潜入
狩りをして、釣りをして、山菜やキノコを採ったりしながらテント生活を続ける事6日間。走っても走っても景色が殆ど変わらない田舎道を進んだ。
ようやく見えた違う景色は滔々と流れる大河と、関所を兼ねた船着き場だった。
「ここを渡るとアンタレスのホームだからな。まぁその気になりゃ強行突破すりゃいいんだけどな。」
魔族の2大勢力、アルタイルファミリー対立するアンタレスファミリーが支配する地域なので、些細な小競り合いから、抗争に発展しても不思議じゃないので、ひっそり過ごそうと打ち合わせていた。
渡し舟が付くと、当然だが入国税が掛かる。ただ当然じゃないのはその金額、
殆どの場合が、銀貨2、3枚なのにここでは金貨1枚も掛かった。
「王家はアンタレスの言いなりでのう。」
関所の職員さんは、かなりの高齢で動けるうちは現役がここのスタンダードらしい。市街に入っても、働く高齢者が目立っていた。パトリシアが更に気になったのは、路上のあちこちにある異臭を放つゴミの塊だった。
「なんか、小屋?テント?ここで誰が暮らしてる見たいだな。」
ジョナサンは、臭いに耐えて覗いて居ると、
「何も盗むモンねぇぞ!」
悪臭の発生源らしき男がフラフラ帰って来た。髪は伸ばし放題、一応服らしいモノを纏い、歯は数本しか見えていない。相当な人数が、路上生活をしている様だ。
宿の主人に尋ねると、
「若い男は、こき使われ、税金と上納金で奴隷見たいなもんなんだ、いくら働いても身にならんから、働かないでああしてるのさ。女は殆ど隣国に逃げ出したが、逃げそびれたり、連れ戻された娘は、魔族のオモチャにされているんだ、嬢ちゃん、別嬪さんだから、表を歩く時は顔を隠しておくといい。」
外に働き口の有る人族はほぼ流出、それでお年寄りが駆り出されているとの事。
市街地でまともに営業しているのは、この宿と隣りの商店だけで、できるものなら脱出したいと考えていた。
「確か、鉄鉱石が採れる村ってこの先だよな?」
次の大河まで馬車で1日、人族の国としては国内だが、魔族のテリトリーとしては、アルタイルの傘下の魔族が仕切っている。いい鉱脈が見つかったけど、人手の問題で増産出来ずにいた。
「ここじゃゴミ見たいな人族だけど、仕事と食べるものがあったら文化的な生活するじゃないか?」
ショーンは、路上生活者を鉱山の助っ人に迎えるつもりだ。
「せやな、初めはテントだとしてもここよりはマシやろ!でもアシはどないすん?」
ケヴィンも乗り気だが、百人以上を運ぶ手段が思い浮かばない。
「道端にいっぱい馬車が放置されてたよね?」
ジョージは大発見のように目を輝かせたが、宿の主人は、
「馬がいないんですよ、馬車だけならただの箱ですからね。」
「それは任せて!宿の風呂を解放してくれます?あのまんま馬車に詰まったら凄い事でしょ?」
ジョージは主人の了承を取付けると、早速、作業員の求人に出掛けた。
ジョナサンは、
「貴方も逃げた方か良いですね。我々の共犯者に見られると、アンタレスは放って置かないでしょう。」
「いえ、娘が捕まってるんです。お払い箱になった時、ここが無かったら生ゴミにされますから。」
散々弄ばれ、身体や精神に異常をきたし、オモチャとして機能しなくなった娘は、親元に返されるそうだが、実家の無い娘はゴミ捨て場に放置、そのまま死を迎えるそうだ。
「じゃあ!そっちも解決しよう!」
ショーンはグッと拳を握りしめたが、妙案は浮かばない。
「ねぇ、私の作戦聞いてくれる?」
パトリシアの提案で救出作戦が展開された。
ここのボスはニコライ・プルコフと言ってアンタレスの中でも、屈指の大幹部。趣味は格闘観戦と視姦。ガチガチ武闘派だが、歳を取ってからは観る専門との事。格闘は何かに付け大会が開かれ、女はの方は夜な夜な、お気に入りの美女を触りながら、子分達の行為を観ているらしい。
「よう、ネェちゃん遊んで行かねぇか?」
黒いロングのワンピースでウエスト迄のスリットから太腿をチラ付かせ、大きく開いた胸元からは、2つの肉塊が溢れそうになっている。立派な角を軽く撫で、
「ネェちゃんじゃ無く、姐さんとお呼び!ニコライの屋敷に案内するんだよ!」
チンピラは、パトリシアの格を感じたようで、ひれ伏すように、
「姐さん、俺じゃあそんなトコ行けませんから、親分のトコ、お連れ致しやす!」
次に会った親分も、チンピラレベルで同じ理由でその親分に紹介された。そんなのをあと2回、やっと屋敷に連れて行ってくれそうな老紳士が登場した。
「お名前は?」
「記憶喪失なんです。病院の人が『きっと大幹部のお嬢か姐さんだ!』って言われましてね、ニコライ様なら私が誰なのかご存知かと思いまして。」
老紳士は勿論、ニコライの身内では無いことは解っていたが、ボスに美女を献上するチャンスと早速パトリシアを馬車に乗せた。
屋敷では、ニコライが鼻の下を伸ばして、魔族の美女を歓迎した。魔族の大幹部とは思えない小柄でほんわかしたお爺ちゃんだった。チンピラの頃、兄貴分の女に手を出した時のお仕置きで、股間にぶら下がったモノは排尿以外では機能しない。宦官のような立ち位置で、重宝されて成り上がり、その後武闘派で今の地位に登ったらしい。
早速ベタ付くニコライは、
「名は何と?」
「解らないの。取り敢えず『フー』って呼ばれてるわ、WHOのフー。」
「そうか、フーだな。」
「私は、なんて呼んだらいいのかしら?」
「好きなように呼んで良いよ。」
「じゃあ、パパ!」
パトリシアは、更に伸びた鼻の下を確かめ、
「ねぇパパ、私のお相手、格闘大会で決めましょう!どうせなら強い男がいいわ!」
ニコライは直ちに街中の魔族をコロシアムに呼び寄せた。ざわめく会場で、パトリシアはステージに立つと、
「私が今宵から、ニコライ様の夜伽を務めますフーと申します。お手伝いして頂く強い殿方を今、ここで選ばせて頂きます!」
湧き上がる歓声に手を振って、ニコライの横に貼り付いた。
普段の大会では、ある程度の劣勢で降参するのか普通だが、事実上の賞品がパトリシアとなっているので、殆どが立ち上がれ無くなる迄戦意を失わなかった。
百人は越えていた魔族達が12人に絞られたのは既に東の空が赤く滲んでいた。3人残す事にして、3組4人ずつの準決勝、決勝を今夜執り行う。
「では、私は人族の役所で私の事を調べて参ります。」
パトリシアは、子分を二人付けられて役所に向かった。調べても手掛かりはある訳無いのでただの時間稼ぎ。窓口のお爺さん、お婆さんも暇なので付き合ってくれた。子分は入口で見張り、パトリシアは世間話で陽が高くなった。
「人族の娘達が逃げた!路上生活の男達が騒がないから気付かなかったんだけど、その男達も居ないんだ!」
娘達の見張りや、その辺の監視も大会に出ていたので、夜のうちにキレイサッパリ消えていた。