第95話 詩乃とエスプレッソ②
そこは初めて入る喫茶店だが、落ち着いていてなかなかいい雰囲気であった。
外観からの印象として、マダムたちがメインの客層で高校生が入るには場違いかという意識が掠めたが、思い切って入ってみて正解だった。
「なんかすっごい疲れた……」
店内の隅っこで詞幸は木製のテーブルに突っ伏した。
「もしかしてだけど……縫谷さん、わざと当ててなかった?」
「きゃははっ、バレてた?」
詩乃は前かがみになって詞幸と目線を合わせる。
「ドキドキしたっしょ?」
「ドキドキどころじゃないよ……。縫谷さんっていつも男とあんな感じに歩いてるの?」
「ないないっ。ウチだって誰にでも――」
と、制服姿の女性店員が近づいてきたので会話を中断する。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
「え~っと……あっ、ここかき氷もあるんだって。火照ったカラダを冷ますのにちょうどいーじゃん。果肉ゴロゴロで映えてるし美味しそぉ~。じゃあ、ウチこのマンゴー味とエスプレッソで。詞幸はどうする?」
「俺は苺のかき氷とエスプレッソでお願いします」
かいこまりました、と綺麗な礼をして去っていくのを見届けてから話を再開する。
「さっきのは助けてもらったお礼」
詩乃は上体を反らし、服を押し上げる膨らみに手を添えて強調した。
「柔らかくて気持ちよかったっしょ?」
挑発的な視線。詞幸は耐えきれず目を逸らした。
「そっ、そんなの言えないよっ!」
「あっ、照れてる照れてるぅ~。きゃははははっ」
「照れてるよ! 照れて悪いか!」
「きゃはははっ、開き直ったぁ~っ」
だるまのように顔全体を真っ赤にしているのが面白くて堪らない。
「別に悪くないけどぉ~。どうせ女の子の触ったことなんかないんでしょ?」
「あ、ある――いや、ないな、うん。アレは肋骨だった」
感触を思い出すかのように、手を開いたり閉じたりを繰り返していた。
「?」
「いやいやこっちの話。そんなことより縫谷さんは恥ずかしくないの? その……胸、触られるのとか……」
「フツーに恥ずいよ? アンタが恥ずかしがって全然こっち見ないから気づかなかっただけでしょ? ウチも顔熱くなってたんだからね?」
「そうなの?」
「むぅ。なにその意外そうな顔、ムカつくぅ~! アンタがウチのことどう思ってるのか知んないけど、そんな安い女じゃないんだから。でも、助けてもらったのになんのお礼もしないのはウチの流儀に反するしぃ。だからこのお店のお勘定もお礼の一環」
「ええっ、そんなの悪いよっ。奢ってもらうなんて――」
「お礼として割り勘で許したげる。ホントは男子の全額奢りが常識なんだかんね!」
「俺の知ってる常識と違う!」