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魔王の娘ですが、継ぐ気は一切ありません!  作者: グレープヒヤシンス
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満月の夜

 不機嫌そうなパトリシアはカレンダーを確かめた。

「また満月か。」

何時もの様に出勤。取り敢えず明るいうちに仕事片付けて、3時に早退する。ギルドマスターとは満月の日の早退は保証して貰っているので、アーリンとエマに引継ぎをして実家に向かう。


 陽のある内になんとかたどり着いた。日の入りの早い冬場は3時上がりでギリギリ。

 出迎えが嫌なパトリシアは通用門から入ったが、

「おかえりなさいませお嬢様!」

父の(・・)部下(こぶん)や使用人がズラリと待ち構えていた。

「旦那様がお待ちです。」

謁見の間に通された。

「久しぶりだな、何時までいられるんだ?」

「明日も普通にギルドに出勤します。」

残念そうな母は、

「久し振りに帰ったと思ったら、寄りによって満月とは、次は別の日にゆっくり帰っておいで。」

そう言って二人は寝室に向かった。


 パトリシアは自分の部屋に入りメイドに、

「四天王を呼んで、あとあなた達、人族は早く上がりなさい。」

住み込みで働く使用人達は、満月の夜だけは、屋敷を出て翌朝帰って来る。屋敷の中が魔族だけになった事を確認して、結界を張って外部との繋がりを遮断する。

「パトリシア、俺達ここに居て良いのか?」

「兄さん達が喧嘩しないんなら?、四人でいて欲しい。」

話しているうちに、陽が沈んた様で、パトリシアは落ち着かない様子だった。

 魔王の直轄の部下四人を誰が呼んだか、四天王と呼ばれ、そのうちの誰かが魔王の娘と結ばれ、時期魔王になると言うのが専らの噂だが、パトリシアにはその気は全く無かった。

 四天王達は、魔王の娘であり、幼少の頃から兄妹の様に過ごしていたパトリシアが、満月の夜に一緒に過ごすと誘われたことに動揺していた。

 魔族の女性は満月の夜、性欲が爆発して周囲の男性や、オスの性欲を刺激し、収拾がつかなくなってしまう。魔族であれば意識を保つ事ができるが、人族の場合、性欲のみに全てを支配されてしまい、記憶にも残らない。

「兄さん達、おやすみなさい。意識がある状態では、また明日かな?もっと先かな?ウッ、限界みたい!」

パトリシアの黒髪は瞬く間に銀色に染まり、黒い瞳も銀色に輝いた。こめかみの辺りから2本の角がはえると、威嚇の唸り声を漏らしながら、スカートの中を脱いだ。自ら猿轡を噛み、手袋をはめ、慌ててズボンを下ろしているケヴィンを押し倒して激しく揺れる。

 威嚇の唸りが、快楽の喘ぎに変わると、銀の髪が金色に変わっていく。ベッドに運び、交代で揺れ続けた。興奮して咬んだり爪で裂いたりしないように、猿轡と手袋を装着している。2巡目のラスト、ショーンが果てた時、パトリシアの意識が戻った。猿轡を外して、

「気が付いたんだね、何か飲む?」

「お水がいいわ。」

次のスタンバイしていたケヴィンが水差しからグラスに移しパトリシアに渡した。ジョナサンはパトリシアに毛布を羽織らせ、

「帰って来ない時はどうしていたんだ?」

パトリシアは手袋を見せて、

「意識がある内に変身を解いて、魔力をギリギリ迄消費するの。それからコレと同じ、鋼熊の毛皮で作った寝袋に入って、魔法陣の上で朝を待っていたわ。」

「ムリしないで帰っておいでよ、俺達も役得だし。」

「意識の無い状態で、貪りつく自分を想像して幻滅するのよ、女子の心に返った時恥ずかしくてたまらないから!」

「今夜はどうして?」

「そ、その、意識がある時ってどんなか知りたかったの。もう1巡お願いしてもいいかしら?」

「勿論!」

スタンバイ状態だったケヴィンが即応した。

「意識がある時にこうするのって初めてだね!」

「恥ずかしいから、はなしかけないで!」

パトリシアは毛布で顔を隠した。

 1巡を終え、

「この前は、ありがとう。あの娘達に魔族だって知られたくなかったから助かったわ。」

「もしかして、今の3巡目ってその時のお礼とか?」

「ま、まかさでしょ?魔王の娘が、『カラダで払います』なんて訳無いじゃない!味見よ、あ!じ!み!」

パトリシアか頬を膨らませると、微妙な雰囲気になったが、丁度、満月の支配から解放されたパトリシアは、黒髪黒眼に戻った、いや変身した。

 角も隠し、出勤の準備。シャワーを浴びてお化粧を施し身支度を整え食堂に降りた。人族の居ないキッチンではろくな料理も出来ないし、魔族のメイド達も満月の支配でパトリシアと同様の夜を過ごしていたので、誰も居なかった。昨夜から用意してあったお弁当を食べて実家を後にした。

 行き交う人族を観察して、『魔王の娘』から、『ギルド勤務のパトリシア』になった事を確かめる。怯えて避けて歩く人は居ないので大丈夫。それと、男性達が必要以上に欲情していないかを見て『満月の支配』が解けいるのも確認した。

 何時も以上に爽快な事を不快に思いつつ出勤。セクハラ冒険者の舐める様な視線と、

「今日は一段と(いろ)っぽいねぇ!」

毎朝聞かされる台詞だが、満月の翌朝は特に聞きたく無い様子で睨みつけた。

「怒った顔もそそられるねぇ!」

コレも毎朝の聞きたく無い台詞だが、つい睨んでしまい、毎朝後悔していた。

 依頼をボードに貼り出し、冒険者達が集まって来ると、割の良い仕事を物色する方で忙しくなり、セクハラから解放された。


「あっゴメン!またまた急なんだけど今日は護衛の依頼が来てるんだ、ご指名でね。元は一昨日にね、昨日の希望だったんだけど、君が早退するって言って断ったんだ、そうしたら今日、急にまた来てるんだ、宜しく頼むよ。」

ギルドマスターは依頼書を、パトリシアに渡していた。

 護衛は、馬車の前後を騎馬で護るパターンと、一緒に馬車に乗り込むパターンがあるが、後者の場合、護衛対象が女性の場合、女性を希望する事が多く、パトリシアの所属するギルドで女性はフリーの冒険者が数人いる程度で、この手の依頼はパトリシアの独壇場になっていた。奥様やお嬢様のお喋りに付き合わされるのが大変だが、体力も魔力も消費せずに高額報酬なので、パトリシアにとっては、まぁ悪くない部類の依頼だ。パンツスーツに着替え、依頼元のお屋敷に馬車を飛ばした。

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