アケルナル捕獲
アンタレスの3大ダンジョンの残り2つを攻める。難易度としては同程度とされているので、一つ攻略済のパトリシア達はそれ程のハードルではない。殆ど同じ様な感じで、違うのは最下層の一つ上の魔物が違う位で、2つ目のダンジョンが百足、3つ目が大蛇だった。最下層でのご褒美も変わりなく、3つ目の戻りでは、大蛇を瞬殺するまでになっていた。
屋敷に戻ってデネブに報告。
「もう大丈夫だろう、これを見なさい。」
パトリシアは古文書を渡された。
栞が挟まれたページは、変身の魔法に付いて書かれており、デニスが自らに掛けた魔法を推測した項目だった。全ての魔力を封じ、記憶や知能も制限して本人さえも変身している事を理解出来ない状態になっていて、一定の時間の経過か、何かの条件で元に戻る仕掛けと思われる。これだけ探しても見つからない事や、気の探索で絞り込んだ範囲で、該当の魔力を感じない事から、その魔法が推測されるそうだ。また、これまでに使った彼の魔法からの推測では、犬になっている可能性が高く、変身が解ける際に何かの罠が発動する恐れも有りそうだ。デネブは、充分に魔力を高めて、護りの指輪を活かす為に、ダンジョン攻略を勧めたようだ。
「大勢に囲まれたら逃げると、自らに命令していると思う、今まで通り5人で行くのが良かろう。」
デニスが潜伏している筈の集落を再び訪れた。パトリシアは探索を試してみた。野良犬を想定していたので、寝蔵になりそうな所を中心に気を探った。全く反応が無い訳では無いが、どうも上手く行かなかった。反応を感じてその方向に進んで、もう一度探索する。今度はまた、違う方に反応を感じる。
「集落の周りって先入観が良くないんじゃ無いか?」
ジョナサンの提案で集落の中を探ると、豪華ではないが、塀を回した大きな家の中にデニスの気を感じた。集落の長と思われる門を叩いた。
犬小屋に繋がれた大きな犬が、気の発生源だった。グレイと白の犬橇を引く犬種の様に見えた。アケルナルが逃亡する前に、飼っていた犬の情報に一致いている。4年前にベガで拾われたのを貰ったとの事。『ギン』と名付けて番犬として飼っているが、おとなし過ぎて役に立っていないらしい。家主はやはり集落の長で、人族だが、かなりの魔力を感じられた。事情を説明すると、快く引き渡しに同意してくれたが、ギンと一緒に遊んでいる孫の男の子が別れを拒んだ。説得しようとパトリシアがギンの所にいる男の子に近付くと、ギンはいきなり繋がれた鎖を引き千切って、男の子に襲い掛かった。一瞬で押し倒された男の子に咬み付こうとするギンだったが、口を開けない様子。間一髪、ジョージの投げた網が絡まり男の子は擦り傷程度で大事には至らなかった。
「ギンは、悪い魔物に取り憑かれて、もう死んでおる。儂の魔力で鍛えた鎖を引き千切る程の魔力を持っている位じゃから、暴れたら皆んな喰い殺されるじゃろう。魔犬をその人達に渡しなさい。」
男の子は渋々納得し、結界で充分に拘束しつつ、隷属の効果と魔力を抑える首輪を付けてから檻に入れて更に、魔力を遮断する布と網で覆った。荷車を借りて檻をアンタレスの屋敷に運んでデネブに見て貰う。
「変身を解きなさい。」
屋敷の地下牢に繋がれた犬にデネブが告げると、ジワジワと大きくなり、手足が伸びて覆っていた毛が消えていくと、自爆騒動の時に車椅子で眠っていた姿になった。
デネブは睡眠弾を撃ち込んでから、牢に入り慎重に手錠と足枷を掛け、牢の鍵を元通りに掛けると、
「起きるまで放っておこう。丁度お茶の時間だ。」
サッサと階段を昇って行った。
「パットも付き合えよ、俺は見張ってる。」
4人はほぼ同時にほぼ同じ事を言って、4人は見張り、パトリシアだけがお茶に付き合った。
ゴソゴソとデニスが動き出した頃、デネブとパトリシアが降りてきた。
「名は何と申す?」
「・・・ギンです。」
隷属の首輪の上に、自白の魔法を掛けているので、嘘は吐けない。本人が、そう思っていると言う事だ。
「何をして居った?」
「普段は子供の面倒を見て、来客があると、挨拶をする仕事をしています。」
「その前は?」
しばらく沈黙が続き、穏やかだったデニスは眉間に皺を寄せ、
「フラフラ旅をしていた。あの男、ジジイに俺を金貨1枚で売りやがった!鎖で繋がれるのは嫌だったが、エサは良くなったな。」
「その前は?」
再度の沈黙の後、自慢気な表情で、
「自由に好きな時に好きな所に行っていた。誰にも文句は言われない・・・ん?あの男が俺を捕まえたんだ!どうしてだ?・・・ああ、飢えずに済むようになったんだ。エサと引き換えに自由を失ったんだ。」
また穏やかになって、
「その前は?」
今度は長めの沈黙。いきなり劣化の如く怒り出した。
「邪魔しやがって!お前ら、アルタイルなんだろう?どうして俺の邪魔をするんだ?」
悪態が収まるまで言わせて、デネブは更に質問を続け、アルタイルを追われてからの記憶を遡った。ウラジミールから聞いた内容に間違いは無く、アルタイルでの記憶は全く残って居らず、アルタイルを追放された事は後で知った知識だった。
「儂の力ではここまでじゃ。その前の記憶は、既に消し去られているのか、アルタイル殿の術で縛られているのがどちらかだろう。御父上を頼ってみるのが良かろう。」
パトリシアは早速、使い烏を飛ばしたが、翌日届いた返事は、
『孫守りで手が離せぬ。デニスを連れて来い。』
魔王アルタイルの政策に築いて来た、父への尊敬の念がグラ付く回答だったが、
「パットの時もそうだったらしいぜ!」
ジョナサンが、古参のメイドさんに聞いた情報を伝えると、パトリシアは別な意味で尊敬の地盤を固めていた。
厳重な拘束の上に封印して、結界を施した檻に入れて、更に新アンタレス(シドニー)が、護衛を付けてくれて、アルタイルに向かった。旧直系地帯を越えると街道は整備され、スイスイと進み、途中ベガのエリアを通過する時も、関所のチェックはすんなりパス出来た。何処に行っても活気に満ちていたが、
「橋が掛かって渡し船の宿泊に客が泊まらなくなったり、迂回した先の宿や食堂が潰れたりはしてるんで、全部が良いかって言うと、少ないけど困ってる人族もいるんです。」
殆どが、新しい集落で宿や食堂を営むよう配慮しているが、迂回した山奥で畑や牧場と兼業しているとかの事情で上手く行かないケースも有るらしい。
「全部は上手く行かないけど、そういう畑とかは、魔物の監視を重点的に見たりしてるんで、客が来なくても生活出来る様にはなってはいますけどね。」
取り敢えず安心して、馬車に揺られた。




