旅立ち
日曜は、ペルセウス邸には行かず、四天王と待ち合わせた。使い烏を飛ばし、都合のいい誰がと誘ったが、4人揃っての登場だった。
4人は角や牙を隠し、髪や目を人族に合わせた変身をしているが、美形がここまで揃うと近付き難い様で、結構な人が集まった広場でも彼等の周りだけ不自然に空いていた。その空間にいる派手な4人は容易に見付けられた。
ペット同伴可能なレストランでランチ。
「ねぇ、デニスって今どうしてるか知ってる?」
「パットの従兄の?」
ジョナサンは如何にも嫌な顔だった。
「あの変身騒ぎで、国外追放だっただろう?その後は聞いて無いな。」
ショーンの回答に3人も頷くだけだった。確か祖父同士が従兄弟なので本当は従兄って言う訳じゃ無いが、細かい事は気にしない魔王が甥と言っていたので、パトリシアの従兄で通っていた。
変身騒ぎとは、次代の魔王候補として、遠縁のデニスがパトリシア達と暮していた。子供らしからぬ魔力で、魔王は養子に迎えるか、将来パトリシアの婿として迎えるかの2択と思っていたが、パトリシアと仲の良い男の子に焼き餅を妬いて、犬に変身させてしまった。野良犬として放浪して死後、魔族だった事が解り、デニスの仕業と判ると魔力を封印されて追放されている。
「ほんで、ワンちゃんのウォーレンが殿下の変身か疑っとんのやな?」
パトリシアが頷くとケヴィンは更に、
「ちゅう事は、デニスが妬く様な関係っちゅう事やね?」
レグルス公爵邸での出来事を正直に話して、名前も占い師が決めた事も報告。着替えを見ない紳士的な仔犬の事を話すと、
「可能性はあるな。封印を解いて舞い戻ったか、パットにプロポーズした男に魔法が掛かるように時限爆弾みたいな仕掛けをしていたかも知れないな。もしそうなら厄介な話しだな。」
ジョージは眉間に皺を寄せた。
「やはり、御父上に相談すべきですね。あと、ワンちゃんが殿下なら、パットの秘密はバレちゃったかな?」
パトリシアは秘密より、犬のウォーレンが、ただの犬である事を証明したくて、実家を頼る事にした。
魔王の屋敷に行って、それぞれ変身を解いた。犬のウォーレンは一瞬怯えたが、パトリシアが抱き上げると、何時ものような穏やかな表情になった。
魔王は仔犬を見ると、何か術を掛け暫くすると、
「確かにデニスの術だな。ジョージの想定通りだ。子供の頃に罠のように掛けた術だ。この手の術は、掛けた本人が解除するか、死亡しないと解けないぞ。」
「じゃあ、やっぱり殿下なのね?」
魔王は頷いた。
先ずは、デニスを探して、術を解かせる。術の効果が活きていると言う事は、デニスが生きている事が証明されているが、何処に居るのかは全く手掛かりは無い。探し出すしかないと、今後の事を話し合った。
取り敢えず、探すにしても、国外追放なので、探しに行くだけでも一苦労。大陸だけでも相当な広さを探す事になる。子供の頃の魔法が、今でもしっかり効果する位なので、封印を解いたがどうかは別にしても、一筋縄ではいかない事は想像出来る。
「5人と1匹で旅に出るといい、しっかり修行して、面倒な事を片付けて来るがいい。」
翌日、ギルドに出勤しマスターに打ち明けた。マスターにだけは、魔族である事を話してあったので、退職を申し入れると割とすんなりと、
「退職じゃ無く、休職ね!」
何時戻れるか解らないけれど、休職扱いにして、送り出した。
次のハードルはペルセウス家。奥様を訪ね、自分が魔族である事を含め、洗いざらい打ち明け、変身を解除する為の旅に出る事を告げた。
「もしかして、魔族だからってウォーレンを振ったの?そんな事気にしなくって良いのよ。あと、兄達にはわたしが上手く言っておくから心配しないでね。」
ニッコリ笑って送り出してくれた。
馬車やテント、アウトドアグッズを調達して、旅の準備。アルタイルファミリーと交流の少ない所から探す事にした。
一応、人族の国を国と呼んでいるが、魔族は魔族でそれぞれの魔王のテリトリーがある。人族は河川の両岸に街を作り、行来し辛い山岳が国境となるが、山岳部に住んでいた魔族は、山を中心に河川がテリトリーの終端になる事が多い。人族の国内でも、川を渡ると、魔族のテリトリーとしては隣国になる場合もある。一行は先ず川を渡り、デニスの行方を追った。
アルタイルとは友好的な地域なので、デニスが居るとは思わないが、どう探したら良いのかも解らず魔王邸を訪ねた。手掛かりは無かったが、他国の流れ者を重用して勢力拡大を図っている国がいくつかあり、その中でアルタイルファミリーと対立する地域を教えて貰えた。いくつか国境を越えての地域らしいので、取り敢えずそこまでは簡単な聞き込み位で進む事にした。
ギルドの依頼を熟して日銭を稼いで、調査をしつつ、旅を楽しんだ。街によっては人族に混ざって魔族が普通に暮らしていたり、逆に魔族を全く見掛けない街とか様々だった。魔族の変身を見分ける専門家が監視している街まであり、ちょっと息詰まる事もあったが、順調に旅を続けた。
「今夜は満月だけど大丈夫か?」
「うん、テントのシートに魔法陣書いて有るからね、大丈夫!」
パトリシアは陽があるうちに変身を解いて無駄に魔力を消費、鋼熊の毛皮の寝袋に潜り込んだ。結界を張って落ち着かない夜を過ごす。
屋敷を出て徐々に自分をコントロール出来るようになって来ているが、教会のチカラ無しでの夜は初めての体験なので、実際には口で言う程大丈夫とは思っていなかった。
意識を保っているうちに眠気がやって来た。このまま眠りにつくのか、寝惚けて暴れるのか、緊張が走った。眠気が遠退き緊張が高まる。叫びたい衝動に駆られると、ペロリ。頬を舐められた。ウォーレンがいつの間にかテントに入って来ていた。取り乱した場合、四天王達が助けに入れるように、結界は仲間はフリーで張っていた為、ウォーレンも仲間相当だったようだ。パトリシアはウォーレンの温もりに癒やしを感じ、寝袋の紐を緩めた。頬を舐めていた舌は、唇に移動し、舌同士が絡む頃には、厚みのある人族のそれに変わっていた。細い前足もいつしか手になってパトリシアの乳房を包んでいた。暗さに慣れた視界には、紛れもない人族のウォーレンが仰向けのパトリシアに重なっていた。
パトリシアは心地良く揺れ、悦びを堪能した。取り乱すことも無く眠りに着いたようだ。爽快な目覚めの筈だが、抱きしめている仔犬を見ると、昨夜は妄想だけで悦んでいたのか、犬を相手にしていたのか、どちらにしても乙女心としては大失態に思うパトリシアは欠伸に混じって大きな溜め息をついた。