国替え
スピカ家に4泊したので、カペラ家にも同じく4泊。以降の計画は白紙だった。色々相談して、
「ほな、ショーンの里帰りで決定やね?」
南方にあるショーンの実家、ミラ家を目指す事になった。
距離はかなり有るが、街道が整備されているし、宿の有る集落が沢山有って、よほどのトラブルがない限り、野営の心配は要らない。寒さも緩んで来る季節だし、少し南下すれば積雪が少ない地域なので、これまでの行程と比べたら、楽な旅になるだろう。緊急用の食糧を念の為積んで馬車を出した。
「アケルナルに会えたのは偶然だったからさ、まぁ結果オーライだけど、1番寒い時期に、態々北に向かう事も無かったよね!」
南にスタートする選択肢が無かった訳でも無いので、確かにそうだったと、揃って大爆笑。
「ほな、暑うなる前に、南から脱出せなあかんな。」
態々言わなくても、今からだったらそんなに長居はしないだろう。
宿に泊まって、宿で朝食。昼は大体食堂の有る集落があり、ない場合は宿の人が教えてくれて、頼めばお弁当を用意してくれる。常に快適な旅を続けられるのは、魔王が人族を提携して作ったシステムらしい。宿のある集落が栄え街になり、人族が潤えば、歓楽街で魔族も潤う算段で、上手く行っているお手本の街道との事。他でも、ここまでの完成度ではないが、街道、橋、港等で暮らしを変え、農産地と都会を結ぶと運送業者が現れ、荷物の往来が盛んになると、護衛の仕事が発生したりと、カネは巡り、結果アルタイルも潤って、次の開発に取り組んていた。
「若い世代の人族は、魔族を一括にしなくなったよな?ただ搾取するアンタレスと、道やら仕事やら作ってくれるアルタイルじゃあ風当たりも違うよな!まぁ、人族の稼ぎで食ってるのには変わらないんだけどな。」
ジョナサンがしみじみ話すと、パトリシアは父を見直したのレベルから、尊敬までレベルアップしていた。
旅は順調に進み、パトリシアの治療も最後の1包になった。宿に着いて手続きをすると、
「ペットの持ち込みは御遠慮頂いております。」
キチンと預かって貰えるので、ウォーレンは心配無いが、最後の薬を飲むのにはちょっと支障があった。
「皆んなで過ごそうか?」
パトリシアの誘いに四人は二つ返事で賛成した。
交代で揺れあってふた周り。パトリシアはずっと意識を保ったままで居られる様になっていた。欲求だけに支配されていた頃とは違い、好みの揺れ方が解ってきてそれなりに楽しみ方が解って来た。魔力で意識の無いまま単調に揺れるウォーレンよりはずっと楽しめた事はパトリシアだけの秘密と言う事にしておいた。
スッキリ目覚めたパトリシアは、ウォーレンを迎えに行った。少し早く出るので朝食はお弁当を頼んでいたので、馬車に乗って包を広げた。ウォーレンと食べられない事を気遣ってくれた様で、犬用も用意されていた。街道はまだまだ続き、毎日同じ事を繰り返していたが、宿ごとに土地の名産が食卓に並び飽きずに旅を続けられた。
「もうすぐなんだが、この先ちょっと面倒なんだ、表立っての抗争とかは無いんだけど、少しの間だけアンタレス系のエリアを通らなきゃならないんだ」
渋い顔のショーンがいきなり、
「あれ?ここって?」
ショーンが驚いたのは、アンタレス系のエリアの筈が、どう見てもアルタイルとしか思えない。不思議に思って様子を調べると、
「おおおおお!」
良く知った顔が満面の笑みで駆け寄って来た。
シドニー・ジェームズ・ロビンソン。四天王より少し年上で、アンタレスの強豪が犇めくエリアの隙間の楔の様なエリアを任されているはずの男だ。
「ここ仕切ってたリゲルの奴らがな、食いっぱぐれで夜逃げさしそうでよ、んでアルタイルの親父が『国替え』とかって、こことあの窮屈なトコと取っ替えっこしたんだ。」
ミラもここも農業大国だが、ミラでは有害獣を魔族が駆除し豊作が続き、飢えた獣は隣国に餌を求めた。アンタレスは人族の心配などはする由もないので、畑は荒れ、人族は流出した。
貧しくなった人族からもリゲルは容赦なく搾り取る。更に流出が進んだ。結局、暮らして行けなくなり、撤退に追い込まれた。
「でな、ここのチンピラの受け皿がいるってあそこ明け渡したんだ。こんなボロボロの土地だけど、ショーンの兄さんも手伝ってくれるっつうし、狭い土地で周りみんなアンタレスより住みやすいからな。」
元々、ミラの方が豊かで、出稼ぎに出る者も居たぐらいだったが、急激な変化は、昨年の夏からのたった半年程の出来事だった。
新たにロビンソンのエリアになったこの地は、既に有害獣の駆除は進み、用意出来ていない種や苗はミラの人族が工面する話が付いて、もとの住人が戻りつつあった。元通りとは行かないまでも、春から農業は再開出来るだろう。
アンタレスへの睨みと、刀鍛冶の集落を護る為に死守していたエリアだったが、刀鍛冶の長老が移転を受け入れてくれたので、恩を売っての国替えは、アルタイルに有利だったようだ。
今は、アルタイル系の者が市街地を避けてミラに向かう様に出来ていた街道を、市街地を通過する様に道路整備と橋を架ける工事が急ピッチで進められている。閉まっていた店や宿も再開して街の活気も戻って来ていた。
「宿は工事の人族でいっぱいだべ、掃除だけは済んでっから、おらのトコ泊まってけぇ。腹膨れるだけなら飯もあるど。」
シドニーの屋敷に招かれた。結構古い建物たけど、重厚な建て方で、手入れが行き届いていた。料理もシドニーが謙遜しているだけで、とても美味しく、ピリ辛の普段食べない料理だった。
「コックがリゲルの時のまんまでよ、あっちの奴らの料理なんだ、結構気に入ってんだけども、口に合ったか?」
「ええ、とっても美味しいです。アンタレスの本家の街に行ったらもっと珍しい物が食べられるかも知れませんね。」
シドニーは楽しそうに、
「あの親にしてこの娘ありってな。お嬢ならアンタレスも喰っちまうかもな。」
旅のエピソードと、国替えで始まった再開発の話しを肴に遅く迄飲んで、ギリギリ自力でベッドに辿り着く位でお開きになった。
翌朝、殆ど飲まなかったジョージと、よほどの酒豪らしいシドニー以外はかなりの宿酔いで、パトリシアは朝食を断ろうと思ったら、
「宿酔いですよね?胃に優しいお粥はいかがですか?」
コックさんが土鍋を運んだくれた。
お粥を啜って、昨夜聞いた再開発の現場を見学。午前中のうちに、ミラに向かった。




