第018話 下僕は逆らわないこと!
私の部屋に来て、散々、暴れたキミドリちゃんはワインを何本も開け、しまいには、潰れてしまった。
私はキミドリちゃんをソファーに放り投げると、ウィズとでっかいベッドに行って、就寝した。
翌朝、二日酔いで頭が痛そうなキミドリちゃんにキュアの魔法をかけ、1階のバイキング(ビュッフェ?)で朝食を取ると、タクシーでキミドリちゃんの車を取りに行った。
そして、キミドリちゃんに家まで送ってもらうと、その日は家でのんびりすることにした。
なお、キミドリちゃんはそのまま仕事に行くらしい。
私は昨日のスイートの部屋とは比べまいとし、ゲームをする。
ウィズのため息がたまに聞こえるが、無視し、ゲームを続け、昼過ぎには就寝した。
そして、翌日の昼に起きた私はご飯を食べ、ギルドに向かった。
ギルドに着くと、多くの探索者の注目を浴びながら、受付に向かう。
しかし、受付には、キミドリちゃんがいなかった。
「あのー、キミドリちゃんは?」
私は別の受付の職員に聞いてみる。
「あー、キミドリちゃんは体調を崩したそうです。どうせ、飲み過ぎだと思います」
ダメな人だなー。
というか、ギルマスなのに、キミドリちゃん呼ばわりか。
まあ、親しみのある人なのだろう。
『舐められておるか、尊敬できないからじゃろ』
ウィズは素直だなー。
正解だと思うけど。
「ふむ。では、ダンジョンに行くので、頼む」
私はそう言って、探索者カードを差し出す。
「あのー、あちらの機械で番号表を取って、お待ちください」
はい…………
いつもはキミドリちゃんが順番を無視して対応してくれていたが、他の職員は無理らしい。
キミドリちゃん、かむ、ばーっく!
私は渋々、番号表を取り、ソファーに座って待つことにした。
10分ぐらい待つと、順番が来たので申請し、お爺さんのところに武器を取りに行く。
武器を受け取ると、ダンジョンに行き、ワープを使い、7階層へ向かった。
「スコーピオンは4000円じゃったのう。ちなみに、これ以降は何じゃ?」
ウィズが聞いてきたので、私は携帯で調べてみることにした。
「えーっと、次の8階層がオークで5000円ねー。ただし、ドロップ品がオーク肉だから値段が鮮度でかなり変動するみたい。9階層はゾンビちゃんねー。ドロップ品が呪いのかけらで2000円……って、やっす! 私のフレンドちゃん、やっす!! んー、10階層はユニコーンね。ドロップ品はユニコーンの角で10000円」
いやいや、ゾンビちゃん、どうしたの?
もっと頑張ろうよ!
「うーむ。オークもゾンビもおいしくないのう」
オークは5000円で変動するのが嫌だな。
だったら、安定した4000円の方がいい。
ゾンビちゃんは論外。
「ここが終わったら10階層に行こっかー」
「そうじゃな。とりあえず、スコーピオンで稼ごう」
方向性を決めた私達は奥へと進んでいった。
奥へ進んでいくと、ウィズの足が止まった。
「おっ! サソリの匂いじゃ。おるぞー」
「スコーピオンはわかるんだ?」
「毒の匂いでわかる」
毒の匂いなんてあるんだ。
わかんねー。
私が鼻をスンスンさせていると、前方から犬のサイズくらいのサソリが現れた。
「おー、スコーピオンだ」
スコーピオンはそんなに速く動く魔物ではなく、アトレイアでは草むらの中とかにいた。
安易に草むらに足を踏みいれると、毒の尻尾で刺されることもあり、大変危険な魔物なのだ。
だが、ここはダンジョン。
隠れる場所はない。
「闇夜に眠る冷酷なる神よ! ここに悪を証明し、正義を討て!! アブソリュート・コンプレッション!!」
私が魔法を使うと、見えない魔力がスコーピオンを押し潰す。
スコーピオンはべちゃっと潰れ、えびせんみたいになり、息絶えた。
そして、その場には小さな小瓶だけが残った。
「おぬしは変な魔法が多いのう」
一生懸命、考えたんだぞ!
…………エターナル・ゼロさんが。
「これが毒かな?」
私はウィズを無視して、ドロップした小瓶を拾う。
「じゃろうな」
「毒なんか、何に使うんだろ? 暗殺?」
「さあ? 血清か何かでは? 妾も知らん」
まあいいか。
使い道がなんであれ、これは4000円で売れる。
それで十分。
私達はその後もスコーピオンを見つけては、退治し、4000円を手に入れていく。
1時間以上は探索をしていたと思う。
結果、24個の4000円を手に入れた。
なお、計算はしない。
「飽きた」
「まあ、代わり映えがせんしのう。10階層に行くか?」
ウィズも飽きているようだ。
「そうね。ちょっと待って」
私は携帯を取り出し、電話をする。
相手はもちろんロビンソンだ。
トゥルルルル、トゥルルルル、トゥルルルル…………
出ないな…………
トゥルルルル、トゥルルル、ガチャ。
『はーい。何でしょう?』
電話越しにロビンソンの声が聞こえてきた。
「貴様、我の電話はワンコールで出らんか!」
私はトロトロしていたロビンソンを怒る。
『いや、今、ダンジョンにいるんだよ。ウェアウルフと戦闘中だったの』
ウェアウルフ?
