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第021話 人間やめますか? それとも……


「やだーーー!! 運転するんだー!! 私の子がーー!! びえぇぇーー!」


 キミドリちゃんがギャン泣きしている。

 ちょっとうるさい。


「言わない方が良かったかな?」


 私はウィズに聞く。


「まあ、遅かれ早かれ、気付くことじゃし…………」


 だよね。


「いやだーーーー!! 嫌だったら嫌ー!! はっ! あなた達、悪魔でしょ! 魔法で生やして!」


 ギャン泣きしていたキミドリちゃんだが、ウィズとベリアルを指差し、要求する。


「まあ、そういう魔法があることは確かだ。だが、私は使えん」

「妾もじゃな。魔族は他人を癒すことに興味がないから、覚える者は少ないんじゃ」


 ウィズとベリアルはあっさりと否定した。


「つっかえね!! マジで使えねー!! なーにが、王級よ! なーにが、大公級よ!! 役立たずじゃん!!」


 荒れてるなー。


「エリクサーを使えば?」


 私はいい手を思いついたので言ってみる。


「なにそれ!?」


 私のナイスアイデアにキミドリちゃんが食いついてきた。


「何でも治せるポーション」

「すごい!! それだ!!」


 キミドリちゃんはとたんに上機嫌になる。


「どこにあるんじゃ?」

「ダンジョンにないの?」

「いや知らん。ベリアルは知っておるか?」

「あるとは思うが、かなり奥だろう。手に入れるのに何年かかるか…………」


 うーん、ダメっぽいな。


「つっかえねー!! このポンコツ吸血鬼、マジで使えねー!! バカでロリでクズなペドのくせに使えねー!! 空気も読めず、役にも立たないなら死んじまえ! ばーか!」


 荒れてるなー。


「ハァ…………いいんだ、いいんだ。私はこれから家に帰って、うちの子達を窓から見て涙を流すんだ」


 キミドリちゃんはウジウジしだした。


 何かもうめんどくさいな…………


 私はアイテムボックスからワイングラスを出す。


「あん? このポンコツ、酒飲む気か? どんだけ空気が読めねーアホなんだよ……」


 うるさいなぁ……


 私はキミドリちゃんを無視し、ワイングラスを備え付けの机に置いた。

 そして、持ってきた包丁を取り出し、自分の手首を切る。


「ひえ! 何をしてんの!?」


 キミドリちゃんは私の行動にびっくりしている。

 ウィズとベリアルは動じていない。


 私は手首から流れ落ちる血をワイングラスに注ぐ。

 そして、いっぱいになったので、魔法を使い、手首を回復した。


 私はワイングラスを持ち、キミドリちゃんに近づく。


「さあ、キミドリちゃん、選択の時だ…………貴様はこれから選ぶのだ!」

「えー…………急にかっこつけだしたし」

「いいから聞け!」


 ちょっと黙ってなさいよ。

 まだ、私のターンなの!


「以前、我は貴様にこれを飲むか問うたが、貴様は拒否した。しかし、もう一度、チャンスをやろう。これを飲むかな?」


 私は真っ赤なワイングラスを差し出す。


「飲んだらどうなるの?」


 キミドリちゃんは訝し気な目でワイングラスを見ながら聞いてくる。


「足が元に戻る」

「マジで!?」

「ああ。ただし、貴様は人間ではなくなる。貴様は吸血鬼となる。早い話が我の眷属になるのだ。永遠を生き、絶対的な強さと再生能力を持つことになる。だが、人間を辞めなければならない」


 まあ、当然の事だろう。

 足が生えてくるような存在を人間とは呼ばない。


「人間を辞める…………元には戻れないの?」

「元に戻る時は死ぬ時だ」


 まあ、灰になっちゃうんだけどね。


「足…………でも…………」


 キミドリちゃんは悩んでいる。

 当然だろう。


「言っておくが、これは名誉なことだぞ。この王級吸血鬼の眷属になれるんだから」


 その辺の雑魚吸血鬼ではない。

 真祖にして、吸血鬼の頂点だ。

 こっちの世界に吸血鬼はいないけど…………


「王級って言っても、ポンコツじゃん」


 ポンコツって言うな。


「我は基本的に滅多なことがない限り、眷属を作らん。だが、共に食事をし、共に酒を酌み交わした。これも縁と言うやつであろう。気まぐれと思ってくれてもいい。じゃなきゃ、貴様のようなババアを眷属にはせん」


 私の眷属はみーんな、ロリだ。


「……人間を辞めて、親になんて言えばいいのよ」


 キミドリちゃんが俯いた。


「言う必要はあるまい。親の方が先に死ぬ。自然の摂理だ。貴様に旦那や子供がいれば怪しまれるだろうが、問題はないであろう。歳を取らんが、若作りで誤魔化せば良い」

「歳を取らないのは魅力的ね……でも、それって、ずっと日陰者で生きろってことじゃない? 皆がおばあちゃんになっても、私は若いままってことでしょ」


 まあ、そうなるだろう。


「吸血鬼というのは日陰者だ。なーに、適当に誤魔化せばいい。そして、嫌になったら死ねばいい。我が責任を持って殺してやろう」


 痛みも感じさせない。

 一瞬にして、消滅させてやる。


「…………あなた、眷属が何人いるの?」

「今まで9人いたが、今は3人だ。もっとも、アトレイアに置いてきてしまったが……」


 元気にしてるかなー?


