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魔王の娘ですが、継ぐ気は一切ありません!  作者: グレープヒヤシンス
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ジョージの里帰り

 カペラから花嫁に付いて来ている用心棒が手綱を取り、戦地に向かった。通常、2泊3日の行程を緊急用に整備された道路を使って2泊目に泊まる町に、1日で到達した。そこもアルタイル系のエリアだが、アンタレスの侵攻等の被害は無いようで、しっかりと防戦態勢に入っていた。宿で状況を聞くと、十数人の切込み隊がカペラの市街地で暴れた位で、殆どが山間部のトラップで立ち往生しているらしい。切込み隊は、直ぐに来るはずの援軍を待てずに鎮圧されていた。

 ジョナサンは地図とにらめっこをして、ガイド役の用心棒に、

「ここに回り込む事は出来そうか?」

「ハイ、険しい山道ですが、半日もあれば、敵本隊の背後を突けます!」

「いや、そうじや無いんだ、ここをな・・・。」

ジョナサンは作戦を説明した。


 宿はそれぞれシングルの部屋で、久しぶりにウォーレンを抱いてベッドに入った。復活した膨らみに仔犬を沈めて毛並みを堪能していると、身体の変化を感じた。満月の影響が鼓動を昂らせた。臨戦態勢の彼等を頼るべきか、一晩耐えるべきか悩んでいると、唇が塞がれ、入って来た舌は、仔犬ではなく人族のそれだった。パトリシアは急いで防音結界を張り、ウォーレンに身を任せた。激しく揺れるウォーレンは、やはり意識は無く、話しかけても、反応は無かった。

 パトリシアは動かなくなったウォーレンの手の平に飲み残しのワインを塗ってタオルに手形を取ってから、ウォーレンの胸に耳を当て、鼓動を聞きながら眠りに付いた。


 朝起きると、ウォーレンは足元で丸くなっていた。手形の付いたタオルで昨夜の出来事が夢じゃ無かった事を確かめた。鏡を覗いて、

「元通り?」

下着を着けて、

「うん、元通り!そうだ、大奥様の薬、説明のお手紙が入っているんだったわ!」

小さな紙袋の中にはお手紙と五角形に折られた薬包紙が7つ。手紙には、大奥様の魔法はあと2日満月状態になり、薬は1包で一晩満月状態になるそうだ。元に戻っても、薬を使い切る迄続け無ければ安定しないと記されていた。


 宿の朝食を食べて山道を走る。敵にも魔物にも会わずに目的地に到着した。ジョナサンの指揮で、戦闘ではなく、道路整備が始まった。ジョージが猫の魔物を呼び出すと、巨大な橇を引かせ、山道を圧雪状態にした。アンタレスが帰り道に使う街道から、立ち往生している現場の近くまでを整備、ジョナサンは氷のドームを幾つも作り、ショーン、ケヴィン、パトリシアはドームの中に焚き火の支度をした。準備が整った所で敵の前方に移動、ベヒーモスを呼び出し、トラップを解除した。ベヒーモスを見たアンタレス本隊は死にものぐるいで退去、ドーム迄にげた辺りで、ベヒーモスを帰した。

 全員がドームに入った事を確かめて分厚い氷のフェンスで退去以外の選択肢を排除。アンタレス本隊もジョナサンの意図が読めた様で整備された山道を降り、街道に辿り着いた。その後は攻めてくる様子が無かったので、一件落着と言う事にして置いた。


 宿に戻って遅い晩ごはん。パトリシアは元に戻ったこと、満月状態が続いている事と、ウォーレンが人族になれるようになった事を報告した。

「元に戻ったのは嬉しいけど、ウォーレン復活じゃあ、俺達の出番無くなっちまうな。」

ショーンは残念そうに言った。

「そうね、何時までも甘える訳には行かないから。」

「なんぼでも甘えてええで!」

ケヴィンが明るく笑って、ワインを一本追加した。


 翌朝、ウォーレンがちゃんと変身出来た事を報告して、カペラに向かった。    

 ランチは保存食で済ませ、先を急ぎ、夕方に到着。スピカ家に着いた時のリプレイの様に招き入れられていた。  

 やはりリプレイの様にパーティーが開かれ、使い烏で大体の事は伝えていたが、恨みを買った出来事や、ジョージの仕業だとバレた経緯等、ケヴィンが講談師の様に語り、楽しく盛り上がっていた。

 スピカ家は姉婿が継いでいる。姉とは歳が離れ、先代が亡くなった時にはまだ赤ん坊だったのと、長女だけが第一夫人の子供で、第一夫人の実家がスピカ家に大きく貢献している事、婿はベガ系列のファミリーの次男で縁組から、実家は実質的にアルタイルの傘下でアンタレスへの睨みの要になっている事から、

「それで、跡目争いが起きないように、親父さんが俺を呼んだんだ。縁組もアルタイル魔王の主導だからね!」

「お父さん、そんな事考えるんだ!」

ジョージの解説にパトリシアが目を丸くすると、

「ウチかてそうや、ジョージの姉さんが嫁に来はってから、間にある日和見派が皆んなアルタイルの傘下になってな、兄貴は気が弱いっつうて俺を担ぎ上げようとする奴らを牽制してな、俺も呼ばれたっつう訳や!」

ケヴィンの話しを聞いて、パトリシアの視線は、ショーンとジョナサンを捉え『君も?』をアピールしていた。

ショーンは、

「ウチは、元々傘下ではあったんだけどそれ程親しく無い間柄でね、隣接するアンタレス系のファミリーが接近して来たんだ。兄貴はアルタイル系のファミリーの娘が許嫁だったから、俺が狙われたんだ。で、呼ばれたんだよね。」

アルタイルの婿候補の噂で、アンタレス系は大人しく手を引いたそうだ。

「俺はウォーレンに近いかな?」

ジョナサンは魔王の甥だが、魔王の息子の従兄がパッとしないので、ジョナサンを担ぐ派閥が跡目争いを仕掛けようとしていた所をジョナサンを呼び、魔王の息子にはしっかりバックアップ出来る嫁、実力のあるファミリーの娘と縁組させたとの事。

「で、俺達もイナカでお山の大将やってるより、同い年の4人で競いあって成長出来たんじゃ無いかな?」

 楽観的で細かい事は気にしない性格と思っていた父が、繊細な政略結婚を考えていた事にパトリシアは驚いていた。

「でも、政略結婚させられるのって可哀想よね、知らない人と結婚するんでしよ?」

「確かに知らない人だけどね、時々地方のお兄さんやお姉さんが遊びに来ることあったでしょ?あれ一応お見合いって言うか、無理が無いかチェックしてたんだって。ウチの姉貴なんて、目的を知らされずにケヴィンの兄貴を見て一目惚れだったんだから幸せな話しでしょ?」

本人達のこともある程度は考えていたらしく更に驚いて、

「ただ威張ってるだけじゃ無かったのね!」

他の地方では、橋を架けて交流を深めたり、港の整備費を負担して海運と海軍を発展させたりと色んな事で地盤の強化を続けている様だ。パトリシアは学校を出てから、他所の街のギルドで働いて実家には寄り付かなかったから、大人の事情に付いてはかなり疎かった。今回、思わぬ所で、父を見直していた。

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