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魔王の娘ですが、継ぐ気は一切ありません!  作者: グレープヒヤシンス
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ショーンの里帰り

 ミラとの関所に到着。人族の国境でもあるので、少し手間が掛かった。2時間待たされてようやく通過すると、厳つい魔族が数人待機していて、パトリシア達を見付けると、膝を折って頭を下げた。ミラの幹部達で、ショーンの幼馴染だ。早速屋敷に直行し、やはり歓迎パーティーが催された。

 ショーンの兄、魔王ミラは、2歳しか離れて無い筈だが、魔王の風格に満ちて、結構な歳の差に思えた。アルタイルの意向でもあるが、農業支援の魔物狩りで隣国のアンタレスを実質的に追い出してしまう、頭脳派と言えるだろう。兄弟なので容姿はショーンと似ているが、性格はジョナサンかもしれない。

 似ていると言えば、魔王の息子、ショーンの甥っ子が、ショーンの小さい頃に良く似ていた。

「性格も俺より、お前に似ているぞ。魔力も似てくれると良いんだがな!」

魔王は嬉しそうに笑う。

 ズバ抜けた魔力の為に、跡目争いに巻き込まれない様ショーンがアルタイルに引っ張られた事を気にしていたらしいが、都会で伸び伸び暮らしているショーンを見て、楽しく笑えるようになったのは、つい最近の事らしい。


 パーティーの間、人見知りの甥っ子はショーンとの距離を詰められずにいたが、暗くなって来ると意を決してショーンに歩み寄った。何やらおねだりをすると、ショーンはオーバーアクションで了承した。

「もう少し暗くなってからだぜ!」

ニッコリ喜んだ様子で母親の元に走った所、パトリシアが、

「何をお願いしたの?」

「・・・・・」

母親の背中に隠れてしまった。


 外が真っ暗になると、ショーンが皆んなをバルコニーに誘った。いつの間にか甥っ子はショーンの側に立っていた。

「よし、ちょっと離れてて!」

少し周りを気にしてから、右手を広げて空に突き出した。少し唸ったと思うと、漆黒の夜空に真っ赤な花が咲き乱れた。歓声が響き、甥っ子もあんぐりと口を開けたまま宇を見上げ続けていた。

「そんなお洒落な技、いつ覚えたの?」

パトリシアが尋ねると、

「忘れる位、ずっと前かな?」

「私、初めて観たわ!どうして観せてくれなかったの?」

「いや、頼まれた事、無いだろ?」

「こんな事出来るの知らなかったんだもん!」

パトリシアが膨れると、

「そっか、ごめんよ。観たくなったら言ってくれよ。」

感動の余韻に浸りながら、パーティーの続きを楽しんだ。


 翌日、港の整備の見学に行った。農産物を大量に都市部に送り込む計画との事。

「都会で売って、都会の珍しいモンや、コッチじゃ採れ無いモンを買って来るんす!往復で美味い商売ですぜ!」

案内のお兄さんは、海賊対策で一緒に乗り込む予定らしい。脳内では既に大金を手にしている様に幸せな表情をしていた。既に大きな倉庫が幾つも建っていて、大きな荷馬車が往来出来る道路も整備されているそうだ。港もほぼ完成であとは船を待つだけだった。


「大きな船を作る船大工が、シリウスにしか居ないんす。明後日が納入予定なんで、見て行って下さい!」

航路を聞くと、ミラからシリウスに寄り、アルタイルへ行くそうだ。ジョナサンの故郷、シリウスは漁業が盛んな地域なので、ここから農産物を運んで、一部を売って、海産物を仕入れてアルタイルで売る。アルタイルで別な物を仕入れ、シリウスで売って、また海産物を仕入れ、帰って来て売る。そんな計画らしい。