「他の6人は?」

「死んだな。3人は殺された。アトレイアは暴力に満ち溢れた世界だから」


 人間に殺された子。

 悪魔に殺された子。

 魔物に殺された子。

 

「………………残りの3人は?」


 キミドリちゃんは残っている3人が気になるらしい。


 まあ、当然だろう。

 3人は生き残り、3人は殺された。

 では、残り3人は………………


「………………我が殺した。やはり永遠は生きられないらしい」


 こればっかりは仕方がないことだ。

 どんなに望んで吸血鬼になっても、どんなに愛し、愛されても、途中で生きることに嫌になることはある。


 『一緒に生きられなくて、ごめんなさい』


 そう言って、泣きながら謝るあの子達を…………私は殺した。


 この手であの子たちの心臓を突き刺した感触を忘れない。

 あの子たちとの日々を…………殺した時にあの子たちが見せた涙と笑顔を決して忘れない。


「そう…………」


 キミドリちゃんは俯き、悩んでいる。


「お父さん……お母さん……おばあちゃん…………」

「まあ、無理にとは言わんよ。我にはいなかったが、貴様には家族があろう。友人もいよう。それを捨ててまで吸血鬼になることはない」


 人間に生まれ、人間として死ぬ。

 それが幸せだと言われれば、否定できない。


「…………そうね。やっぱり私は人間のままで…………」

「運転は出来んがな」


 私がそう言うと、キミドリちゃんはグラスに入った血を一気飲みした。


「家族は!?」


 決断がはえーよ!


「私の家族はあの子たちよ!!」


 まるでビールを一気飲みしたかのように血を飲み、腕で口を拭っている。


 こいつ、終わってんな……


「まあ、いいけど……」

「私は人間を辞めるぞー!」


 あんたはとっくに辞めてるわ……


「ガッ……ハッ! なにこれ! 熱い! 気持ち悪い!!」


 キミドリちゃんが胸を押さえ、苦しみだした。


「人間を辞めるんだ……足が生えるんだ。そりゃ苦しい。頑張ってー」

「このポンコツ、さては毒を盛ったな!」


 本当に失礼なヤツだわ……




 ◆◇◆




 熱い! 熱い! 熱い!!

 身体が熱い! 足が熱い!! 心が熱い!!!


 私はなんでこんなことになったのだろう?


 私はまともに生きてきたはずだ。

 子供の頃から車が好きで、将来は車をいっぱい持つんだと決めていた。

 探索者になり、お金を稼ぎ、その夢は叶った。


 しかし、足を失い、すべてを失った。


 それを取り戻すためには仕方がないことだと思う。


 しかし、苦しい!

 気持ちが悪い!


 これは天罰だろうか?

 やはりギルドのお金に手を付けたことが悪かったのだろうか?


 いや、こいつらのせいだ!

 この吸血鬼と悪魔達のせいに決まっている。


 だって、こいつらは私が苦しんでいるというのに心配のひとつもしていない。


 ポンコツ吸血鬼はチビのくせにニヤニヤと笑い、私を見下ろしている。

 最近、生え際が後退してきた長官は関心がなさそうに私を見下ろしている。

 ババアみたいなしゃべり方の猫は…………わかんないや。


 くそー!

 何でこんなことに!!

 何でこんなに苦しまないといけないのだ!!


 やはり駐車場のために親がやっている家庭菜園を潰したせいか!?


「苦しんでおるのう…………血を吸って、眷属にしてやれば良かろうに。おぬしの快楽吸血で苦しまずに眷属になれるじゃろ」


 は?


「ババアの血は吸わないの。美味しくないし」


 このペドロリ女、覚えておけ!!


 ぐえー。

 熱い、痛い、しんどい…………


 何で私がこんな目に?

 きっと、こいつらに関わったせいだ!!


 …………いや、違う。

 こいつらじゃない…………


 私をこんな目に遭わせたのは………………


 そうだ!!

 あいつだ!!


 私の足を斬り飛ばし、倒れている私を蹴ったあいつだ!

 気色の悪い笑い方をするあのバケモノだ!!


 そうだ! そうだ!! そうだ!!!


 私の可愛いスカイ君をぶっ壊したあいつだ!!


 許さん!!

 この恨み、晴らさでおくべきか!


 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 殺す! 

 絶対にぶち殺してくれる!!

 泣こうが喚こうが私の剣で真っ二つにしてやる!!


 殺す!!


 私は怒りで目の前が真っ赤に染まったことがわかった。

 そして、目の前が真っ暗になった。

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キミドリちゃんめっちゃ気に入ったわ
[一言] 主人公に続く人間のクズw
[一言] 自分の恋人を自分の手で殺すのはしんどいね 永生欲しいな
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