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魔王の娘ですが、継ぐ気は一切ありません!  作者: グレープヒヤシンス
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脱走

「大変!屋敷に戻りましょう!」

馬車に乗り込んで、デコピンで二人を眠らせた。ゴミの様な小屋に放り込んで宿に戻った。人族に変身して着替え、宿の主人と隣の商店の家族を乗せて鉱山を目指した。追っ手になる筈の魔族の殆どは、昨夜の格闘大会で、そうそう立ち直れない痛手なので、ほぼほぼフリーで難無く橋を渡りアルタイルの支配下に逃げ込んだ。

 ほっとしたのも束の間、広場が騒然としていた。一応、収まりつつある段階らしい。戸惑うパトリシアにジョージが説明してくれた。

「娘達の馬車は馬の代わりに猫に牽かせたんだ!ただ大きいからね、虎とか豹の魔物にしか見えないんだよね。」

確かに馬の体高の猫は人族も丸呑みしそうだった。パトリシアは、落ち(・・)が見えたので、ちょっと呆れたように質問を続けた、

「で、この長い長い馬車は誰が牽いたの?」

20台位繋がった馬車を指差すと、

「ベヒモスちゃんだよ!」

想定通りの回答でニッコリ。ベヒーモスは国1つ位あっという間に壊滅させる獰猛な魔物で使役させられる事は出来ないとされているので、街中は大パニックだった筈だ。

「騒ぎになったから、帰って貰ったけどさ、鉱山まで運びたかったんだよね。」

 傘下のボスに事情を話し、馬を借りて鉱山に馬車と、元路上生活者を運んだ。馬車とテントで仮住まいして、棲家を整えつつ鉱山で働く事で、取り敢えず文化的な生活に一歩踏み出す事ができた。

 娘達も数人は鉱山へ、残りは街で働く事が出来た。

 ジョナサンは、

「鉱山の社宅と、移住者の住まいに使ってくれ。」

と、金貨の詰まった袋を幾つも馬車から降ろした。アンタレスの上納金を失敬してきたらしい。

 久々に豪華な?いや、普通の料理が並んたテーブルに付いた。地竜の唸りで不漁が続き、やっと辿り着いた街でも、その影響で粗食だった。昨日はアンタレスの悪政で貧困の街で、本当に久々のテーブルだった。

「ワンちゃん居ないの寂しいね。」

ペット同伴出来る店が無く、ウォーレンを預けて不安ぎみのパトリシアをジョージが気遣った。

「ううん、平気よ。彼にもご馳走が当たっているわ!」

パトリシアは平気を装って、ステーキにナイフを入れた。


 余り嬉しそうじゃないショーンに、救出作戦の報告を聞くと、

「それが、見張りの婆ちゃんがサクサク鍵を開けてくれて・・・。」

 監視には、大会で不在だった魔族と、世話係を兼ねた人族のお婆さんがいたらしい。いつか時を見計らって、脱走させようと思っていたらしい。

「お婆さん、逃さなくて良かったの?」

「ああ、そう思ったんだけどな、元々自爆して見張りと刺し違えるつもりだったからって言って付いて来なかったんだ。」

「俺んトコの婆ちゃんは、『王子様は白馬じゃ無く、黒猫かい?』って鍵を放ってくれたで!やっぱり『死に場所はここ』っちゅうて、付いてけぇへんかった。生きているうちは、ゴミ捨て場で拾ろた娘さん達の供養をする言うてたな。」

 ケヴィンの所もそうだった様だ。ジョナサンの所も同様で、ついでに金庫も開けてくれた様だ。6人乗りの馬車に10人以上無理矢理詰めて、馭者席にも乗って何とか、3台で42人全員を救出。

 路上生活者は計104人、

「僕は別に、苦労も面白い事も無いよ。」

 1番お騒がせのジョージは涼しい顔で肉を頬張っていた。

 暫くお喋りしていると、人族の紳士がやって来て、

「鉱山のオーナーのスミスと申します。お陰様で、鉱石の増産が叶いそうです。」

深々と頭を下げてお礼すると、テーブルの伝票を持って行って会計を済ませていた。

 一緒に来ていたエリアのボスのチャールズは、

「アンタレスの奴ら、報復に来るでしょうか?」

「俺達がアルタイルの者だとは思って居ないだろうから、直接は無いかな?ただ、逃げた娘達がコッチに居ると知ったら面倒だな。うちは動かずに、人族に任せて、追い出させると丸く収まんじゃないか?今なら人族の騎士隊でも殲滅出来そうだからな。」

ジョナサンの分析を聞いてチャールズは、騎士隊の詰め所に飛んで行った。


 少し落ち着く迄は様子見で街に留まった。人族の騎士隊が、川向うの街を制圧、ワルサを働いていたチンピラ魔族は捕まって、ニコライを含む幹部達は、他国に脱出した様だ。かなりの荒れ具合いなので、復興には時間が掛かりそうだが、鉄で潤うようになれば、経済効果も橋を渡る日が来るだろう。

 数日後、鉱山の麓、元路上生活者達の社宅の様子を見に行った。建設資材は、ジョナサンが貰って来た金貨である程度揃っていたけど、大工とかの職人さんの手配はしていないので、まだ馬車生活だと思っていたが、世を捨てる前は職人さんだった人が大勢で、必要な人材が揃っていたらしく、あっという間に社宅が完成していた。大浴場も完備で、路上で嗅いだあの異臭はもう心配要らないようだ。

 街にいる娘達は、やっぱり住みやすい状況では無い様だが、他での暮らしが想像出来ないので、なんとか暮らしている様子だった。サポートの術が見つけられないので、困った事があれば、チャールズを頼るよう言い含めて、旅を再開する事にした。


 商店街に繰り出して、保存食や当面の食材を調達する。四天王の実力なら狩りでひもじい思いはしない筈なんどけど、今回のように他の要因で粗食になる可能性と、寒さが厳しい季節になるのと、地理的にも寒い方面に向かうので、山菜やキノコの採取は見込め無い事を考慮して、荷台の許す限り買い込んだ。ついでに防寒着も入手。寒い地域なので品揃えは、アルタイルの街よりも充実していた。

 いつの間にか居なくなっていたジョージが戻り、小さな紙袋をパトリシアに渡した。

「魔物用の首輪だよ、サイズを変えられる魔物に対応してるんだ。首輪無しだと、野良犬みたいでしょ?」

赤い革のベルトに金のリベットがポツポツ。金の丸タグにはレグルス国の獅子印が浮かんでいた。

「ウォーレン、嫌がらないかな?」

パトリシアは心配しながら、ウォーレンに見せると、スッと首を伸ばした。歓迎の仕草に見えたので早速つけてみると、真っ黒の毛並みに良く似合っていた。ショーウィンドウのガラスに映る様に抱き上げて見せると、コクリと納得した様子だった。

 準備か整ったところで、雪深い山道を目指した。 

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