ギルドの女性職員
とあるギルドのカウンター。受付の女性がクレーム紛いの冒険者に対応に当たっていた。
「いいから報奨金よこせ!俺もヒマじゃねえんだ!」
ゴブリンの駆除をした冒険者が、報奨金の手続きに来ているんだけど、やけに急いでいた。
「では、4体で銀貨2枚ですね。」
「どこに目ぇ付けてんだ!耳8つで銀貨4枚だろ!」
女性は耳を2つずつペアにして並べ、
「駆除の確証は、右耳です。4体分の両耳ですよね。左耳はお引き取りください。こちらで処分するなら銀貨1枚頂きます。」
「細かい事、ゴチャゴチャうるせぇんだよ!」
「どちらがうるさいか、客観的に見るとどっちでしょう?」
「だからうるせぇって!」
冒険者が剣を抜いた。少し揉みあったと思ったら、
「あら?少しはうるさくなくなっかもしれませんね?因みに人間の耳は報奨金の対象外ですよ。」
冒険者は両耳から血を流し、剣は女性の手に、カウンターには耳が2つ増えていた。
「あら?お怪我ですか?気を付けて下さいね。ギルド内での抜刀は禁止なのはご存知ですよね?この耳も処分しましょうか?」
「・・・覚えてろ!」
「少々お待ちください。」
女性が剣を投げると、男はひっくり返って避け、それを拾って青ざめて逃げるようにギルドを後にした。腰に提げていた革袋は、剣を躱した時に切れた様で、地べたに落ちていた。
隠れていた別の受付嬢が出て来て、
「ありがとう、パトリシアさん!あの人、毎回ああなんです!追い払ってくれてスッとしました!」
パトリシアは淡々と、
「いえ、あの方が勝手に暴れて怪我をされたの。それより精算済ましておきましょうね。報奨金が銀貨2枚、ゴブリンの処分費が銀貨1枚、何かの耳処分費と置いて行った革袋の中身で相殺ですね。」
革袋の銀貨と銅貨を数え、報告書を書き上げると、硬貨収納ケースに収めて、
「お待たせ致しました、次の方どうぞ。」
次の冒険者も癖の強そうな男だったが、文句も言わず、サクサクと手続きを済ませていた。並んでいた冒険者達を捌くと、終業のチャイムが鳴った。
パトリシアは修道服に着替えてギルドを出ると、
「さっきのお礼で、ご馳走させてくれないかしら?」
受付嬢が2人、パトリシアを食事に誘った。
「お礼なんていいですよ、でも、ごはんご一緒するのは嬉しいですね!」
3人は盛り場のレストランに入った。
パトリシアは、この街に来たばかりで、受付嬢の二人は夜の街とは無縁のお嬢様だったので、予備知識無しの飛び込みだった。ワインで乾杯して、サラダとピザを食べた。お会計は私達と、二人が押し切ってパトリシアが折れた。
「金貨15枚になります。」
一応ウエイターなのかな?さっき迄は居なかったガラの悪いお兄さんが3人で、伝票を運んで来た。
「思ったよりも高額ですね。金貨1枚にオマケして頂けませんか?」
パトリシアは涼しい顔で値引き交渉。因みに、金貨15枚は受付嬢の手取りの月収と同じ位の額。所謂ボッタクリである。
「お嬢ちゃん、冗談がお好きなようで。いえね、お支払頂けないのでしたら、お仕事をご紹介しましょうか?提携の娼館なら2、3日で完済出来ますよ。それとも、お家の方に迎えに来て頂きましょうか?」
ウエイターはパトリシアのネックレスを引っ張ると、
「タグ付きのお嬢様でしたか、それでは話が早い!」
使い烏に読ませた。ある程度の身分になると、IDタグを首から提げるのがルールで、使い烏はそれを見て、伝言や手紙を伝えてくれる。
「いや、それは不味い!止めて下さい。」
止めるまもなく使い烏は飛んで行ってしまった。
「おやおや?急にしおらしくなりましたね?タグ付きのお嬢様でしたら、ご家族に請求出来ますから安心してくださいね、おかわりは如何ですか?」
パトリシアは大きなため息をついて、
「ではバーボンのロックをダブルで。それと、二人は解放してもらっても良いですよね?」
「解りました。」
二人に、余計な事はせず、急いで安全な所迄逃げる様に伝えた。通報なんかしたら余計面倒になるとしっかりいい含めて見送った。二人を出すと、入口にガタイのいい用心棒らしいお兄さんが座り込んで、
「姉ちゃんの乳なら、結構稼げるぜ、親に迷惑掛ける事も無いと思うんだがなぁ。」
教会に身を寄せているパトリシアは実家とは付き合いたく無い事情が有った。
「貴方が呼んだんですから、ちゃんと応対して下さいね。それと、同じのをおかわり。」
数分で、ノックの音。扉の前に座り込んで居るので開かなかった。用心棒は扉を抑えたまま外を覗いていると、ミシッと音がして、通路に面した壁が、扉だけ残して粉々に砕けた。もう一度ノックの音がして、扉もガラクタになっていた。
「ノックしても気が付かれていないようでしたので、強めに叩いてみたんです。」
現れたのは、四人の魔族。
「ゴメン、こんな時間に呼び出しちゃって!呼んだのは彼ね!」
ショーン、ジョナサン、ジョージ、ケヴィン四人も来る事無いだろ?パトリシアはため息をついた。
「お嬢様が金貨15枚分のお食事を・・・」
「ほう、店構えの割に、ずいぶんなご馳走が頂けるんですね?我々もご馳走になっても良いですか?」
ウエイター達はガタガタ震えていた。
「ワインは安物だけど、それなりに美味しいわよ、シーフードピザは中々良かったわ!」
「じゃあ、それ4つとワインリストを頼む!」
ショーンがパトリシアのテーブルに着くと、他の3人も続いて席についた。
四人の殺気は店員達の自由を奪い、地べたにへたり込んでいた。震えているのはマシな方で、意識の無いヤツや、失禁しているヤツで、ピザもワインリストも出て来なかった。
「それから、不味そうな鳥の丸焼き送り付けて来てどう言うつもりなんだ?」
ジョナサンは、さっきの使い烏だろう、焦げた肉塊をウエイターに放り渡した。ウエイターは、キャッチ出来ず、肉塊は床でただのゴミになっていた。
さっき迄は壁だった所は野次馬で人垣になっていた。
「お兄さん達、ここがアルタイルファミリーのシマだって知っていての態度かな?俺様がだれなのは当然解ってるよな?」
魔族が10人程、人垣から湧いて出た。
「残念だけどね、直系だけで頭いっぱいでね、顔も知らない三下の事なんて覚えている筈無いだろ。」
ジョージは面倒そうにあしらうと、乗り込んで来た魔族のエラそうにしていたヤツがひれ伏した。
「も、もしや、四天王、様?」
「勝手に呼ばれてるだけやけどな、お近付きの印に、奢ってくれてもええで!」
ケヴィンが伝票を掲げると、
「よ、喜んで!」
お支払の件は無事に解決?店を変えて飲み直す事になった。