結構、強い魔物だな。
「関係あるか! 電話に出ながら戦え!」
『無茶言うなよ…………めんどくせー』
だーれが、めんどくさい女だ!
「いいから出る!」
『わかった、わかった。で? 何だよ?』
ロビンソンはめんどくさくなったようで、用件を聞いてくる。
「ふむ。実は大変に奇遇なんだが、我もダンジョンにおる。貴様にとても名誉な仕事を与えてやろうと思ってな。10階層へのエスコートを命じよう」
感謝したまえ。
『嫌』
「断るだと? 貴様、死にたいのか?」
『俺も仕事中なんだよ』
「ほう? どうしても断ると?」
いい度胸だ。
『そう言ってんじゃん』
「では、お望み通り、殺してやろう。我は警察に行き、貴様に乱暴されたと言う」
『おい! こら! それ社会的に殺すやつだろ!』
「そうだな。でも、安心しろ。貴様は無実だろう。だから、きっとすぐに釈放になる。なーに、少しの間、ひそひそされ、娘と嫁に冷たくされるだけだ」
うんうん。
『てめー……! 絶対にロクな死に方しねーぞ』
「大丈夫。キミドリちゃんいわく、我は死なないそうだ」
『だろうな! ドクズ!』
ロビンソンはそう吐き捨てるよう言い、電話を切った。
「よし、魔方陣に行こう」
「素直じゃない小僧じゃのう。素直に連れていくと言えば良いのに…………」
まったくだ。
オヤジのツンデレはキモいだけだというのに。
私とウィズはやれやれと思いながら魔方陣があるところに戻ることにした。
そして、歩いて魔方陣のところに戻ると、すでにロビンソンが来ていた。
「お前、呼び出しておいて、いないってどういうことだよ?」
ロビンソンはタバコを嚙み潰す。
「貴様が早いのだ。まあ、ジェントルマンはレディーを待つものだろう。良いことだと思うぞ」
感心、感心。
「なーにが、レディーだ。もっと大きくなってから言え」
「残念ながら私の身長は小学校低学年で止まったよ。ほれ、特別に手を取らせてやろう」
私は魔方陣に乗ると、手を差し出す。
「そうしねーと。飛べねーからな……」
ロビンソンが私の手を取ると、すぐに視界が真っ白になる。
そして、さっきと同じ光景に戻った。
「ここが10階層か?」
「9階層じゃないから安心しろ」
9階層…………
ゾンビか。
「やはりゾンビは不人気なのか?」
「そりゃな。ゾンビなんて気持ちが悪いもんを相手にして、やっすい素材なんか、誰が集めんだよ」
ゾンビちゃんは不人気。
かわいそう…………
まあ、でも、私も2000円は嫌。
「ご苦労であったな。次も呼ぶからちゃんと電話に出るように。間違っても着信拒否なんか考えないように」
「次って……お前はここが上限だよ」
「我は今日の探索を終えればDランクだ。キミドリちゃんが言ってたから間違いない」
「それ、言っていいやつか?」
「んんー? そういえば、ダメだったかもしれんな。まあ、構わないだろう。貴様が黙っていればいいことだ」
ロビンソンは良いヤツだからチクったりしないだろう。
「あっそ。マジで電話に出れるかはわかんねーけどな。ウェアウルフがうぜーから」
ウェアウルフは群れるからなー。
「ふむ。褒美に良いことを教えてやろう。ウェアウルフは毒に弱いぞ。毒を食らえば、すぐにもがきだす」
アトレイアでは常識だ。
「ほれ、いつぞやのスライムゼリーのお返しをしてやる」
私はそう言って、スコーピオンの毒小瓶を投げ渡す。
「お前、何でそんなことを知ってんだ?」
ロビンソンは小瓶をキャッチすると、私に疑いの目を向けた。
「キミドリちゃんに聞いた。そういうことにしておけばいい。詮索するな。貴様は得意だろう?」
「まあいいけどよ。ホントに効くのかー?」
ロビンソンは小瓶を掲げ、片目で凝視する。
「試せばよかろう。試して効かなかったとしても、デメリットはあるまい。ではな。ご苦労だった。我は10000円収集に向かう」
私はそう言い残して、かっこよく奥へと進んでいった。
久しぶりに決まった気がする!!