「船が着いて、翌日出港です。」

それまで、ショーンの懐かしい所を巡ったりして、シリウスまで乗せて貰う事にした。

 ショーンは初段校に入る前からアルタイルに出ていたので、思い出の地と言っても、小さい頃に遊んだ公園位でそんなに楽しめる所は無かったけど、

「あの、巨大滑り台の公園って、覚えているか?」

ショーンは、幼馴染達に聞いていてみたが、誰も覚えていなかった。兄に相談すると、

「子供の頃住んでいた屋敷の庭にあった滑り台だろ?移設して裏庭にあるぞ!」

ミラについて行くと、普通サイズの滑り台があった。

 庭の雰囲気に若干マッチしない存在にジョナサンが尋ねた。

「何か特別な想い入れでも?」

「ああ、子供の頃は臆病でな、あっ今もそうなんが、立場上『慎重派』と言い換えているがな・・・。」

5歳になっても高さを怖がり登れなかった滑り台を3歳児の弟が偶に階段から落ちながら遊んでいた事で、弱虫の兄より、アグレッシブなショーンを後継者にすべきと言われる様になったそうだ。

「思い切って一歩踏み出したい時に見に来ると、背中を押してくれるし、慎重過ぎて周囲の目が気になったときに、落ち着かせてくれるんだ。御守と戒め、あと兄弟の思い出かな?」

 成長したショーンは、サイズ的にムリだったので、甥っ子に滑って貰い懐かしさに浸っていた。3歳児であれば、階段を1段上がるにも全身全霊のチカラで挑んだと推測出来るので、それを数回繰り返す滑り台は、彼の記憶の中で『巨大滑り台』となっていても不思議では無い。

 結局、未就学児の思い出では、いい歳の大人が楽しめる事はなかった。ケヴィンやジョージが土地勘があって、色々案内してくれたのは、ある程度成長してからの里帰りで得た情報で、本当に暮していた頃の思い出は、ショーンと変わらないレベルらしい。無駄に屋敷で燻っていても仕方が無いので、農業王国ならではの美味しい物を巡る事にして馬車に乗った。乗って来た馬車は、整備してくれていたので、屋敷の豪華な馬車で出掛けると、道行く人は魔族は勿論、人族までが立ち止まって会釈をしたり手を振ったりしていた。ランチに入った食堂でもVIP対応過ぎて居心地が良くない位だった。オススメの美味しい物を食べ歩いて、旅のお供に酒やおつまみを買い込んだ。

「あんなに食べたのに、夕食の時間になったら、食べられる雰囲気になるもんだね!」

皆んなニッコリ同意して、ワイングラスを傾けた。


 馬車に乗ろうとするパトリシアは、

「この位暖かいと、星空眺めるのもいいわね!」

少し皆んなと離れると、路地裏から魔力の刃が飛んで来た。放たれる直前に殺気に気付いたパトリシアは、護りの指輪を嵌めた左手を突き出して迎撃。刃は反射して狙撃者を襲った。

 護りの指輪は、装着者の魔力を越えないレベル迄の魔力攻撃を、そのまま跳ね返す能力があり、パトリシアを魔力で凌駕するのは、ほんの一握り、いやひと摘み程もいないので、実質的に無敵に近いアイテム。狙撃者はショーンが即時拘束した。

 ミラに来て初めて見る浮浪者っぽく臭う男は、リゲルの残党だった。自白の魔法で洗いざらい吐かせると、代々アンタレスの側近として仕えていた魔族の家系で、衰退しつつあったリゲル(現在のロビンソン)にテコ入れとしてやって来たが何も出来ずに、責任を取って腹を切ったが、無駄に強い魔力のせいで死に切れずに今に至るらしい。取り敢えず屋敷に連れ帰ると、

「シリウスに行くなら、ちょっと戻るがペテルギウスに放して貰えるか?」

中立ではあるが、旧リゲルと親交のあるペテルギウスに放てば、アンタレスに辿り着くだろうと、追放だけで済ませる事にした。

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