表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔王の娘ですが、継ぐ気は一切ありません!  作者: グレープヒヤシンス
18/65

ミザール

 宿に泊まれる様に調整しながら西へ向かった。次の街まで距離があるので、まだ暗いうちに出発した。海沿いの平原をただひたすら進むルート。海からは数十メートルは離れているが波しぶきかと思われる物が、時折飛んでいた。

 午後更に視界が悪くなり馬車の速度はグッと落ちた。日の入りには時間があったが、厚い雪雲は日光を遮り、夜を先取りしていた。手綱をとっていたジョナサンは、

「こりゃ動かずに居るのが安全だな!」

一面真っ白で空き地か畑かサッパリ解らないが、一応道路から外れた(と思われる)スペースにお得意の氷の城を作って中にテントを張って野営する事にした。

 寒さに強い馬達もかなり消耗した様子で凍り付いたたてがみにブラシをかけるとバリバリとつららが落ちていた。

 結界で快適な温度をキープして熱々の鍋で空腹と寒さを癒やした。すっかり暮れてしまってから、風は収まった様だった。他愛のない話しで呑んでいると、入口を叩く様子が見えた。魔族の男女だが、吹雪で行き倒れの寸前と思われた。迎え入れる段階ではもう意識が無い状態だった。温かいテントに運び、ヒールをかけると、女性の方は意識を取り戻したが、男性はうなされていた。気が付いた女性に話しを聞くと、男性は酷い傷を負っていて、隣国に助けを求めて馬車を走らせた所、吹き溜まりに突っ込んでどうにもならなくなっていたらしい。吹雪が止んで灯りを見つけて歩いて来たそうだ。

 ショーンは、男性の服を切って脱がし、晒で止血しているものの、ジワジワと滲みが増す傷口にヒールを掛けた。凍り付いた靴と手袋を脱がすと凍傷で爪が抜け落ち、指も葡萄の様な紫になっていた。なんとかヒールが間に合い、気が付いた所にジョナサンが調合した薬を飲ませやっと落ち着いた。

「朝まで寝たら薬の効果もでる筈だから!」

1番小柄なジョージの着替えを渡して予備の寝袋で休ませた。

 女性はケイトと言って、これまでの経緯を話した。ケイトの実家はミザール家と言う日和見派の魔族で、一緒にいるランディは、幼馴染でフィアンセとの事。元々ベガと友好的なファミリーで、新興のアケルナルとは遠い関係だったが、隣接する小規模の魔族が、アケルナルに靡き、孤立状態に陥り、拐われそうなケイトを護ってランディが怪我を負い、ベガに援軍を求めて馬車を飛ばしたそうだ。

「当家が落ちますと、ベガも危険なんです。そうなると、アルタイルとアンタレスとのバランスが崩れ、大陸が抗争に巻き込まれる恐れが、、、あっスミマセン。人族の方に言ってもご迷惑なだけですよね?」

「いえ、そんな重大な話し、是非お聞かせ下さい!」

パトリシアが促すと、色んな情報を聞くことが出来た。

 アケルナルは、日和見派を取り込み、アルタイル、ベガの末端で好戦的な者、アンタレスの末端で、上に不満を持つ者も巻き込んで、数的にはベガに迫る勢力にのし上がっている。ミザールを飲み込み、ベガを凌駕するつもりらしい。ベガの幹部にも好戦派はいて、そこと繋がってアンタレスに寝返り、アルタイルを叩くのがアケルナルの目論見と考えてられている。

 ベガの綻びの憂いを未然に防ぐ為、ジョナサンがランディとベガに向かい、アルタイルとの結束を強化、ジョージとケヴィンはそれぞれ、抗争の激化しているところへ赴き、鎮静させる。ショーンとパトリシアはケイトとミザール家に行き、好戦派に釘を刺す。ザックリと作戦を立てて灯りを消した。


 翌朝、眩しい青空の下、ランディの馬車を救出、その馬車でジョナサンとランディはベガに向かった。

 ジョージを歓楽街で、ケヴィンをカジノで降ろし、ミザール家に向かった。

 ショーンは幹部の一人アレックスがアケルナルと手を組む事を勧めていると聞いて、その男を交え、ミザール氏と会った。

「儂は血を見たくない、人族が働いて楽しく遊んでカネを落としてくれるんだ。抗争なんてあれば、商売あがったりじゃ!」

「でも、歓楽街とカジノにアケルナルの奴らが来て、すっかり閑古鳥っす、どっちにしろ商売出来る状態じゃ有りません!」

ミザールの収入源の殆どがこの2つらしい。

「ベガだって、傘下ではない我々を助けるとは思いません、今ならアケルナルと話し合えば血を見ずに、元の暮らしが出来ますよ!」

アレックスはどうしても。アケルナルに付きたいらしい。

「ベガに向っているランディの帰りを待って判断してはいかがでしょう。」

ショーンの提案に、

「何で人族のガキがここに居るんだ?大体ランディがあの怪我でベガに辿り着けるわけないだろ?」

アレックスは、鼻息を荒くした。

「ランディが怪我したの、なんであなたが知ってるの?」

サプライズで登場のケイトを見て、

「お、お嬢、どどどとうして?」

「その方達に助けて頂いたの。詳しいお話、聞かせて頂戴。」

アレックスがしどろもどろで意味不明な言い訳をしていると、ドアが開いて2人の男が立っていた。

「こうなったら、皆殺しで俺の天下だ!」

自分の部下の登場で、いきなり強気に転じたアレックスだが、2人の部下はバタリと床に倒れ落ちた。後ろにはジョージとケヴィン。

「おまっとさん、カジノも酒場もこいつ等がアケルナルを引き込んどってな、現場はそのまんまやけど、奴らは撤退やろな。ランディん事もみな吐いたで!」

蒼白のアレックスは、ショーンを人質に取ろうと掴み掛かったが、一瞬呻いた後、両手の肘から先がダラリと動かなくなった。脂汗のアレックスに、

「関節を砕いただけですから、腕の良い医者なら、動く様になります、落ち着いて話しましょうよ。」

ショーンはゆったりとソファーにもたれて話しを続けた。

「ここを取ったあとの事考えていましたか?」

アレックスは、具体的な未来は描いて居ないようで、

「先ずは、ベガとの抗争で先鋒を務める事になります。ベガはアンタレス側に主力を置いているので、初めは優勢です、ベガの好戦派が寝返るかもしれませんからね。でも地力が違いますから、徐々に押されるでしょう。で、両者が疲弊しきった頃にアケルナルの登場です。一気に両獲りでしょうね。」

アレックスは、痛さと立場の悪さで、気を失っていた。

 ミザールに足元の再構築と、ベガの傘下に降る事を勧めた。予期せぬクーデター未遂に落胆したミザールは、引退して、ランディに任せると言い、即答はしなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