第019話 忠告
ユニコーン。
それは神の使いと呼ばれる角の生えた白い馬だ。
一説によると、その背には清らかな処女しか乗せないという。
「こら、暴れるな! 乗せろ! 私は処女だぞ!!」
私はユニコーンに苦戦している。
「おーい!! そんなに嫌がるなよー!!」
全然、乗せてくれないのだ。
「おぬしは汚れておるし、吸血鬼じゃし、無理じゃね?」
「うおーい! 蹴るな! 蹴るな! 痛い、痛い! 噛むなー!!」
私は暴れるユニコーンに思わず、魔法を使った。
すると、ユニコーンは死に、ドロップ品である角だけが残る。
私はその角を拾い、ウィズのところに戻った。
「あれはバイコーンじゃないかしら?」
バイコーンはユニコーンとは逆で不純を司る馬だ。
「バイコーンの角は2本じゃ…………だから無理じゃと言ったであろう」
私達はロビンソンと別れた後、奥に進み、ユニコーンを見つけた。
すると、ウィズがおぬしは乗れないだろうなーっと言ったのだ。
私はこれに待ったをかけた。
私は処女だ。
確かに、処女だ。
こっちの世界にいた時も、向こうの世界に転生した時も、貞操のピンチはあった。
だが、私は純潔を守り抜き、200年以上生きている。
だからユニコーンにも乗れるはずだ。
心だって、沢口さんは純粋だねーとよく言われていた。
「おかしいなー。エターナル・ゼロのせいかしら? あいつ、絶対に処女じゃないし」
恋人がいたらしいし、処女じゃないだろう。
その辺の記憶はないからわかんないけど。
「エターナル・ゼロもこんないちゃもんをつけられるとは思っていなかっただろうなー。そもそも、おぬしがどうとかではなく、ダンジョンのモンスターにその習性が残っているかはわからんぞ」
なるほど。
きっとそうだ。
そうに違いない。
「ウィズは乗れる?」
「さあ? この猫の体がどうか知らんし。そもそも別に乗りたくない」
おやー?
なんか誤魔化してなーい?
さては、こいつ、処女じゃないな。
「ウィズは大人だったんだねー」
「いや、魔族は人間と違って、性に積極的ではない。というか、吸血鬼もじゃろ。おぬしは特殊じゃが」
まあ、長命種は全般にそうだ。
エルフなんかはそうでもないらしいが。
「つまんないなー。ウィズの甘酸っぱい話が聞きたかったのにー」
「悪いな。魔族は戦いの方が好きなんじゃ。ああ、あと、おぬしの話は言わなくてもいいぞ」
「えー…………中学の時に保育園のボランティアに行った時の話を聞きたくなーい?」
「聞きたくない」
「つまんなーい。出禁になったってオチが秀逸なんだけどなー」
「それだけですべてを察せる。おぬしはよく捕まらなかったな」
多分、容姿のおかげだろうな。
誰に何を聞かれても、下を向いていればいい。
それだけで、絵面的に悪いのは向こうになるのだ。
「まあ、危ない時もあったけどねー」
高校の時とか、大学の時とか、この前のエリちゃんとか……
「実際、おぬしは捕まる寸前だったしのう。おぬしはきっと地獄に落ちるんじゃろうなー」
悪魔が何を言っているんだ?
てか、一緒に地獄に落ちるって言ってたじゃん。
「ふっ……地獄なら180年前に20年も見たわ」
私は髪をかき上げ、かっこつけて言う。
「うーん、あんまりかっこよくないなー。容姿のせいか、理由のせいか…………」
どっちもだと思う。
私達はおしゃべりをここまでにし、奥へと進む。
すると、運が良かったのか、ユニコーンとかなり遭遇することが出来た。
ユニコーンは魔法を使ってくるモンスターだ。
角からなんか出る感じ。
でも、まあ、お察しの威力である。
しかも、魔法を使う時は足が止まるため、私の魔法の餌食だ。
私はじゃんじゃんとユニコーンを狩っていき、角を集めた。
「ハルカ、そろそろ帰ろう。妾はお腹が空いた」
ウィズにそう言われたため、時計を見る。
時刻は夕方の6時過ぎ。
確かに、いい時間だろう。
「帰ろっか」
「そうしよう」
しかし、怠惰な私が時間を忘れるくらいに働いている。
成長したもんだなー。
私達は魔方陣があるところまで戻り、ギルドに帰還した。
そして、いつも通り、お爺さんに武器を預け、受付に向かう。
「精算をお願い」
「あのー、番号をー……」
受付の人は申し訳なさそうに、機械を指差す。
そういえば、そうだった……
私は素直に機械のところに行き、番号が書いてある紙を取る。
そして、ソファーに座って待つことにした。
「よう」
ソファーに座った私に声をかける者がいる。
まあ、視界に入っていたので、相手はわかっている。
ロビンソンだ。
「貴様も帰りか?」
私は後ろを振り向き、ロビンソンに言葉を返した。
「まあなー。晩飯時には帰らねーと。それよか、助かったぜ。マジで効いた」
毒のことだろう。
「我は嘘をつかんし、奉公にはそれ相応の報いを与える。これぞ高貴なる者の務めなのだ。しかし、貴様はガンマンだろう? どうやって毒を使ったんだ?」
銃弾に塗ったのかな?
