ダンジョンガイド
店を出た5人は少し歩くバーを目指したが、人垣の向こうに立ち尽くす受付嬢の二人を見つけ、
「悪い、私、あの娘達送って行くわ。次の満月には実家に帰るから、その時ゆっくり話しましょうね。」
パトリシアは四人に手を振ると、受付嬢の元に駆け寄った。
「こんな所じゃ、また変なのに捕まるわよ!」
パトリシアの無事を知って安心したのか、二人は泣き崩れてしまった。
さっきの店の下っ端が仕返しに来たりしないとも限らないので、パトリシアは二人を教会に連れ帰った。
「貴族様だったんですね、馴れ馴れしくして申し訳ございません。」
受付嬢の一人アーリンが丁寧に謝罪した。エマも倣って深々と頭を下げた。
「気にしないで!私、そういうのが苦手で家名無しって事にしてるの、ナイショにしててくれる?」
二人は頷いた。
「あっ、ごめんなさい、私、パジャマ持ってないの。着る習慣なくて。」
シャワーを勧め、バスタオルを渡した時に気付いて、フォローを考えていた。
「パトリシアさんは普段何を着てらっしゃるんですか?」
「普段は何も。あと敬語は勘弁してね、それとパットでお願い!」
「じゃあ私も!」
と、家主の習慣に合わせ、全裸でベッドに並んだ。
「ねえパット、ベッド大きいね。」
「ああ、狭いベッドだけは我慢出来ないんだ。ダブルベッドが落ち着くんだよね。」
確かに教会でシスター達に紛れての生活には、似つかわないサイズだが、シングルでなかったおかげでムリしながらも三人で眠る事が出来るので、結果オーライ。全裸に慣れない二人は緊張している様子だったが、嫌な冒険者や怖い居酒屋で気力を消耗させていたらしく、直ぐに爆睡。パトリシアも一安心したが、今度は両側からきついハグと遠慮の無い手のひらが、乳房を揺らした。
「まだ満月じゃ無いわよね?でもまあいいか。」
乳首に吸い付く二人を撫でながら、パトリシアも眠りについた。
翌朝、しっかり密着した状態で目を覚ました。まだ早い時間だったし、気持ち良さそうに眠る二人を起こさないよう、じっとしていたが、アーリンが目を覚ましパトリシアに抱きついて、片手が乳房を堪能しているのに気付いて、ハッと飛び起きた。
「ご、ごめんなさい、私、なんて破廉恥な!」
「別に、気にしてないわ寝惚けてたし。昨夜はあなたもこうだったのよ。」
もう片方に吸い付くエマを撫でた。エマも目覚めて、アーリンと同じ反応。保存食を囓って、ギルドに出勤した。
昨日と同じ洋服で出勤出来ないと、アーリンとエマはスカートを取り替えて履いていたが、ギルドに勤めているのは三人以外は全て男性なので、誰も気にしていない様子だった。
「パトリシア、おはよう!急で悪いんだが今日はダンジョンのサポート頼まれてくれ。」
ギルドマスターがパトリシアの出勤を待ち構えていた。
「解りました。」
戦闘服に着替えて依頼者のパーティーに参加した。
三人組は新人と言うけれど二十歳位だろう。15歳、義務教育終了で成人とみなされる社会ではかなりのオールドルーキーだ。何処から見ても誰が見ても初心者って装備で、剣だけは中々のモノだった。何か事情が有るのだろうが、パトリシアは何も詮索しなかった。
今日攻めるダンジョンは、新人だけでは入窟出来なく、Bランカー以上かギルドが認めるガイドが同行する必要がある。パトリシアはランク認定は受けていないが、ギルドマスターがゴーサインなので、『ギルドが認めるガイド』って事になる。早速馬車で目的のダンジョンに向かった。
10階層付近で出没するオークがお目当てなので、一日仕事になる。入窟の手続きをしてお昼の弁当を買ってダンジョンに潜った。浅い階層の雑魚魔物をサクサク片付けてドンドン先へ進む。お昼には8階層迄到達。ランチブレイクで作戦会議。
「オークはもうすぐよ、あと他の魔物もある程度の経験値が見込めるから、頑張ってね!」
三人が真顔で頷くと、食休みもそこそこに下層へ向かった。
少し手こずったけど、パトリシアはサポートする訳でも無く8階層をクリア。9階層でお目当てのオークに遭遇した。武器を扱う、上級のオークだった。新人達は真っ向斬りかかったが、怪力で振るう大剣に圧され旗色が悪かった。パトリシアは臭い袋をオークの顔面に投付けた。一瞬怯んだ隙に体制を立て直すのと、極端に狭い視野を補っている嗅覚を奪うのが目的だ。
「正面は囮になって、横、後ろ、死角から攻めるのよ!」
第2ラウンドは、アドバイス通りに圧勝。その後11階層迄進み、小振りな(と言っても2メーターはある)オークを2頭倒して引き返した。
彼等の体力は階層を登るだけで精一杯だろう。
9階層で再び巨大オークに遭遇、最初に会ったヤツよりもデカイ、普段はもっと下層にいるヤツだった。新人達は早々にノックダウン、パトリシアは自ら突進し、パッと翻ると巨大オークの首が落ちていた。新人達をヒールし、ドロップアイテムや、耳と鼻を譲った。鼻は駆除の確証になり、耳は薬の材料として高く売れる。
「パトリシアさんの儲けにしなくてもいいんですか?」
「偶々アイツがコケたのよ。わたしの手柄じゃないわ、ギルドのお給料で十分なんです。特に贅沢しなければ、充分生きられますから。」
新人達は遠慮しながらも、鼻と耳をゲットしていた。
パトリシアは殺気を放ち魔物を遠ざけながら地上に到着。ギルドに戻ると、新人達は勇んで手続きに並んだ。
「あっ、注意するの忘れてた!」
巨大な鼻を見たアーリンとエマが驚くと、他の冒険者達が野次馬になり、大騒ぎになっていた。事務の制服に着替えて、カウンターに入った。サクサクと手続きを済ませ、野次馬を捌いた。なんとか落ち着いて終業。
昨日の今日なので、近場の食堂で夕食を済ませた。
パトリシアはスッと脇道に入った。尾行に気付いたようだ。案の定、追って来るヤツがいた。直ぐに次の角を曲がって待ち伏せる。
「おや、迷子ですか?両耳に絆創膏なんて、最近の流行りなんですか?」
昨日のクレーマーだった。懲りもせずに抜いた剣はパトリシアの手に有り、
「鼻にも絆創膏が必要?」
パトリシアは鼻の頭の皮一枚だけ斬って剣を返した。
「きっと、こうやってお会いすると思ってましたから、昨日の控え用意してたんですよ。」
プラマイゼロの精算書の控えを渡した。
「てめぇのせいで一文無しだ、どうしてくれる?」
「腕とか脚とか保険掛けてますか?」
「んなもん掛けるか!」
「残念ですね、何処か保険掛けてあったら、直ぐに切り落して差し上げるんですけどね。では、失礼します。」
男は剣を構えてパトリシアに斬りかかったが、剣を握っていたはずの両手は、地べたに転がっていた。