デュア
全く危なげ無くアルタイルに到着。デニスを封印のまま地下牢に運び込んだ。魔王はアンタレスからの護衛を労い、酒宴を開き、街道の様子を気にしていた。
「そうですね、アルタイル様の予測通りです。渡し船の向こう側の街がかなり衰退した感じですね。こちら側の街は、沢山馬車が停められる大きな駐車場を作って、宿はあきらめて昼や、休憩に絞り込んだ商いを始めでます。いろんな店から選べるし、馬にも飼葉や水が用意してあるので、それだけでも寄る価値が有りますよ。」
橋の工事の特需での儲けを元手に、宿屋の女将が、宿泊客が減ることを想定して新規に開業したそうだ。
「街道沿いの手本となりそうだな。シドニー、いや、アンタレスにも報告してやってくれ。あとは河の向こうと、あの山奥かぁ。」
パトリシアは、道中考えていた事を話した見た、
「そこの作物を街道の大きな食堂街に持ち込んで売ったり、新鮮食材の料理を出したらどうかな?あの辺美味しいもの沢山あるから、産地を看板にすればちょっと予定ズラしてでもお昼はあそこにするわ!」
「中々良い案だな。山奥と街道を行来する運び屋があると良いな。」
「ギルドに長期契約すれば、護衛を兼ねて運んで貰えて安心だし、皆んなが潤うわ!」
「せやな、ごっつうデカイ食堂街にギルドの事務所があったら、流れモンが暴れだりせぇへんよぉなるし、盗賊とかも寄り付かへんやろ?」
ケヴィンも魔王に影響されたのか、街の発展計画に色々頭を捻っていた。
デニスの事には触れず、酒宴はお開きになり、一緒に来たデネブも気にする様子もなく、街道整備の話題に参加していた。パトリシアは一刻も早くウォーレンを戻したいと、話題を振る機会を狙っていたが、最後まで叶わなかった。
ゲストが退けると、
「よしよし、お姫様に会いに行こうか!」
子供たちの寝顔をそっと覗きに行った。デレデレの魔王に対し、パトリシアは、変身したパトリックの子供であって、何となく自分の子供と言う実感は無かった。起こさないよう、そっと部屋を出た。
「地下を見に行こうか。」
パトリシアは父に付いて階段を降りた。交代で見張りに付いていて、ショーンの番だった。
「封印も異常ありません。」
魔王は、デニスの様子を確かめると、
「記憶についてはな、魔力を封じた時の副反応みたいなモノで、魔法で復活させられるモノじゃないな。ウォーレンに掛かっている魔法は厄介なヤツだ。術者の生死に関わらず、何年か解けないタイプだな。多分十年は解けんだろう。」
時限爆弾的な術や、何年も経ってから発動する術、何年もの間、自らを変身させておく術等、時間を利用しての術に長けているようで、子供の頃からそういった傾向は有ったらしい。
「少し考えさせてくれ、悪さが出来ない程度に回復させて、昔の術を思い出させる。隷属の首輪を嵌めておけば問題無いだろう。」
魔王は、首輪に何か加工して、魔力を込めると、元から嵌めてあった首輪と交換して更に魔法を施した。
「心配なのも解るが、見張りは大丈夫だ。1週間、イヤ4、5日かな?楽しみにして居なさい。」
5日目の朝、パトリシアは四天王と共に魔王に呼び出された。魔王と待っていたのは獣人の女の子だった。銀髪の間からぴょんと銀の耳が生えていて、スカートからはフサフサのシッポ。緊張しているのか、シッポは動いていない。代わりに耳をピクピクさせていた。
「この娘は記憶を失っていてな、何も手掛かりが無いんだ。暮らしているうちに思い出すかも知れないから、しばらく面倒を見なさい。」
女の子はデュアといい、三段校を卒業したくらいに見えた。いきなり仕事も出来ないので、四段校に通う事を勧め、獣人差別が比較的少ない、デネブの学校に行く事になった。
獣人は、100年程前に、他の大陸からやって来た。豊かな土地への移民と偽って連れて来て、奴隷として使っていた。旧アンタレス以外では違法で、一応平民と同等な事にはなっているが、根強い偏見で、一般に嫌がられる仕事で安くこき使われている事が多い。アルタイルでは、四段校に通う獣人は多分居ないだろう。旧アンタレスに至っては、三段校までの義務教育さえも行けて無い子も多いそうだ。
三段校を卒業してほぼ奴隷状態の獣人を、自立出来るように教育を施す為に、全土からデネブに集めているそうだ。
「次いでに、お前達も学んで来なさい。」
魔王デネブの根回しで入学試験の手続きは済んでいた。5人は五段校に居た位なので、問題無いが、デュアは大丈夫なんだろうか?受験迄、2ヶ月足らずで間に合うんだろうか?取り敢えず、デュアの勉強を見る事にした。
手回し良く、新しいライセンスプレートもFランクで5人分出来上がっていた。パトリシアは年齢だけ、四天王達は、年齢と性別が変えてあった。
「一緒の学校が良いだろう?デネブの学校は、三段校以上は男女別なのだ。寮の事もその方が便利だろう。」
異議を唱える段階じゃ無さそうなので、引越しの準備を始めた。
自領に帰る魔王デネブと一緒に馬車に乗り込んだ。もちろん、犬のウォーレンも同行する。四段校生の姿になった5人と獣人の娘、デネブの護衛の馬車に挟まれての道中なので、安心安全に移動出来る。毎晩、宿に泊まれるので、テント等は一応積んではいるが、出番は無さそうだった。
昼を食べる食堂のある集落は、殆ど無いので、宿で弁当を頼んだ。6泊7日の行程で最初と最後以外は弁当だったが、アンタレスからの帰りで見た、大きな駐車場のある食堂群が3カ所で着工されていた。
山岳地帯を過ぎて、田んぼや果樹園や麦畑を通ってデネブの市街地に到着した。関所には、獣人も働いていて、パトリシア達は文化の違いをヒシと感じていた。
遅い時間なので、取り敢えずデネブの屋敷で世話になる。久しぶりに主が戻った屋敷は、パーティーの準備で忙しそうだった。内陸の街で海とは無縁な土地だけど、海鮮がメインの料理だった。
「昔は手に入らなかっから、最上級の宴には、魚なんだよ。」
保存の為に少し濃い目の味に加工された海の幸と、特産の米から作る酒を堪能して旅の疲れを癒やした。
入試迄の3日間は宿を取るつもりでいたがデネブの勧めで屋敷で過ごし、デュアのラストスパート。合格ラインか判らず不安だったが、伝え聞いた情報では、何とかなりそうなレベルだった。
いよいよ受験。6人揃って同じ教室で試験を受けた。心配だったデュアもしっかり手応えがあったようで、笑顔で屋敷に帰った。