「いや、仲間の槍に塗った。それをちょっと突くだけで効くから楽だったぜ」
ん?
「貴様、仲間がいるのか? この前は一人だったではないか?」
「いや、言ったら悪いけど、あんな依頼に仲間を巻き込めねーよ」
まあ、ロビンソンは30階層で主に活動しているらしいし、そんな連中が5階層には付き合わないか。
でもねー……
「それは本当に仲間? 利用されてるだけじゃない?」
私はちょっと心配になってきた。
「いや、何でだよ」
「だって、あんたに仲間がいるわけないじゃん。30過ぎたおっさんがこんな格好してるんだよ。ありえないって。絶対にバカにされてるって」
私なら陰口を言うね。
「おーい、ひでーな。ってか、キャラが崩れてんぞ。高貴で傲慢なバカキャラを通せよ」
「バカなんか演じてないわ!!」
「素だったか…………すまん」
謝んなー!!
私はバカじゃない!
「ふっ……我は生まれた時から高貴なのだ。キャラって何だ? キャラメルか?」
「ほら、バカじゃん」
ギャグを言っただけで、バカ扱い。
おかしい……
「ふん。まあよいわ」
「それとさ、お前さん、このままソロで行く気か?」
「我は群れん。群れるのは弱いからだ」
まあ、実際はウィズがいるんだけどね。
「これはアドバイスだが、ダンジョンでソロは止めた方がいいぜ。お前の実力を否定しているわけじゃない。ソロは危険なことも多いが、それ以上にやっかみや勧誘がくる。右も左も知らないルーキーなら、なおさらだ。言っておくが、マジでうぜーぞ」
ロビンソンは苦虫を噛み潰したような表情で言ってくる。
「経験したような口ぶりだな」
「経験したからだ。俺は長いことソロだった。まー、勧誘や妨害がうざかったわ」
やっぱりソロだったか。
「勧誘はまあ、わかるが、妨害なんてするのか?」
「ウチに入らないなら潰してしまえ。そう考えるバカパーティーが多いんだよ」
それは確かにウザいね……
「面倒だなー」
「ランキングの弊害だな。皆、ランカーになりたくて必死なんだ」
「貴様はそれが嫌でパーティーを組んだのか?」
「いや、今のパーティーは大学のサークルの後輩連中なんだよ。一人、結婚して抜けたから代わりに入ってほしいって、頼まれてな。まあ、付き合いの長い連中だから入った。だけど、俺が大手のギルドじゃなくて、ここで活動している理由はやっかみや妨害がうぜーからだ」
うーん、自分でもわかるが、私は目立つ。
確かに、妨害や勧誘があるかもしれんな。
「なるほど。忠告に感謝する」
「気をつけな。それに仲間はいいぜ。稼いだ金で一緒にバカをする。楽しいわ」
「まあ、わからんでもない」
ウィズとパーティーをするのは楽しいし。
「お前さん、すでに注目を集め始めてるぜ。少なくとも、大手さんは調査に入ってる」
「我が? Eランクだぞ?」
「免許取って、3日で5階層に行くヤツを放っておくほど、大手は甘くない」
うーん、というか、大手って何?
会社?
『クランじゃ。パーティーの集合体』
なるほど。
それはゲームで知ってる。
「ふむふむ。よくぞ教えてくれた。貴様も我の下僕としての自覚に目覚めたか」
「実はそうなんだ。だから、キラーエイプの弱点を教えてくれ」
だと思ったわ!
私はロビンソンにキラーエイプの弱点を教えた。
そして、受付で精算し、家に帰ることにした。
本日の成果
サソリの毒 4000円×23個 = +92000円
ユニコーンの角 10000円×36個 = +360000円
計 +452000円
はるるんの所持金 56万円