パトリシアの記憶
温泉での治療が続き、ウォーレンが犬になって1か月が過ぎた。
「ど、どないしたん?変身失敗なん?」
犬のウォーレンは、ウェンディに変身していた。
「パトリシアのお世話には、こっちの方が便利ですし、あの子達眼の色、紫と青で行ったり来たりよね?そっちのお世話も必要でしょ?」
ウェンディはニッコリ笑って、浴場に入って行った。
温泉の効果は、石化そのものを癒やす事よりも、骨や内臓の石化を表面に移す事を主な目的としていて、お湯に浸かってカチカチになった皮膚を魔術師の手当で柔らかくして、またお湯に浸かる。それを繰り返していた。
ウェンディが手伝おうと近付くと、石のビキニを穿いた様に石化が残っていた。
「そこは、直接触るのは失礼だと思いまして、周りが回復すればそちらも・・・。」
「では、私が受持ちますね。」
確かに触り辛いと思いつつ、通常は触る事がほぼほぼ無い部分に手を当てて魔力を込めた。石化した部分が狭まって来ると、ウェンディと言うか、元々のウォーレンの感情として、罪悪感にさいなまれたがそこが復旧して、消化器が入口から出口まで繋がると、薬が飲める様になる為、使命感を優先してヒールを続けた。
日中は温泉、夜は四天王が交代でヒール。ウェンディは、セレス達の眼を紅くすべく、ベッドで奮闘した。
数日繰り返し、パトリシアの外観に石化が見られ無くなり、薬を飲ませて見た。内臓は機能し始めた様で、流動食を与え、ヒールによる生命維持が必要無くなったのを確認した。初日に施していた、薬草を燻した治療が再開、眠っている脳を呼び起こすのが目的。夜まで頑張って、ウェンディに任せてテントを出て行った。
その夜は満月で、パトリシアが満月の影響で復活するのではとの期待を込めた予測でウェンディは眠り続けるパトリシアに添い寝した。
月が昇り、日付が変わり、月と朝日が交代しても2人に変化は無かった。一睡もしなかったウェンディは、うとうとし始めたが、聞き覚えのある明るい声で、睡魔の世界から引き戻された。
「満月の夜を堪能したら眼が赤くなったの!」
女性に戻ったセレス達が口々に昨夜の報告をした。先月も、満月の夜にオレンジから赤に変わったが、前回の変身から1か月経っていなかったので戻れず、石化のハプニングで、赤をキープできずに、紫に逆行。やっと緑迄進んだばかりだった。満月の影響で元の姿になり、ひと晩の満足で、眼は一気に赤になり、そのまま元に戻ったとの事。
ウェンディは、『もしかして、紫からでも、満月の夜の影響なら赤迄ジャンプアップしたのかな?』なんて思いながらも、パトリシアの回復だけがミッションになった事を喜んだ。
早朝到着したのは、前回スコップ持参だった男性魔術師で、テントのあちこちに呪符を貼り、呪文を合唱した。昼迄繰り返され、疲弊しきった魔術師達はバタバタと倒れて行った。
「ご自身が身を護る為に自動的に発動した魔法です。記憶をしまい込んでいるようです。魔力が高過ぎて、我々の術が浸透致しません。」
「私達が魔力を補助します、今一度お願いします!」
ショーンは魔術師に回復剤を渡して、昼食の後、2回戦に挑んだ。
四天王の補助を受けた魔術師の術は、あっさりとパトリシアの眠りを切り裂いた。視線が定まらないパトリシアは、呼び掛けにも応え無かった。流動食を食べ、直ぐにまた寝込んでしまった。
爆睡は翌朝まで続いた。朝日と共に目覚めたパトリシアは、通常の食事をして、ぼっと宙空を見つめていた。ウェンディが話しかけても上の空。千切れて乱れた髪をショートにして、石化からの経過を話したが、やはり反応は無かった。
「私が、その、パトリシアなのね?」
魔力を測定するとほぼゼロ。当然、簡単な魔法も使えず、魔族の姿に戻っていた。
「この状態で挨拶回りもムリだな。一旦アルタイルに帰ろう。船を使えば、その姿でも然程支障無いだろう。」
ジョナサンは、船の手配を始めた。
改めて旅支度、バタバタしている中、ウェンディはジョージとケヴィンにこっそり何か告げると、二人は目を輝かせて出掛けて行った。パトリシアが記憶の整理と言って部屋に籠もってから、皆んな元気が無かったが、久しぶりに見せた笑顔は1時間程で大きな買い物袋を両手に提げて帰って来た。ジョージの両手分とケヴィンの片方を渡されたウェンディは、驚いた様子も無く、ジョージから説明を受けて頷いた。ケヴィンは残った1つをジュノーに渡し、セレス達を集めて何かを話すとやはり頷き、子供達を連れて部屋に帰った。
しばらくして、セレス達が子供の手を引いて再登場。子供達は、四段校の制服を模したブレザーにチェックのプリーツ。未就学児に大人気のスタイルらしい。直ぐ後から現れたのは、同じ衣装で少しお姉さんな位の女の子を連れたウェンディだった。
「記憶が無いと戸惑う事が多いでしょ?この姿なら、戸惑っていても不自然じゃ無いと思うの。妖精の魔法なら大丈夫かと思って試して見たら、上手くいったの!」
確かに、大人がモジモジしていては、ちょっとした不審者なので、上手い回避策かも知れない。5歳位になったパトリシアを四天王達は目を細め、子供達は思わぬところで現れたお姉さんに興味津々、ジワジワと距離を詰めていた。
シリウスまで船を使い、シリウスからは、デネブに向かう事にした。特殊な魔法に関しては、魔王デネブの知識が期待出来るので、目的地を変更した。




