双子の国
関を越えると、想像以上に荒れ果てていた。崩れた柵らしき物があるので、元は牧場だったと思われるが、ただの藪になっていた。人族の住居や、牛舎だったと思われる残骸がチラホラ見られた。中には、ゴブリンかな?魔物の巣になっているものもあった。殺気を隠さなでいると、魔物は寄って来ないので、荒れてはいるが、一応道としてなんとか機能している道をどんどん進んだ。日が暮れても荒れ地は続き、何年も誰も住んで居ない様な集落の跡でテントを張った。何も無いよりも不気味な感じがして、入念に結界を張って寝袋に包まった。
翌朝、簡単に朝食を済ませて、馬車を進める。昼には次の集落跡に着いた。そこも無人だっが、最近まで人が住んでいた感じて、井戸の水は飲み水に出来る位だった。保存食を食べて井戸水でのどを潤し、水筒も満タンにした。
日暮れ前に次の集落が見えた。誰か居るとは感じられるが、荒れ方にそれ程差は無かった。気配がある建物を覗こうとすると、周りの建物から、数人の魔族が現れ一気に囲まれてしまった。感じる気配からは、危険を感じる程の心配は無さそうだ。
拘束魔法が四方八方から襲うが、護りの指輪は、パトリシアだけではなく、全員が装着しているので、襲ってきた魔族達は、自分の魔法で固まっていた。ご丁寧に、自白の魔法も乗せてあり、尋問と言うか、ちょっと聞いて見ようと思う位で、競うように解説してくれた。
この地域は、先に通って来た中立の酪農の村と合わせて、ポルックスと言う魔族が仕切っていたそうだ。アンタレスとの抗争に押され、壊滅状態だった所、『伝説の老師』と呼ばれる戦士が単独で幾つもの部隊を潰し、アンタレスの幹部まで捕らえて、自分の引退と引き換えに、ポルックスの孫を開放させたそうだ。
ポルックスの孫と言われる男、みすぼらしい格好をしていたが、雰囲気は中年の紳士だった。パトリシア一行を、アンタレスの刺客と思ったらしい。
「狙われる立場なのか?ここの土地を欲しがるとは思え無いが?」
ジョナサンの失礼な質問にも、自白魔法がまだ効いている狙撃者達が解説してくれた。
「人族が、ポルックスの時代が良かったと隣国に流出してるんです。ポルックス様を慕う者たちが謀反を起こす事を懸念しているのでしょう。」
山脈に挟まれた細長い土地は、元々レダと言う1つの国だったが、開拓して拡げた領地を双子の息子に国として与えたのが、ここポルックスと、山脈に仕切られたカストルで、ポルックスからの流出者の殆どはカストルで暮らしているらしい。そのカストルはアンタレスと抗争。
行止りの地形で逃げる事も出来ず、かなりの劣勢らしい。
レダは既にアンタレスによって滅ぼされている。国を分けたのも、少しでもアンタレスの支配から逃れようとした作戦だったが、効果は長くは続かず、今に至っている。
両国共、険しい地形を活かした、強固な砦でアンタレスを退けていたが、飢饉の時、アンタレスから食糧を買い求めるしか無く、荷物に紛れて侵入したアンタレスの兵に砦を占拠され、ポルックスは崩壊し、カストルもその危機にある。
地図を睨みながら見ていたジョナサンは、
「この砦、今は?」
「こちらがこの状態ですので、放置されています。」
「カストルに繋がる山道の『?』マークは?」
「迷いの森です。伝説の老師が仕掛けた罠で往来出来ない様になっているんです。」
ジョージは壁の肖像画を指差して、
「伝説の老師ってあの人?」
「はい、今は中立地帯になっている関所を護っているらしいんですが、ポルックスの存続と引き換えに、こちらに戻らない約束なんです。」
「やっぱりね!皺を増やして、髪を減らしたら、あの関のじいちゃんだよね!」
ケヴィンも頷きながら、
「先にアンタレスが、約束破っちまったから、老師の復帰も問題無いやろ?」
カストル救出と、両国の復興の作戦を考える。先ずはアンタレス側の砦を取り戻す。中立地帯との関を開け、伝説の老師を招集。迷いの森を使ってカストルの住人を避難。物資と戦力をアルタイルで支援してカストルからアンタレスを追い出す。全体としては長期戦になるが、住人の避難迄は直ぐに進められるのでショーンとジョナサンは、アンタレス側の砦に向かい、ジョージ、ケヴィンとパトリシアは中立地帯に引き返した。
砦は放置されていて、簡単に奪還出来た。小窓から狙う弓の弦が朽ちて使い物にならない位で、そのまま機能する状態だった。一通り点検して、砦を機能させた。
パトリシア達は、夜を日に継いで、伝説の老師の元に向かった。丸一日半で関に付いた。
「さて、確か向こうからは自由に通れるって言ってたよね?こっちからは・・・?」
考えているうちに門が開いた。
「思ったより早かったのう。」
やはり、関守の老人は伝説の老師だった。
「向こうが約束を破っても、こちらが破って良いと言う訳にはいかん。その代わりコレを持って行きなさい。」
20個程の輪っかと、大量の御札だった。
「腕輪は、森の迷いを退けてくれる。自由に出入り可能じゃ。札も同じく迷わないが、一度森を抜けると消えてしまう。戦う者たちに腕輪、避難の住人に札を与えなさい。腕輪と札はまだ作っているから、アルタイルの助っ人に持たせよう。」
秘密兵器と共に、作戦を授けられ、ポルックスに向かった。
関を越えるとジョージは、
「寄り道しながら行くから、先に行って!」
籔に成り果てた牧場の眺めて手を振った。
砦で合流したパトリシアは、腕輪と御札を配り、老師の作戦を伝えた。早速、カストル住人の避難から手を付ける。森を抜けて、砦付近でアンタレスを挑発して、森に逃げ込む。ゲリラ的に繰り返し、注意を引いた所で、避難所から御札を配った住人をポルックスに逃がす。住人を逃して、ある程度自由に戦えるようになったカストルの魔族は、欲求不満を爆発させて、アンタレスを叩いた。ポルックスとパトリシア達は、ゲリラ作戦を繰り返し、アンタレスを森に引き込んで迷わせ、疲弊しきった所を捕まえ、手薄になった砦や、捕虜の収容施設を叩いた。アルタイルからの助っ人も到着すると、勢いに乗ったカストル隊は自陣のアンタレスを一掃、そのまま、旧レダの都迄攻め進むと、都で燻っていた、ポルックス、カストルの魔族達が参戦、またたく間に都を制圧していた。
アンタレスは、旧レダ全土から撤退した。そこは、ポルックスよりはマシだが衰退は明らかな街で、復興には時間が掛かるだろう。
パトリシアはアルタイルが整備した海岸沿いの街から、大渓谷に掛かる吊り橋を渡り、老師のいる中立地帯、ポルックスを通って、富が運ばれる事を祈った。
やっと合流したジョージとカストルに戻り、デニス(アケルナル)の情報を探ったが、収穫はゼロ。迷いの森経由で海岸沿い迄戻る事にした。