入ったのか?」
「そりゃあ、気に入ってはいるわよ。血は吸わないし、抱かないけどね。10年遅かったわ」
「ふーむ、まあ、この世界で生きるなら必要なことかもしれんな。しかし、あやつはどこまで持つかな?」
死にたくないから吸血鬼になる。
だが、吸血鬼になった後に後悔し、死を選ぶ。
吸血鬼あるあるの一つだ。
「それはキミドリちゃん次第。まあ、どっちの選択をしたとしても、責任は取るわ」
それが真祖の務めだ。
「まあ、あやつの図々しさから考えれば、杞憂かのう」
「そう思うと、逆に不安ね。まあいいわ。そろそろ私達も帰りましょう。もうすぐ夜が明ける」
時刻は5時前、うっすらと明るくなってきている。
「じゃのう。さっさとパーティーして寝ようぞ」
「だねー…………ねえ、あの死体はどうすればいいのかな?」
少女を襲った男2人の死体が残されている。
「放っておけ。ベリアルがどうにかするじゃろう」
「それもそっか。じゃあ、帰ろう」
「うむ」
私はウィズをぎゅっと抱きしめると霧の魔法を使う。
「とこしえの――」
「いいから、早くせい」
だから、かっこいい詠唱があるのにー。
◆◇◆
家に戻った私達は今度見に行く部屋をピックアップしながらパーティーを再開し、昼前には就寝した。
そして、翌日の昼に起きた私はゲームを始める。
ゲームを夜になるまでやっていると、珍しく、部屋のチャイムが鳴った。
「誰?」
「キミドリじゃな」
私が聞くと、ウィズが教えてくれた。
あの女、アポなしで来やがった…………
連絡してって言ったのに。
私はしょうがないなーと思いながら玄関を開けると、ウィズの言う通り、キミドリちゃんが立っていた。
「こんばんはー…………来ちゃった」
来ちゃったねー。
「アポくらい取ってよ」
「いや、さっき、退院というか、病院を追い出されましてね。酒を飲む元気があるんだったら出てけ、だそうです」
そりゃあ、言われる。
「もう大丈夫なの? あ、まあ、入ってよ」
私はキミドリちゃんを部屋に入れる。
部屋に入ったキミドリちゃんは6畳の部屋を見渡した。
「おー! 学生時代を思い出す部屋ですねー」
褒めてんのかな、それ?
「まあ、学生時代から住んでる家だからねー。今度、引っ越すけど」
「引っ越し? ああ、ハルカさん、儲けてますもんね。これ、私も飲んでいいですか?」
キミドリちゃんは床に置いてあるビール缶を指差すと、私が何も言ってないのに、勝手に冷蔵庫を開け、ビールを取り出す。
「キミドリちゃんは本当に図々しいねー」
「いいじゃないですか、別に。私達は仲間。吸血鬼ファミリーですよ」
親しき中にも礼儀ありって言葉を知らないのかな?
私でも知ってるのに…………
「まあいいけど。それで、もう身体は大丈夫なの?」
「そうですね。あっという間に元気になりましたよ。吸血鬼ってすごいんですねー」
「人外だしねー」
「ふーむ」
キミドリちゃんは悩みだした。
そして、ビールを一気飲みする。
「ハルカさんは吸血鬼になった時に何を思いました?」
キミドリちゃんは神妙な顔で聞いてくる。
「特に何も。少女の血を吸ってやるぜー、くらいかな」
あとは生きるのに必死だった。
「たくましいですねー。私は昨日、超絶悩みましたよ」
「ふーん、まあ、よくあることだね」
「ですよねー。でも、今はそんなことはどうでもいいんです」
キミドリちゃんは笑った。
「そうなの?」
「だって、仕方がないことですからねー。まあ、人生に飽きたら殺してもらうことにします」
「それは責任を持ってやるわ」
「お願いします。とまあ、そんな先の事はどうでもいいんですよ!」
ん?
「どしたの?」
「実は私が休んでいる間に、私のギルドに監査が入ったんです」
あっ…………
「あー…………」
「それで、横領がバレました」
でしょうね。
「クビか?」
ウィズが楽しそうに聞く。
「です。しかも、お金を返さないといけなくなりました。さらに、スカイ君の修理代と新車の請求書が来ました。そして、実家を追い出されました」
ひえー。
「そ、そうなんだ」
「ええ、貯金なんてありません。借金だけが残りました」
「いくらじゃ?」
「1億です」
バカだ…………
本当にバカだ。
この女、どんだけ横領してたんだ?
「頑張れ」
「頑張ってー」
私とウィズは応援する。
「そうします。というわけで、明日から頑張りましょー」
ん?
「一人で頑張りなよ」
「いえいえ、私達はファミリーです。私の借金はあなた方の借金。あなた方の貯金は私の貯金です」
「「帰れ」」
私はキミドリちゃんを掴み、玄関の外に放り投げた。
「開けてくださーい!! 入れてー! 助けてー!!」
うるせー!
「あやつを眷属にしたのは失敗だったな」
ウィズがため息をつきながら言う。
「ホントにねー。あんなの、拾うんじゃなかったわ」
ジャイ〇ンもビックリなことを言いやがった。
「入れてくださーい。お金もないし、住む所もないんですー」
「大好きな車で寝ろ!」
「嫌だー!! 私、お布団じゃないと、眠れないんですー!!」
図々しさの塊のような女だなー。
「この6畳の部屋で、3人で寝ることになるのかな?」
「まあ、妾は小さいから構わんが…………うーん、早めに引っ越した方が良さそうじゃな」
「そうなるかー。しかし、1億って…………」
「多分、ダンジョンにもついてくるぞ。あやつに財布を握らせるな。絶対に散財する」
私も激しく同意だ。
「まあ、キミドリちゃんはAランクって言ってたし、キミドリちゃんに奥に連れて行ってもらえると考えて、良しとするかな」
「じゃのう」
「開けてー!!」
キミドリちゃんは部屋の扉をドンドンと叩きまくる。
「開けてよー!! あ、すみません」
あー、隣の住人かな?
「入れてやれ。さすがにうるさいし、近所迷惑じゃろう」
仕方がないなー。
私は玄関の鍵を開け、キミドリちゃんを中に入れる。
「すみませーん。しばらくの間でいいんで、泊めてください」
しばらくの間でいい?
日本語、変じゃない?
「実際、どうやって、借金返すつもりなの?」
「探索者に復帰します」
「やっぱそれかー。プライドはどうしたの?」
「そんなものはお金にならないんですよ」
それは、そうだけどさ……
「まあ、キミドリちゃんはAランク2位だし、1億くらいはすぐに稼げるかー」
「いえ、辞めたらリセットなので、Eランクからです。というか、試験を受けないといけません」
「マジ?」
「マジです。ブランクがある人間がいきなりダンジョン奥に行ったら危ないですからね。それを防ぐために、一度辞めたら全部リセットになります」
えー……
じゃあ、こいつの価値ないじゃん。
ガチでお荷物じゃん。
「キミドリちゃん、風俗に行きな」
「見捨てないでくださいよー!!」
キミドリちゃんが縋りついてきた。
そして、激しく揺する。
「わかったから! 離してー」
「ありがとうございます! ファミリーっていいですねー」
これはファミリーではなく、寄生だ。
寄生虫だ。
「めんどくさいのう」
「ねー」
「これから皆でこの苦難を乗り越えましょー! おー! あ、それと試験代5万円ください!」
貸せ、じゃなくて、くれ、か……
ホント、図々しいな。
やっぱり見捨てれば良かったかな……?
ここまでが第1章となります。
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