石化
慌てて戻った四天王は頭を無くし仁王立ちの巨人を砕き、セレス達は石像になったパトリシアに駆け寄り泣き崩れた。
「大丈夫、時間は掛かるかも知れないけど、元に戻れるさ!」
ショーンは石像になったパトリシアが嵌めている護りの指輪を回し、
「ほら、指輪の周りは石化していないだろ?ここからヒールを掛けるんだ!」
ショーンは眉間に皺を寄せ、ヒールを続けると、肌の部分が徐々に増えて来て、第3関節と手の平の少しが肌になると、ショーンがふらついて、
「任しとき!」
ケヴィンが交代、
「じゃあ仮眠を取るから、後は頼んだぞ!」
ジョナサンは馬車で目を瞑った。
薬指が元に戻ると、
「ジュノーもやって見ぃ、ガッツリ魔力使い切ったら、魔力アップにもなるで!」
ジュノーに交代!フラフラのケヴィンが千鳥足で馬車に転がり込んだ。セレス、パラス、ベスタが続け、中指と小指が肌に戻ると、ジョージがその中指と小指を握り、
「だいぶ効率良くなって来たよ!」
手の平の肌部分が増え、人差し指と親指が肌になった。中指を親指に握り替え更にヒールを掛け続け、手首迄肌の部分が増える頃にはすっかり日が落ちていた。
「うん、回復出来た!」
ぐったりしていたショーンが、回復剤を煽って交代、手首から先は普通に動く様になっていたので、握手をする形でヒールを掛けた。交代でヒールを掛け肘迄戻ったのが深夜、日が変わる頃。仮眠していたジョナサンが起きて、
「しっかり回復してくれよ!」
交互に指を絡める、恋人繋ぎでヒールを続けた。
夜間は、回復より保存目的で朝までヒールを続ける。ジョナサンが一人で賄い、他のメンバーは翌朝から回復にあたる。
使い烏を飛ばし、助っ人を求めているがが、なしの礫。朝になり、不思議に思って調べると、近くに大型の魔鳥の巣が有ったので、きっとエサになってしまったのだろう。改めて飛ばしたが、やはり魔鳥のエサになっていた。
ショーンとベスタが子供達を連れて屋敷に戻り、助っ人を依頼した。魔力自慢の幹部4人を連れてパトリシアの元へトンボ返り。肩迄肌が戻っていた。回復を助っ人に任せ、四天王達は、周囲の岩を砕いて回った。それらしい岩が3つ有り、どれも巨人になり得るもので、魔石を幾つもゲットした。
パトリシアは首、胸とはだの部分が拡がっていた。
「もう少しだな。」
4人が手を取り、片手には岩の巨人か落とした魔石を握り、渾身の魔力を込めた。左の乳房に弾力が戻ると、冷たかった腕に血液が巡り、温もりを回復した。
動けないパトリシアを囲う様にテントを張り、カーディガンを羽織らせ、首に枕のような物を巻きつけた。魔力を使い果たした四天王は爆睡、助っ人達に見張りを頼んで、セレス達が仮眠を取りながら交代でヒール、左の肩、顎の辺り迄肌が拡がってきた。
朝、四天王が目を覚ますと、肌の部分が上は鼻まで、左手は肘迄進んでいた。ショーンが頬を包む様に手の平で覆いヒール、止まっていた呼吸が再開した。
「今までは注ぎ込んだ魔力の大部分が生命維持に費やされてたけど、これからは、回復に使う割合が増えるから、肌の拡がりは加速する筈だ。頭と左手が戻る迄フルパワーで突っ走るぞ!」
ショーンは引き続き魔力を注ぎ込んで肘の先の肌をジワリと増やした。夕方まで掛かって、左手の指の第3関節が肌に戻ると、
「よし!これでまた効率アップだ!」
ジョージは右手の指を交互に絡めると、指先まで直ぐに肌に戻った。眼の上辺りで停滞していた、顔の部分に進展が有った。石じゃ無くなっても、表情が固まったままだったが、額まで復旧すると、スヤスヤ眠っている様に見えて来た。
街からの通路が整備され、回復を生業とする魔術師達も加わった。現場の状況を見た魔術師達は、巨人を倒し、子供達を護り、自身も命を繋ぎ留めたのは、パトリシアの有する膨大な魔力と護りの指輪、電光石火の先制攻撃と自らを盾にした捨て身の防御、どれ1つとして欠けていたり、攻守のタイミングがズレていたら、子供達とともに石になり、巨人の暴走による街の崩壊に繋がっていたはずだと舌を巻いていた。
魔術師達が用意していた道具は以外な事に、つるはしとスコップ。医術的な道具を想像していたケヴィンは、
「ココ来るまでの道、キレイにしてくれたん?」
魔術師達は、
「まあ見ていて下さい!」
パトリシアの周りの地面を掘り出した。地面と言っても、パトリシアと一緒に石化しているので、掘ると言うより、削る様な感覚で、スコップの出番は無くなり、タガネとハンマーが活躍した。1日掛けてなんとか、パトリシアを中心に直径50センチ、深さ5センチ程の凹みを作り、そこに薬湯を満たした。魔術師達は、パトリシアへのヒールは一切せずに、満足した表情で帰って行った。
翌日も同じ魔術師がやって来て、掘った凹みを更に掘った。昨日と違うのはタガネの出番は無く、スコップで掘り出されたのは、砕かれた石では無く、砂っぽい土だった。午前中で周りを掘り、円い穴の中心の台座に立っている感じになった。再び薬湯で満たし、また明日来ると言い残して魔術師達は帰って行った。
土木作業中も、ヒールは継続していたが目に見えての効果は少なかった。夕方、頭部の石化が解除され、髪の毛が繊維状に戻っていくと、毛先が石の状態で髪が千切れて掘っている凹みに落下し薬湯に沈んで勢い良く泡を立てて消えてしまった。
また夜通し交代でヒールを続け日が昇る。この日到着した魔術師は、昨日迄の男性の1人と新顔の女性が4人だった。
フッと一息で薬湯を消すと、運び込んだ担架をパトリシアの背中に当てて、
「そこと、そこ、お願いします!」
足元をケヴィンとジョージ、頭の上をショーンとジョナサンが支えると、
「行きますよ!」
残っていた台座風の地面にスコップを突き刺して煽ると、パトリシアは直立の姿勢のまま傾き、担架に受け止められた。
ヒールの主導は女性魔術師に交代し、石のままになっているウエストの辺りに手を当て、肌の部分を増やしていき、
「男性はテントから出て下さい!」
ゾロゾロとテントから出て行き、ウォーレンも出ようとしたが、
「貴方は居てあげて!」
ジュノーがウォーレンを制してから出て行った。
ランチの頃、
「もう入っても良いですよ!」
テントの中のパトリシアはパジャマを着て横になっていた。
そのまま担架で馬車迄運び、4人掛かりで馬車に乗せた。股関節と膝を何とか曲がるだけヒールしてあり、石化魔法に効く温泉に向かった。
馬車で行ける所からは結構な距離があり、担架でその先を進み、なんとか浴場迄4人で運ぶと、また女性魔術師に追い出された。
遅いランチを食べながら待っていると、女性魔術師達も交代で食事に出て来て、また待機。夕方になって、中からお呼びが掛かった。
パトリシアは意識が無いままだったが運び出す際に動かすと、関節の動きが自然な感じになっていた。また担架でテントに運び、またまた追い出された。テントの隙間からは、薬草を燻した煙が漏れ、ランプが映し出す影を見ると、交代でヒールを掛け続けている様子だった。