ゴブリン退治
出陣の支度を整える。動き易い服に防具を装備するのだが、
「今日は、ちゃんとおめかししてや!」
ケヴィンのリクエストで、指定されたコーデに、キチンとメイクして、髪もキレイに結い、何時もはゴムで留めるだけだが、シュシュを飾ってみた。
露出が多めなのが気になったが、ケヴィンの大絶賛に3人と1匹が同意の頷きだったので、気にしない様にして馬車に乗り込んだ。
「ワンちゃんだけやなく、俺ラの護衛も頼んだで!」
ケヴィンの意味不明な言葉にパトリシアは、ウォーレンの真似をして、
「くーん」
と答えていた。
ギルドに到着すると、昨日の職員さんの所に女性冒険者が集まっていた。あからさまに凍結しそうな視線が突き刺さり、パトリシアはケヴィンの背中に避難した。
「おはようさん!なんや?今日の依頼書に美女限定って書いてあった?ゴブリン退治やろ?」
よりによって、冷凍視線の発射地点に踏み込んでしまった。
「では、橇の組分けしましょうね。」
職員さんは、お姉さん達を2人ずつ4組に分け、裏の倉庫に移動した。
犬橇が5台。今度は犬達の視線にパトリシアが一歩引くと、抱かれていたウォーレンがひょいと飛び降り犬達に駆け寄って柵の隙間から檻に入った。暫しのにらめっこの後、顔だけでも自分の全身より遥かに大きい犬にお尻を向けると、犬達はお尻のニオイを嗅いで、お行儀良くおすわり。ウォーレンは背中と言うか、尻尾の付け根の上を前脚でタッチして回った。
「あら、あの子、小さいのに凄いわね!」
おすわりして背中を任せるのは、服従のポーズらしい。
「手綱は男性にお願いしていいわね?」
3人乗りの橇にさっきの2人グループが乗り込み、パトリシアは職員さんと2人、5台の先頭で山に向かった。
「神話か、恋愛小説から飛び出た様な美少年が来るって情報流したのよ!」
職員さんはドヤ顔で解説。女性冒険者が多いほうが、ギルドの運営にメリットがあるそうだ。女性が居るとそれを目当てに男が集まるって言うのが大筋なんだけど、ギルド内での喧嘩とかが減るらしい。
4人の容姿は、ただ角と牙を隠し人族の様に髪と眼の色を変えただけだと、四天王のオーラを隠し切れないため、やや若く、中性的な感じになっているので、お姉さん達が大騒ぎするのも頷ける。
デニスの事も聞いて見たが、具体的な情報は無く、噂の中から該当しそうなのは、ここ数年で、日和見の魔族を束ねて、隣接するベガ傘下の魔族を飲み込んでしまいそうな動きがあり、そのボスがどこから来たのか解らない流れ者だと言う話しだった。それならば具体的な地域も解ったので、次の目的になりそうだ。
人里から数分で見張りらしいゴブリンを発見。1匹を手負いにして残りを始末する。魔力弾を連発。木の枝から片脚を失ったゴブリンと、ゴブリンの死体が3体落ちて来た。パトリシアが右耳を回収すると、後続のショーンが残りを灰にしてしまった。赤い道標を辿って洞穴に到着。辺りを見渡すと別の見張りがいて、1匹が洞窟内に駆け込んだ。伝令と思われる。周囲を調べると同じ様な洞穴が他に3ヶ所あったそれぞれに見張りがいたので多分繋がった出入口と思われる。見張りを始末して、出口に罠をしかけた。
最初に見つけた洞穴に、発煙筒の様に使う魔力弾をショーンが撃ち込んだ。内部は広い様で、煙が出入口まで来るのに暫く掛かったが、その直後ゴブリンがドンドン飛び出し、ドンドン死体の数を増やしていった。洞穴の出口には、魔力を纏わせた針金が張ってあり、猛スピードで出てくるゴブリン達は針金を通過した時点で、上半身と下半身の別れた死体になっていた。耳を回収して死骸を積んで焼却処分。煙と死体が出て来なくなった所で立入り調査。煙を吸ったのか、苦しんでいるのが数匹いてサクッとトドメを指して奥に進んだ。
ショーンが小さな入口を見つけて覗くと、子供や赤ん坊、妊婦や授乳中のゴブリンが寄り添い合って震えていた。
「もう耳は良いよな?」
一応、皆んなの顔を見て、回答を待つ訳でもなく魔力弾を撃ち込んだ。
「いくら害獣でも、妊婦や赤ん坊の始末は後味が悪いよな。」
他に生き残りは居ないかを確認、人族から奪った剣や斧等、光りモノを好む習性があるので、価値は判らないがネックレス等のアクセサリー類をいくつか回収して洞穴を出た。
耳を数えると、158個あと2つで金貨8枚なのでちょっと残念かな?犬橇のレンタル料銀貨2枚カケ5台を引くと金貨6枚と銀貨9枚。戦利品はアテにならないから13人で割ると銀貨5枚弱。正直、お姉さん達がいなくても充分だったが、情報収集の次いでなので気にしない。
「ここって、昨日の露天風呂の近くですよね?」
パトリシアが地図を覗いて聞くと、
「ええ、少し登ると山道が繋がってますよ。」
「返り血でドロドロだから寄って行きましょうよ!」
耳の回収をしていたお姉さんに温泉経由を提案すると、女性陣は全員一致で賛成。
「脱衣場も無い混浴ですよ?」
ジョナサンが確認したか、元々知っていたらしく、決定は変わらなかった。
日頃、冷やかされる立ち位置が多いパトリシアは、鼻の下を伸ばし切った現場を抑えるつもりだったが、4人とも全くの平常心、ニヤつく様子も無かった。計画が空振りに終わったパトリシアに、
「あれ、皆んなメスだけど、焼き餅妬かないの?」
大きな舌で毛づくろいしてもらって寛ぐウォーレンを指差して、ジョージがニッコリ微笑んだ。パトリシアは流石にそれはないと笑っていた。
ギルドに戻り、戦利品の査定を待った。橇の犬達は檻に戻されると、寂しそうに唸り、ウォーレンは格子の隙間から中に入って、皆んなにひと舐めさせて戻ってきた。
ロビーに戻ると、お姉さん達の熱烈アタックは継続中で、他の男性冒険者からの羨望の眼差しや、冷たい視線が交錯していた。
査定が終わって明細を見ると、殆どが纏めて目方で幾らだったので銅貨2枚。ネックレスの1つがホンモノの金で出来た物があり全部纏めて金貨13枚。一人金貨1枚の上がりになった。お姉さん達は、更に夕食も同行するつもりでいたが、あっさり断って馬車に乗り込んだ、宿に馬車を停め、昨日の食堂に出掛けた。
食事をしながらお姉さん達からの情報を纏めた。職員さんが言っていた勢力拡大中のボスは、角の特徴や、髪、眼の色、使う魔法から、デニスの可能性は更に高まった。記憶を失ったせいか、ただ単にそう名乗っているのか、『アケルナル』と称して居るそうだ。馬車で数日の所にいる。次の目的地を確認して宿に帰った。
宿に帰って落ち着くと、メス犬達に毛づくろいされていたウォーレンを思い出し、ジョージには完全否定したはずの嫉妬心がなんとなく気になる程度に湧いてきた。ウォーレンをシャンプーしてから眠りについていた。