夏休み
アンタレスの騒動は放って置く事にして、夏休みを迎えた。土日にギルドで稼いだお金が結構貯まっていたので中古の馬車を購入。買い物を4人に任せると、鼻の下を伸ばしたオジサンが勝手にオマケしてくれるので、冗談みたいな価格で中々上等なモノを手に入れて来た。アルタイル感を感じさせないスタイルで、旧アンタレスエリアを調査して回るには丁度良さそうだった。しばらく旅から離れていたので、ちょっと新鮮な気分で出発出来た。
それ程期待はしていなかったが、デニスらしき情報は全く無かった。情報収集は主にギルドで、複数パーティーで請負う依頼で、一緒に働く人達から聞いていた。面倒な魔物が出ても瞬殺してミッション遂行するので、一緒に働く人は親切に教えてくれるが、手応えのある情報は殆ど無かった。気になった事も有ったが、確かめるのは、旅の後半、帰り道までお預け。
宿とか食堂とかは都合よく有る訳では無かったが、厳寒期とは違い、山菜やキノコは取れるし、街道沿いでは地元の作物の直売所があったりして、結構グルメな旅を続けた。
ん
1週間程でプレアデスの1番奥まで到達、そこからはジグザグ遠回りしながら戻る予定だ。調査がメインなのは勿論だか、夏休みらしい計画もしていた。
メインの観光は、大きな湖に幾つもの小島が浮かび、その小島が、宿の一室になっている宿を選んでいた。隣の島までは結構な距離があって、真っ青な湖を取り巻く深緑の木々の壮大な景観を独占した気分になれる。危険な魔物が生息しているのが珠に傷だが、浅瀬では安全に水遊び位は出来るし、泳いで上陸するクセ者に対しての防犯対策にもなっていて、駆除するつもりは無いらしい。
砂浜でバーベキューをしたり、浅瀬で湖水と戯れる。ただでも目立ち過ぎるのに、かなり攻めた水着なので、普通のビーチだとパニックになる恐れもあったので、この島を選んでいた。小さな三角形の布が貼り付いた肉塊が8つ揺れると、本来はパトリシアの筈のパトリックは、本来は無い筈の部分をしっかりと反応させていた。
「青空の下って罪悪感あるよね!」
水着を上だけにしたグレンダがパトリックの上で揺れながら囁いた。シェリーとジェニーも続いて、一巡した時にパトリックはケリーに、
「暗くて気付かなかったけど、皆んな下、ツルツルなんだね。水着になるから?」
「あっ、まあ、そうとも言えるんだけどね、実は前から言えずにいたんだけど、そのままにしているパトリシアが少数派って言うか、ま、戻った時には気を使ったほうが良いわね。」
パトリシアは、永く教会に身を寄せていたので、流行に疎い所があった。特に今回のケースの場合、シスター達には全く関わりの無い事情なので、知識が抜け落ちていても不思議じゃない。慌てて処理をして水辺に戻った。
日が暮れるのを待って、シェリーの打ち上げる魔力花火を堪能、声は届かないと思っていた隣の島から歓声が届いていた。殆ど丸に近くなった月を眺めてのんびり過ごしていた。
翌日も特に変わったことも無く、水遊びをしたり、釣りをしたりしながらのんびり過ごしていた。今夜は満月なので、それに合わせて島に泊まる計画にしていた。
月が昇って、パトリックがパトリシアに変わり、続いて皆んなも元の姿に変わって行った。月の光りを浴びながらの楽しみは、普段と違う開放感で、ゆったりと悦びを味わっていた。お互い、立場が反対の時に味わって覚えたスキルで相手を楽しませ、気が付けば月は沈みかけていた。
ふと、大きな波音で我に返った。巨大なワニの魔物が湖から這い上がって来た。魔力弾も弾くツワモノだった。結界で退けつつ、魔力弾で挑発する。魔物は思う様な攻撃が出来ずにイラ立っているようで、大きく口を開けて威嚇した。そこを目がけて魔力弾を撃ち込み、なんとか倒す事が出来た。
「こんなのが出るなんて、他の島はパニックになって無い?4人で瞬殺出来ないなんて、人族だったらギルド総出でやっつけるクラスよね?」
パトリシアは、月明りでぼんやり見える島々を凝視したが、様子が分かる訳でも無いし、見回る訳にも行かないので宿の人に使い烏を送って明るくなるのを待った。
日が昇り、船で迎えに来た宿の人に話しを聞くと、魔物は元来この湖には生息していない筈の種で、防犯対策として屋敷の濠に放していた物が逃げたらしい。島に現れた事はないが、湖畔では人や家畜が襲われ、駆除に躍起になっていたそうだ。なぜ島に現れたのか解らないとの事だった。
大きな声では言えないが、満月の夜のパトリシアに引き寄せられたと考えるのが無難だろう。周りに迷惑を掛ける事も無さそうだと、結界も張らずにいたのは不味かったようだ。
魔物の死骸は業者を手配してくれて、報奨金が出るので手続きもしてくれた。宿泊費と相殺してくれる。高額な宿泊料には全然足りなかっが、差額は迷惑料としてオマケして貰い、無料になっていた。
逃げた魔物は3頭で全てオスなので繁殖する心配は無いし、あと2頭は既に駆除済みとの事。安心して旅を続ける事にした。
湖の行楽地をあとにして、次の目的地に向かった。ギルドで仕入れた情報で、魔力の強い流れ者が活躍していると言うか、幅を効かせているらしい街を覗いて見る。
次に向かうのは、『自称アケルナル』がギルドで働いているという街。ギルドに行って尋ねると、アケルナルは、依頼で魔物の駆除に出掛けているそうだ。そろそろ戻る時間との事でロビーで待っていたが、帰って来たのは、付け角の人族だった。本人は上手く化けているつもりの様だが明らかに不自然な角だった。食事に誘って、そう名乗る理由を聞いて見たが、『ただ強そうだったから』との事。アケルナルが中立派、日和見派を纏めてアルタイルに咬み付く猛犬としてその名を轟かせていて、行方不明になった経緯や現状は殆ど知られていない様子だった。何となくそんな気がしていた5人は、漏らしてもいい範囲で事情を説明してホンモノのアケルナルの情報を聞いてみたが、全く情報は無かった。美味しいお店の情報はしっかり得られたのでまるっきりの無駄足では無いと自分達に言い聞かせて旅を続けた。