デュアの危機
寮母さんの話によると、宿の掃除やベッドメイク等のバイトをしていた時、獣人差別が強い年配の男性客が、部屋に獣の毛が落ちていたり、獣臭で眠れないとクレーム、その部屋を担当していたデュアの同僚が宿の女将と謝っていると、男性客がステッキを振り上げた。咄嗟に庇ったデュアの背中にステッキが当たると、ステッキは眩しく光って消えて無くなり、男性客は犬になってしまったようだ。
記憶を失くす前、魔法が使えていたらしい。身を守ろうと、無意識に発動したと考えられる。掛かった魔法を鑑定すると、術者が解かなければ、数年から数十年解けず、術者が死亡しても効果に変わりが無い魔法らしい。魔法を解く迄は人族の留置所から出て来れない。記憶が戻ればなんとかなる筈だが、その方法が解っていれば苦労していないだろう。
「何処かで聞いたことのある魔法ね!」
ジェニーはウェンディと視線を合わせ話しを続けた、
「犬のウォーレンは、デュアと仲悪かったわよね?気付いてたのかしら?デニスだって!」
デネブの屋敷に走り、魔法の解き方と、デュアの釈放の相談をした。釈放に付いては直ぐに手配をしてくれるが、人族の管轄なので、1週間から十日位は掛かってしまうそうだ。
「それが解っていれば、ウォーレンは戻っている。奥の手は有るが、本人次第じゃな。」
色々お願いして寮に戻った。
セレス達は、夏休ギリギリ迄実家で過ごし、子供達と一緒にいるそうだ。6人でお風呂に行くと、ウェンディは自分の身体を見る事に罪悪感を覚えている様子で、気付いたケリーが、背中から抱き着いて、
「触られた感触、解るでしょ?自分のカラダなんだから気にする事なんてないのよ!」
ウェンディが見ない様にしていた膨らみを鷲掴みにしていた。
落ち着いて入浴、のんびり湯に浸かり部屋に帰った。デュアのベッドを借りようかと思ったら、
『主が帰って来られない非常事態に、勝手に使うのは気が引けるので、元の予定通り、パットの所にお邪魔するよ。』
狭い二段ベッドに2人はちょっと無理があるが、デネブの言う『奥の手』が発動すれば解消出来るので、しばらくの我慢だろう。あっという間に寝付いたウェンディの寝顔を見ながら、パトリシアも眠りについた。
翌朝、デネブから使い烏が届き、なんとか釈放して貰えそうだとの知らせだった。デュアの荷物をそっくり運ぶ様に書いてあったので、早速バッグに詰め込んで屋敷に向かった。
「そこの部屋に運んでおくれ。」
指示された部屋に運ぶと普通の部屋っぽくも見えるが、窓は小さく高く、鉄格子が嵌められていた。
「座敷牢なら引き取って良いとの事でな、一応カタチはな、そうして置かねばならんのだ。熱りが冷めるまで我慢してくれ。」
その日の釈放は無く、翌日も、翌々日もただ待っていた。結局、夏休み中に戻る事は無かった。『奥の手』を使う覚悟が固まる必要がある事と、習得して変身を解く迄2、3年は掛かるとの事で、デュアをデネブに託し、寮に帰った。
始業式。ウェンディはデネブの推薦で難なく編入し、新たな生活のスタートを切った。この日は午前中だけだったので、午後からデネブの屋敷を訪れた。
物々しい護送車がデネブの屋敷に到着した。手錠と腰紐で拘束されたデュアは、『如何にも鍛えています』って感じの女性騎士と一緒だった。女性騎士はデュアを座敷牢に入れて持参していた南京錠を掛けると、
「では、私はこれで!明日登校時に参ります!」
デュアの生活は、騎士団の監視下に置かれた。毎朝、女性騎士が迎えに来て、護送車で登校、授業中も騎士が教室の後ろで監視、下校も朝と同じ様に屋敷に戻り、座敷牢に鍵を掛けて騎士が帰る。息が詰まりそうな毎日を過ごした。
座敷牢では、デネブが『奥の手』と言う、特殊な魔法の習得に励んでいた。マスターすれば、ウェンディもウォーレンに戻れる筈。寮の部屋は、メンバーチェンジと言う事で、ウェンディはデュアが使っていたベッドに移り、ギュウギュウのベッドは回避出来た。
時は流れ、3年生の2学期の修業式。
「いよいよチカラが満ちたな。」
デネブに呼び出され屋敷に行くと、スッカリ顔馴染になった騎士のお姉さんと、犬を連れた、ド派手なお姉さんが待っていた。その犬はデュアを叩いて魔法が掛かった年配男性だろう。ヨボヨボの老犬に見えた。
犬の首輪を外し、人族のガウンを羽織らせた。ウェンディは、元のサイズになった時用のメンズ服をダブダブに着ている。デュアはゆったりとした浴衣をきていた。3人?2人と1匹が魔法陣に入ると、
「悔いは無いな?」
デネブの問にデュアが頷いた。デネブがデュアの付けている、魔力を抑制するチョーカーを外すと振り返って、
「4人は結界を頼む。」
シェリー達が頷くと、
「よし、頼んだぞ!」
デュアの方をポンと叩いてデネブは魔法陣を離れた。
デュアが呪文を唱えると、魔法陣が光を吸うかの様にどんよりとし、2人と1匹は闇に包まれていた。1時間程その状態が続いて、闇が薄れて来ると、老犬、ウェンディ、デュアの順で倒れて行った。闇が消えた瞬間、パッと眩しく輝いたと思ったら、老犬は人族のでっぷり太った老人に、デュアはデニスと思われる青年に変わっていた。ウェンディはそのままで、3人は眠った状態だった。
「ブタより犬の方が可愛気があったのにね!」
ド派手なお姉さんは、不機嫌に吐き捨てた。
老人が目を覚ました。ウォーレンが犬の頃の記憶が欠落している様に、事件からの記憶が全く無い様だった。騎士のお姉さんに経緯を説明してもらい、種族差別と障害致傷の罪で罰金刑の書類にサインさせられていた。
次に目覚めたのはデニス。
「パトリシアなのか?いつの間に大人になったんだ?」
自分の魔法のせいで、どれだけ迷惑掛けたのか解らない様子だったので、ウォーレンの変身からの経緯を話した。神妙な面持ちで聞いていたが、アケルナルとして過ごしていた記憶も、犬に化けて逃亡していた記憶も残っていない。デュアとしての記憶が薄っすらとある様に見えるが、マダラ状態らしい。デネブに連れられて別室に移動して行った。
最後に目覚めたウェンディは、大きくノビをして、
「んー、よく寝た。ん?カラダが縮んだのか?」
自分のカラダをキョロキョロとチェックし、今度は周りを見て、姿見を見付けると、一気に駆け寄った。
「女の子になってる?えっ?声も?」
犬のウォーレンが人族の記憶を取り戻した時の様に、経緯を説明。なんとか落ち着いて現状を把握してくれた。
外見的には変化無しの状態で寮に戻った。ウェンディは女子寮に入るのを躊躇ったが、2年以上もここで暮らしている事を改めて説明し、なんとか部屋に戻った。
「コレ?」
ウォーレン用に着ていたダブダブでは動き辛いので、自分のクローゼットを開けたウェンディが絶句。グレンダとケリーの洗脳にも近いファッションアドバイスで、冬でもかなり露出したお洋服ばかりなので、どうして良いのか解らなくなった様だった。初めてココに、来た頃のリプレイの様に、下着の着け方やコーディネートをグレンダとケリーが親切丁寧にレクチャーしていた。




