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魔王の娘ですが、継ぐ気は一切ありません!  作者: グレープヒヤシンス
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獣人

 人族の女子になった四天王の腕の中で目覚めた魔族の子達は、昨夜の事は夢だと思っている様子だった。

「ん?ああ、そうかも。」

ジェニーの様子を見ると、微妙に記憶の操作をしているらしい。

「まだハグだけで落ち着いていられたからね、しばらくは夢って事が良いと思うよ。」

部屋に帰してから、昨夜の報告を聞いた。

「私は、何時も通りよ。」

それぞれ結界を張って別れていたので、お互いの様子は判っていない。パトリシアは、朝まで理性を保つ事が出来るようになり、ウォーレンの激しいだけで、単調な揺れを調整する工夫しているが、中々成果には結び付いていない。その事は内緒にしていた。

 

 平日の勉強会はその後も続き、獣人達をパトリシアが担当、魔族の4人を四天王がマンツーマンで担当した。時が過ぎて中間試験。獣人たちは、一部苦手な科目が、赤点ギリギリセーフ位で、他の生徒に大きく水を開けられた感じでは無かった。少し早くから頑張っていたデュアは、全教科平均を超えていた。魔族の4人は苦手な教科でも、平均点近く取って自信の表情を見せていた。逆に、人族のお世話をしているセリーナともう一人、シャルロットは、ほぼ全部が赤点だった。

 入試の実績から急成長した他のクラスの獣人達は、カンニングの疑いまで掛けられたが、寮での勉強会をそのまま報告、ノートを見せると、教師たちは疑った事を侘びたそうだ。

 数日後、4時間目が終わった時、

「他のクラスの面倒は見て、あの子達を放って置くのは何か訳でも?」

担任の先生が、赤点塗れの2人を視線に収めつつパトリシアに尋ねた。

「来る者拒まずですよ。あのリュックサックの中、知ってますか?」

「いえ、気にはなっていましたけど・・・。」

 先生と一緒にセリーナを観察した。お嬢様と、その取巻き3人と自分の教科書をリュックサックに詰め、4人の机にランチョンマットを敷いて、リュックサックから弁当を出してセッティング。4人の食事を立ったまま見て、水筒から飲み物を注いだり、箸を落としたら替えを出したりしていた。4人が食事を終え、教室を出ると、弁当箱を片付け、5時間目の教科書を机に並べた。自分の分の弁当を勢い良くカッ込むと、お嬢様を、追って教室を駆け出した。

「あの調子ですから、お勉強の時間がとれないんでしょうね。外食の時は、レストランの外で待ってるんですよ。」

「大昔の田舎貴族ですね。私が開放させて見せます!パトリシアさんは、他の子と同様に見て上げてくれますか?」

「ええ、でもあの子達、あれが普通だと思ってますから、説得は難しいと思いますよ。大体、仕事が無くなったらセリーナ達はクビになっちゃうんじゃないかしら?」

先生が困り果てた様子なので、

「後援会長さんに相談しては如何でしょう?獣人の地位向上に積極的だと伺ってますから。」

 翌日は何事も無く1日が過ぎ週末を迎えた。土日はいつもの様にギルドで稼いで、夕食を何にしようかと街をブラついていると、セリーナとシャルロットがレストランの脇に立っていた。

「また、お嬢様待ち?」

二人が頷くので、

「じゃあ、私達と一緒に食べましょっ!」

2人の手を引いて店に入った。特別室が有る店ではなかったので、空いた席に通された。うまい具合に向こうをちょっと見える席だった。

「ここなら、お嬢様達が、席を立ったらさっきの所に先回り出来るわね!」

ケリーは帰り道を確保して説明していた。

 赤点を先生が心配している事を話すと、

「明日から、早出で別の教室なんです。補習が終わるまで泊まり込みだから、お嬢様のお世話が出来なくなるので、どうしたら良いのか困っています。」

セリーナが俯くと、

「先ずは、自分の荷物を持って行ける通学鞄が必要ね!」

「それなら、使ってないだけで、入学の時に揃えた物があります。」

「じゃあ、あなた達は、明日から自分の荷物だけで登校するといいわ!」

食事を済ませてのんびりしていると、お嬢様達が席を立った様子なので二人を脱出させた。


 翌朝、教科書が詰まった鞄を持ったお嬢様達が、食堂で彷徨っていた。

「あのカウンターでお弁当受け取れるわよ!」

セリーナが先に登校してしまい、途方にくれたお嬢様達を案内して、のんびり登校した。

 教室には、セリーナとシャルロットの姿はなく、授業中は勿論、休み時間も現れなかった。6時間目は地理の授業だったが、何時もの様に教科書は使わず、人種差別や平等について語り合った。

「でも、あの子、私が解雇したら学校どころか、生活も出来なくなるわ!」

獣人差別を遠回しに責められたお嬢様が反論した。お嬢様はバーバラといって、旧アンタレス地域の貴族との事。全く悪気が無いので、議論にもならず、チャイムが鳴った。


 寮では今日も塾。セリーナ達はやっぱり居なかった。夕食の時間になって、ワイワイお喋り。色んな地方から集まっているので、習慣の違いに驚いたりしながら、食事を運んでいた。

『ガラガラ、ガッシャーン!』 

食器が落ちた音?盛大な音に振り返ると、何時もはセリーナの世話になっているバーバラが、空のトレーだけを持って立ちすくんでいた。

「あら?セリーナさんは?」

「赤点のペナルティーで、先生の所に寝泊まりよ!」

盛り直して貰った食事を、カタツムリの速度で運んで、何とかテーブルに辿り着くと、

「あんな役立たず、もう要らないわ!」

不満タラタラで食事を済ませて、食器をそのままに帰ろうとして、食堂のおばちゃんに叱られていた。

 翌日、1時間目が始まると、

「数学の教科書が無いわ!」

バーバラのヒステリックな声が響いた。机に並んだラインナップを確かめると、昨日の時間割、そのままだった。バーバラは取巻きの教科書を借りて、取巻きは、2人で一緒の教科書を見ていた。

 ドタバタは金曜まで続いた。流石に教科書は用意出来るようになったが、食堂では毎日の様に食器をばら撒いていた。

 セリーナの居ないバーバラの生活は続いた。何時もは凝った編み込みに日替わりでキレイな髪飾りを着けているが、火曜日からは、後ろで一本に縛っただけだった。制服のプリーツがだんだんフレアになって来ていたり、スカーフの結びが微妙だったり中々苦労している様だ。

 土曜日もギルドから帰ると、私服のコーデが微妙だった。土日は寮の食堂は朝だけなので、外食から帰ってきたバーバラは、ピンクの花柄ブラウスに、ブルーに白のドットのカーディガン、グリーン系のチェックのスカートだった。疲弊した様子で、ボーっとして口数は少なかった。

「セリーナさんの有難み理解出来ました?」

バーバラは口を噤んだまま部屋に引き揚げて行った。

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