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第7話 △

 好きな人がバレバレだった恥ずかしさと変質者的な扱いを受けたショックで、詞幸(ふみゆき)は顔を上げられないでいた。

「………………」

 やってしまった、と季詠(きよみ)は視線を逸らす。

「で、でも安心して? 愛音(あいね)月見里(やまなし)くんの気持ちに絶対気づいてないから。あの子こういうことにはニブいの」

 失言を取り繕って微妙な空気を取り払おうとする。

「そ、そうなんだ……」

 詞幸は頭から湯気が出そうなほどの羞恥を感じながらも、とりあえずの安堵を覚えた。

「とにかく私に任せといて、うん。二人が恋人になれるようにどんどんフォローしていくから。それじゃあ私は部活があるから、また明日ね」

 季詠はそれだけ言ってそそくさと逃げるように教室を後にしてしまう。

 弱々しく手を振ってそれを見送ると、詞幸は静寂に包まれた教室にポツンと一人きりになった。

 だというのに胸がざわついて心臓の音がうるさい。

 頬に触れると熱を持っていた。40℃はあるのではないだろうか。

「………………恥ずかしい……」

 人に恋心を知られるのがこんなに恥ずかしいことだなんて。

 しかし、恋愛経験の乏しい自分にとって、協力者の存在が心強いのも事実。ここは喜ぶべきなのだろう。

 そう、前向きな方向に切り替えようとした、そのときだった。

「おいっ、ふーみん」

 小走りに駆け寄ってきたのは、愛音だった。

「お前随分キョミと仲が良さそうじゃないか」

「ア、アイエエエ!? 愛音さんなんで!?」

 心臓が飛び出そうなほど、と表現するほかない、盛大な驚きだった。

「なんでじゃない。キョミが部活に来ないから様子を見にきたんだ。そうしたらお前らが楽しそうに話してるだろう? 気になったから隠れて見させてもらった」

 ムスッと口をへの字に曲げて目を細める。

(ま、まさか話を聞かれて――?)

「それでわかった。実は前から、そうなんじゃないかとは思ってたんだがな」

 サッ、と血の気が引くのを感じる詞幸。

「お前――」

(好きだってばれ――)

「キョミのこと好きなんだろッ!」

「…………………………………………………………」

 構えていた方向とは違うところからボールが飛んできたせいで、詞幸は反応できなかった。

「思い返せばお前いつもいつもキョミのことばっか見てるもんな。おかず交換がしたいなんてワケわからんこと言ってきたのも、キョミが目当てだったんだろ?」

「そ、それはっ――」

 ――帯刀(たてわき)さんの隣にいた愛音さんを見てたんだ。

 ――君と仲良くなりたいから一緒にお弁当を食べたかったんだよ。

 などと言う勇気もなく、開いた口は力なく震えるのみだ。

 愛音はそれを反論する言葉がないものと受け取り、ふん、と鼻を鳴らした。

「まぁ、キョミは美人だし、頭も性格いいし、おまけにおっぱいもデカい。好きになってしまうのも頷ける。これまでにもお前のように群がる男はたくさんいたんだよ。お前もアイツら同様、無残に轟沈するのは目に見えてるが、一応これだけは言っておく」

 ダンッ、と力強く一歩踏み込んで、歌舞伎の見得切りのようにポーズを構え、愛音は高らかに言い放った。

「キョミはアタシの嫁だッ! 他の誰にも渡さないからなッ!」

 教室内に声が反響する。

 その反響が消えぬうちに、愛音は教室の外へと走り去っていた。廊下の向こうから「わかったか、バーカ」という捨て台詞が聞こえた。

「…………………………………………………………」

 そこで詞幸は、今日の出来事を振り返って呟いた。

「いい一日だったなー…………」

 現実逃避の言葉が、淡く虚空に消え去った。

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