デネブの知恵
4人の妊婦が、4人の母親になった。アルタイルの屋敷には、それぞれの母親が孫の誕生に立会おうと集まり、大きく賑わっていた。産まれて来たのは全員女の子で変身していた時の名前をそのまま命名していた。1週間、母乳で育て乳母に預けた。
出産に沸き上がる中、魔王アンタレスの訃報が届いた。久しぶりに元の姿に戻った四天王が、カラダを慣らしに剣術の稽古を始めると、アンタレスの跡目争いで、孫の弟の方が兄を討ち、弟が兄殺しの罪で拘束されたとの知らせが届いた。
「いよいよだな。」
婚礼の準備を始め1週間。アルタイルには北から、西から、南から沢山の祝客が押し寄せていた。友好関係にある魔王ベガも風変わりな老人と共にやって来た。
「ベガ殿、これを機に腹を括っては如何かね?」
老人はデネブと言う魔王で、最も歴史のある魔族とされていて、永世中立を貫いている。この度は婚礼の立会人として参加する。
「お主が正式にアルタイルの傘下となるんなら、儂も下ろう。今はそれでも良いが、後の世を考えると、アルタイル一本が解り易い。」
ベガも考えていたようで、アンタレスの件が片付いてから調整する事になった。
閉ざしていた関を開放し、大軍が街道を埋め尽くす。荒れ果てた街並みだったが、
「リゲルよか、マシだぁ。」
シドニーは涼しい顔だった。アンタレスの屋敷は、それ程荒れては居らず、婚礼と襲名披露を滞りなく済ませると、アルタイルは、側近と僅かな手勢のみで新婦ジュバを連れてアルタイルに帰った。因みにウォーレンは、ペルセウス公爵邸に預かって来ている。
残った軍勢は四天王の下でデニスの捜索にあたった。チンピラ魔族は勿論、なんとか生き長らえている人族の中も隈なく探したが全く手掛かりは無かった。魔王デネブがしばらく様子見で残っていて、捜索に協力してくれている。アケルナルの剣から気配を読み取り、アンタレスに潜んでいる事に間違いないとの事だが、あまりにも何もかも無くて不安になって来た。
街の様子は、至って平和で、先にアルタイルに染まっていた旧アンタレス傘下や中立だった所を一括して新生アンタレスとしているので、そこに流出していた人族が戻ったり、関が無くなって物流が再開すると目に見えて復興を感じられた。リゲル、アルデバランと没落した領地を再生した、シドニー、新魔王の手腕は魔族にも人族にも浸透しているし、立会人のデネブの存在感でアルタイルを拒む雰囲気は一欠片も無く、事件らしい事は、投獄されていた先代アンタレスの孫が、脱獄に失敗して罠に掛かって死亡した事しか無かった。
デネブは気配の探索を進め、可能性のなる地域を狭めて、一つの山村に絞り込んだ。人族しか住んでいない小さな村だが、ダンジョンがあるのでそこを調べてみる。浅い階層から結構な魔物が出るし、迷路要素もキツイ、難易度の高いダンジョンで一日かけてやっと8階層。結界とテントを張って宿にする。20階層以上はあると言う事は解っているが、最深階層が幾つなのかの情報は無い。取り敢えず、下まで潜って見る事にして、保存食を齧った。
朝になったと思われる。地下深い階層なのでお日様の明かりは届かない。どんどん下へ潜って行く。魔物は強いヤツに変わるがまだまだ余裕で、深くなるに連れ迷路が単純になって、スイスイ進めるようになり、15階層を越えると巨大な空間が一つだけになったので更に加速して、腹時計を信じて、夜になった事にして34階層で2日目の攻略を終えた。
3日目も同様に攻め続け、昼には49階層に辿り着く。徐々に強くなっていく魔物だが、この階層は上と比べて格段に強力だった。4本足と鎌の付いた腕、大きな翅が付いている。巨大なカマキリみたいな、大蜥蜴の変異体か良く解らないが、3メートルは超える巨体で素早く駆け回り飛ぶは跳ねるはで魔力弾を狙う隙きがない。取り敢えず当てても、身体の殆どが鎧の様な鱗で護られているので、全くのノーダメージ。振り下ろす鎌は岩をも砕いた。
「ここで、ええか。」
ケヴィンは鎌が振り降ろされ、抉れる地面を予測して魔力弾で1手先に穴を穿った。
空振りして、地面に突き刺さる筈の鎌は、ケヴィンの開けた穴のその奥を突き刺す様にひっくりがえった。機動力を欠いた魔物は、目や口を狙われてしまい、防御の能力を失っていた。
49階層をなんとかクリアして、もう1つ下に潜ると、今までに無く魔物が居ない、こじんまりした部屋だった。石碑のような物は有るが、何も書かれては居なかった。石碑を調べていると、ほんわりと温もりを感じ、耳で聞こえるのではなく、直接脳に刻まれる様に、
『魔力が数倍になっている、使う時には充分に気を付ける様に。』
と、感じた。財宝とか、伝説の剣なんかは無く、取り敢えずランチ。長居はせずに地上を目指した。
一つ上がると、さっきと同じ魔物が待っていた。ショーンは、魔力の上がり具合を確かめようと、さっきはノーダメージだった魔力弾を撃ち込んだ、見掛けの損傷は解らないが、確実に動作が鈍くなり、同じ足を集中して狙うと、数発で動きを止めることに成功した。あとは威嚇で吠えた大きな口に魔力弾を放り込んでゲームセット。危なげ無く倒し、それより上層の魔物は、元の魔力でも楽勝だったので、無負荷に近い状況で昇り続けた。30階層で宿泊。4日目の午後には地上に戻っていた。
手掛かりが無くなり、アンタレスの屋敷に戻った。デネブの探索では、同じ集落にまだ残っているらしく、ダンジョンの報告をすると、
「探索を仕方を伝授しよう。随分と魔力も上がったようだから容易いだろう。」
気を感じる方法を学ぶ。ここはセンスの問題らしく、出来ない者は、いくら頑張っても出来ないらしい。なんとかクリアできたのは、パトリシアだけだった。持ち物と持ち主から共通の気を感じる。感じ方のコツを掴んだら、結構簡単に探せる様になった。
「中々スジが良いな。では!」
感じるだけでは探索の範囲が狭く、せいぜい数十メートル。
「自分で気を飛ばして、跳ね返りを感じて見なさい。」
パトリシアはあっという間に会得して、百メートル程度の範囲で感じる事が出来るようになったが、感じ方を研ぎ澄まし、飛ばす気を安定させる事で、更に範囲を伸ばせるらしい。ただ、今は集落まで特定出来ているので、実用の域に達した事になる。早速実地で試そうとしたが、
「もう少し慣れた方が良い。この前みたいなダンジョンが2つある筈なんだ。そこを攻略してからが良い。」
デネブの提案を受け入れ、ダンジョンを攻める事にした。




