デニスの復活
変身の翌日。デネブ邸では、座敷牢から客間に移ったデニスは、丈はツンツルテンで横はダブダブの服でデネブと話していた。
「儂の服じゃ合わないが、まぁ先に話しを聞いてくれ。」
デネブは、幼少期のワルサでアルタイルを追放された事から順に説明し、
「デュアは納得していたからもう戻れないが、一応話しておくぞ。」
デネブが『奥の手』と言っていた魔法は、魔力放棄の魔法で、継続的に掛かっている魔法は解除され、自身の魔力はゼロになり一切の魔法が使えなくなるモノだった。
現状のデニスはアルタイルを追放された頃の記憶と知識に、デュアの記憶が所々見え隠れしている感じらしい。三十近い外見で中身は少年では苦労するだろう。
「魔力ゼロの魔族で生きるか、デュアになるか選ばせてやる。明日の朝まで考えるが良い。」
デネブは小遣いを渡して部屋を出た。
残されたデニスは、体型に合った洋服を買おうと街に出掛けた。洋品店を覗いて見たが、貰った小遣いの半分以上が消えてしまう価格だったので、躊躇って店を出た。路地裏を歩くと古着屋が見つかり、安く揃えられた。その後、商店街をブラ付いて、食堂で昼食を摂った。他の客の会話を聞いたり、まどの外の様子を見ていると、デュアの記憶が少しずつハッキリして来て、デュアの記憶の中の過去のデニスを知る事になった。段々とデュアの意識が芽生え、今のデニスと対等になり、明日回答期限の今後の生き方について、脳内で議論を重ねた。
結論には至らず、また街を散策したが、デニスの欲しい物とデュアが気になる物が違うので、明日には不要品になる恐れがあるので、何も買わずに屋敷に帰った。
同じ日の寮。
「あと3ヶ月なら卒業してからにしましょうか?」
あと数日で変身が出来る様になる事を聞いたウェンディは、直ぐには戻ら無いことを選んだ。少しずつ思い出すように蘇るウェンディの記憶を考慮すると、もう少しなので、卒業を選んだ様だった。
入浴の時の混乱や、就寝時のスタイルでまたまた戸惑ったが、以前にクリア出来ているので同じ様に解決して行った。
翌朝、ウェンディの記憶が戻り、犬のウォーレンの記憶も戻った様だった。
「随分と世話を掛けたんですね。」
照れ笑いのウェンディを見て、どの記憶で照れているのか想像したパトリシアは、一緒に赤面していた。
食堂が休みになっているので、帰省の準備の買い出しと併せて商店街に繰り出した。子供達はもう抱いてばかりではいられない位に育ったので、8人乗りの馬車を2台借りた。少し余裕があれば工夫してお昼寝なんかも出来るだろう。買い物を済ませ、ディナーのメニューを相談。盛り場のレストランに決めて向かった。
途中、薄暗い路地裏を通ると、見覚えのある派手なお姉さんが立っていた。犬にされていた老人のツレで歳の離れた夫婦の筈だが、どう見ても娼婦の客引きだった。パトリシア達に気付いた女は、
「あの、犬女のせいで、アタシの人生終わっちまったよ!」
いきなり愚痴り始めた。
犬になった夫に残飯を与えて、自身は飲み歩き、男を連れ込んで夜を楽しんでいたそうだ。変身が解けた時には、感動の再会を演じていたが、犬になっていた間の記憶を取り戻すと離縁され娼館に売られたそうだ。自業自得としか思えないが、本人は被害者だと思っているらしい。一通り喋ると気が済んだのか、道行く男性を物色して営業活動を再開していた。
デネブの屋敷に泊まり、翌朝アルタイルに出発。四天王が女性でいると、子供達の呼び方に支障があるので、改名している。シェリーはアストラエア、ジェニーはへーべ、グレンダはイリス、ケリーはフローラ。魔王デネブの命名で娘達と同様に女神様の名前を頂いている。
毎年帰省の度に、整備が進む街道は、速度を上げてもガタガタする事も無く、迂回を余儀なくされていた川や谷には橋が掛かり、2泊3日、宿に泊まりながらアルタイルに到着。屋敷に着くとアルタイルは、魔王の威厳等何処にも見えない、ただのおじいちゃんになって、夏休みから4ヶ月で成長した孫娘達にメロメロだった。
パトリシアはウェンディと共にペルセウス邸を訪れ、手紙では報告していたが改めて、デニスの魔法が解けた事を報告した。
「そうね、折角だから卒業した方が良いわね。」
夫人は少しガッカリした様子で3ヶ月待つ事を了承してくれた。
「でも、元のウォーレンに早く会いたいわ!今、戻ったら1か月でウェンディになれるんでしたよね?1月は半分冬休みですから、残り半分お休みして、2月から登校しては如何かしら?」
学力も十分だし、出席日数も足りているので問題は無い。ウェンディは視線で同意を求め、パトリシアが頷いた。過去4回試み、全て成功している妖精の魔法による変身。ウェンディが元のウォーレンを思い浮かべ気持ちを集中させた。いつもならフワッと明るくなって変身が完了するが、なんの変化も無かった。
「変身出来ないの?」
ウェンディが頷き、ガッカリしたはずの夫人は、
「ウェンディとお喋りするのも楽しいわ!筆談だとちょっと残念でしたもの。」
明るく笑って、新調したドレスに着替えさせた。夜更かししてガールズトークを楽しんだ。
翌朝、名残惜しむ夫人の視線を振り切ってパトリシアはウェンディを置いて実家に帰った。
ギルドに寄ってマスターに挨拶。休みの度に、面倒は仕事を用意して待っているので、今回も覚悟していたが、予想はハズレ少しガッカリしていた。
「スッカリ落ち着いてね!平和な証拠だから喜んでよ!」
マスターの言う通りなので、平和を堪能する事にして屋敷に帰った。




