自爆
ベガの屋敷に付いたジョナさんの元に、使い烏が届いた。ショーンからの便りで、アレックスのクーデター未遂と、アケルナルを取り敢えずの所、排除した事が知らされた。
ベガの屋敷と言っても本家ではなく、ナンバー2相当、時期魔王が仕切っている。ランディの顔は知られていたので、どんな要件かは想像出来た様で、直ぐに幹部を集めてくれた。会議の場に人族が居るのを不快に思うらしく、殺気を放って居るが、ジョナサンは仔犬に吠えられた位に受け流していた。
ナンバー2のカールが登場すると、直ぐにジョナサンに反応した。
「ジョナサン・フォレスト・シリウス殿ですね?上座にお座り下さい。」
「スミマセン、今はただのジョナサンだから、ここで充分ですよ。」
しつこく勧められ、席を移動した。
使い烏の伝達内容を披露すると、アレックスと親交のあった幹部は表情で直ぐに解る程に動揺していた。内通の証拠は無かったが、顔色からは間違い無く黒だろう。処分は身内に任せて、ベガとミザールの今後について話し合った。ジョナサンは対アケルナルを優先に考えて、傘下に降る事を勧めた。カールも幹部として迎えたいと言い、ミザールは引退してランディに任せると言うことなのでトントン拍子で縁組が決定した。日和見派を纏めると、ベガの中でも大きい方の派閥になるので、幹部待遇は妥当だし、何より、アケルナルの脅威に最前線に立つミザールが無役では舐められてしまうし、日和見の小規模魔族を吸い取る効果も有るだろう。
ミザールの新体制がスタート。ランディの襲名とケイトとの結婚式には、魔王ベガが自ら赴き、親密度を見せ付けると、アケルナル台頭以前、日和見派の事実上のトップだったミザールの影響力が復活、アケルナルの本陣を孤立させる事に成功した。
末端のチンピラの動向を見て、ベガの意向が浸透している事を確認した。現在のアケルナルエリアの向こう側は、アルタイルの直系が仕切っている土地なので、食糧や武器、魔族の流入を防ぐ経済制裁を掛けた。更に脱出する人族を受け入れアケルナルの弱体化を図った。
一週間ほどで干上がり、アケルナルは内部崩壊。元々寄せ集めで、アケルナルのカリスマ性で成り立っていたが、対ベガだけでも旗色が悪い上、経済制裁は明らかにアルタイルが連携しているので、バタバタと寝返る者がミザールの門を叩いた。
アケルナルには、古くから行動を共にしていた十人足らずしか残らず、人族の避難も確認出来たので、トドメの遠征に踏み切った。ランディは四天王とミザールの直系、気心の知れた者だけ30人で本陣を形成、アルタイルとベガの助っ人それぞれ10人は関所を護り逃亡を阻止、元日和見派や、寝返り組は遠目を固めた。
ランディの部隊が屋敷を取り囲むと門が開き、白旗を掲げたアケルナルの残党が現れた。車椅子に乗った男がアケルナルだろう。四天王達は、デニスの面影を確かめ、彼の性格を考慮し、厳重な結界を4人掛かりで張って様子を見ていた。
側近らしき男がランディに歩み寄った。
「アケルナル様は今朝から昏睡状態にあらせられる。車椅子で失礼、、、。」
側近の言葉は、体験した事の無い眩しい光が遮った。
車椅子のアケルナルに、この屋敷の前の主が斬りかかった。剣がアケルナルに届いた瞬間、眩しい光がアケルナルを包み、四天王の張った結界の中が光で満たされた。やっと普通に目を開けていられる位に光が収まると、アケルナルの部下達は白骨死体になっていた。少し様子が違ったのは、車椅子の上の白骨がどう見ても二足歩行の魔族のモノに見えなかった。取り敢えず他に罠は無いか調べ、ランディの側に居て助かった、アケルナルの側近ウラミジールに自爆の経緯を確かめた。
朝、ウラミジールがアケルナルに部屋に呼ばれると、
「そろそろ、ミザールが来るな。後で犬を逃しておいてくれ。」
アケルナルは車椅子の上から指示をした。
もう一度呼ばれた時には、アケルナルは車椅子で熟睡、そのまま目覚める事は無かった。指示通り、無血開城したが、自爆の事は聞いていなかった。しかも、車椅子の上の白骨は、外に逃した筈の犬の骨と思われる。
「犬を身代わりにして、自分は犬に化けて逃げたんだな!」
何時もニコニコのジョージが別人の様に青筋を浮かせていた。
「大体、あの自爆、俺達の結界が無かったら全滅だぜ!遠征して来た俺達は、敵だからともかく、近所の人族やここの使用人、コールドゲーム並の劣勢でも自分に付いていた部下達まで巻き込んでしまうのはどう考えても納得出来ない!」
常にクールなジョナサンも怒りを顕にしていた。
「・・・・・・」
顔に出易いショーンとケヴィンは、怒り心頭で言葉にもならなかった。
結局、アケルナルは身一つで行方を眩ませた。一人は生き残っているが、10年以上もの間、苦楽を共にした部下を餌に殲滅魔法を発したので、仲間も誰も居ない。餌にされたウラミジールは、自ら自白魔法を希望し、アケルナルの情報を提供した。
18年前、拾われた孤児を集めてコソ泥や、見張りなんかに使う、アウトローな孤児院的な所に拾われたウラミジールは、数日だけ先輩の記憶喪失の少年と共に、言い付けられた仕事を熟して一人前の悪党に育った。
大きな仕事を請負う様になり、上納金の事で育った施設を離れた。その時に消されそうになったのが、封印が解ける事になった瀕死状態らしい。
その後は解禁になった魔力で零細ファミリーを吸収しながら拡張して行ったある時、あるファミリーと衝突。少年は魔王を倒し、その名を名乗るようになった。アケルナルとして、現在に至る。
ウラミジールの感覚としては、記憶喪失は本当で、魔力が解禁になった後も記憶は戻って居ないらしい。但し、魔力を封印したのがアルタイルの術である事を知り、封印と追放の経緯を調べて把握していた様だ。逆恨みでアルタイルやパトリシアに復讐を考えていたと想像してもおかしくないだろう。
「自白魔法が掛かっていても、これ位しか話せ無いなんて、俺はあの方と本当に18年も一緒だったんだろうか?切り捨てる者に、何も語らないと言う事か?」
改めて、側近でいる積りで、これからも苦楽を共にする積りでいたウラミジールは寂しく語り、
「多分、寝室に罠が仕掛けてあります。先程の様に屋敷を結界で囲って下さい!」
ウラミジールは屋敷に戻り、追うとしたが、扉は固く閉ざされていた。四天王が結界を張ると、屋敷の窓から光が溢れ、収まると扉のロックが解けた。
屋敷の中を調べると、生きている者は全く無く、アケルナルの寝室には、開いた宝箱とウラミジールと思われる白骨死体が散らばっていた。