武勇伝
ギルドに帰って報告書を作り、新人(の振りをした)3人の買取りを担当した。特大ミノタウロスの角を出したら、エマやアーリンなら大騒ぎになりそうなので、パトリシアがカウンターに入ってから並ぶよう打合せてあった。
「先日のオークの経験値が登録させれいませんよ?今日のと合わせたら、飛び級で一気にDランクですよ。」
パトリシアの質問に、小声で
「Fのプレートは偽造なんです。」
コッソリとAランクのプレートを見せた。パトリシアは意味が解らず戸惑ったが、特に害があった訳でも無いので、事務手続きを文字通り、事務的に済ませ三人を見送った。
外勤が続き、溜まっていた仕事を片付けていると、ギルドマスターが、
「君のお付きの娘が来て伝言を頼まれたよ。」
「えっ?」
実家の使用人が、訪れる筈は無いので不思議に思っていると、
「ほら、昨日来たパトリシア姫の従者だよ!」
「あら、ペルセウス公爵家の?公爵夫人のお戯れでお姫様ゴッコしてただけですよ。あっそれで伝言は?」
「ああ、奥様は土曜日の夕方迄お留守だそうだ。約束でもしてたのか?」
「いえ、そう言う訳では無いんです。昨日のドレスとかお返ししようと思いまして。あっ、明日の朝は普通に出勤しますね。奥様がお留守の時にお邪魔しても失礼ですから。」
ギルド勤務の休日は、日祭日と、隔週土曜日。木金と普段の仕事をして、お休みの土曜日は、溜まった洗濯や部屋の掃除で午前が潰れ、午後はのんびり、公爵夫人への手土産を、考えながら商店街を彷徨った。お屋敷のパテシエが美味しいスイーツを作るので、街中のお菓子が見劣りしてしまう。
「いっそ、平民しか食べない様な駄菓子なんか新鮮かしら?」
パトリシアは駄菓子の詰まった大袋を背負って、教会に戻った。ドレスとアクセサリーの入ったバッグを持って、乗り合いの馬車で公爵邸に向かった。
馬車の停留所から少し歩いて公爵邸に到着。門で要件を告げると、
「乗り合いでいらっしゃったのですか?一言頂ければ、お迎えにあがります!」
対応したのは、新人風冒険者のうちの2人だった。パトリシアがが驚いていると、先日のメイドさんが荷物を受け取り、衣装部屋に連れ込まれた。
「こちらがオススメです。」
メイドは、シックなワンピースが5着程掛かったハンガーラックを引き寄せた。逆らう雰囲気じゃ無く、ワンピースに着替えると、メイドはアクセサリーのケースを持って来て、衣装に合った物を選びドレッサーの前に座らせ化粧筆を走らせた。
あっという間に高貴なお嬢様に変身させられると、
「お部屋はこちらです。」
入ってきたのとは違うドアを通るとゆったりした寝室だった。
「お荷物、如何致しましょう?」
「あっ、奥様へのお土産です。たぶんご笑納頂けると思いまして。」
「かしこまりました。ディナーの仕度が整いましたら、お迎えに参ります、暫くお待ち下さい。」
メイドは、両開きの大きなドアから広い廊下へ出て行った。
「失礼致します!」
ノックの音に答えると、ドアが開きさっきメイドがダイニングに案内した。
「いらっしゃい!楽しそうなお土産ね、デザートに頂きましょうね。」
選んだ経緯を正直に話すと、夫人はパトリシアの狙い通りに喜んでいた。
「待たせて済まない。」
ペルセウス公爵とウォーレン殿下が登場した。公爵の後ろには、新人風冒険者のもう1人が付き従っていた。
和やかにディナーを頂き、デザートの駄菓子に舌鼓。公爵様に食べさせて怒られ無いかとハラハラするパトリシアを横目に、公爵、奥様、ウォーレンは初めての味に感動していた。
「もう少し飲もう。」
公爵の誘いで、隣室のバーに移動。オススメのカクテルグラスを傾け、
「では、皆んなの武勇伝を聞かせて貰おうか。ウォーレンから頼むよ。」
ウォーレンは、チラリとパトリシアに視線を送ると、少し残っていたカクテルを飲み干して立ち上がった。
「商人に扮して、街の様子を調べていた時です・・・。」
商店街の裏路地で荷物を積んでいると、四人の盗賊達に囲まれ、武器を持っていないウォーレンは危機に立たされた。
「私、急いでるんです!」
修道服の女性が、盗賊の間をすり抜けようとすると、
「大人しくしてれば、痛い目には遭わせねぇのに!」
「キャッ!」
女性が避けようと身体を捩ると、摑み掛かろうとした盗賊は何故か地面に転がって呻いていた。
「てめぇ、何しやがる!」
一人が剣を抜くと、女性は弱々しくよろめき、他の盗賊に捕まった、斬りかかった盗賊の太腿には、自分の剣が刺さって、のたうちまわっていた。残りの二人が斬りかかると、いつの間にか女性が消え、盗賊たちは同士討ち。次に視界に入った女性は、付き倒された姿勢からフラフラと立ち上がると、痛そうな表情で、
「急いでるんで、失礼致します。」
サッサとその場を立ち去った。
ウォーレンは盗賊達を縛り、剣を抜いてヒールを掛けた。傷が治っても脂汗で立ち上がらない。ギルドの担当者が来て、
「ちょっとガマンしてね!」
ゴリっと鈍い音と、ギャッと短い悲鳴で盗賊達が落ち着いた。
「肩の関節が外れていました。」
「どなたか通報してくれたですか?」
「いえ、うちの職員がお使いの帰りに見つけてね、肩の事も聞いていたんですよ。」
ウォーレンはその後ギルドを覗いて見ると、さっきの修道服の女性は、カウンターで冒険者を捌いていた。
「・・・って言うのが、僕の武勇伝かな?」
『それって私の武勇伝?』とパトリシアはどう反応して良いのか解らず、次を促す公爵と、2番手に指名された奥様のお話しに切り替わったので、また大人しく聞き手に回った。
「馬車で隣町から帰る時です・・・。」
盗賊団に囲まれ、あっという間に外の護衛の反撃が無くなった。公爵夫人の馬車には、メイドが2人と、ギルドの女性が護衛として同乗していた。
護衛の女性はパチンと指を鳴らすとメイド達が気を失った。夫人は魔力防御のネックレスをしていたので、意識は有ったが、メイド同様に眠った振りをした。
護衛の女性は馬車を飛び出すと、男の悲鳴が聞こえ続け、静かになったかと思うと、馬車に戻り元の席に座ると、寝たふりをして、再びパチン。メイド達が目を覚ましたので、夫人も目覚めたポーズ。護衛の女性も遅れて目を覚ました(振りをした)。
「盗賊団は制圧したみたいです!」
外に出ると、盗賊達は瀕死状態で、護衛達は、重傷だが、応急のヒールで命に別状は無い様子だった。護衛の女性が更にヒールを掛けると、外の護衛の二人は、シャキッと目を覚ました。死なない程度にヒールを掛け、しっかりと樹に縛り付け、ギルドに使い烏を飛ばしていた。
「・・・と言うのが、私の武勇伝ですよ。」
次は自分かと、悩んでいたが、公爵は屋敷の護衛を招き入れた。