第78話 キミへのプレゼント⑥
「月見里くん、もう大丈夫そうだよ」
愛音たちはいまだ店内にいたが、詞幸たちとは反対方向に移動していた。
「いまのうちに出よう?」
視界に3人の後姿を捉える。どうやら織歌はいないようだ。壁際の商品を見ているらしく、こちらには完全に背を向けた状態である。
二人は無言で頷き合って動き出した。
抜き足差し足、物音を立てないように素早く移動する。愛音たちは気づいていない。
あと1メートルで通路に出る――というところだった。
「あらあら? そこにいるのはもしかして季詠ちゃんと詞幸くんですか?」
「「!?」」
詞幸と季詠の肩が揃って跳ねた。思わず足が止まってしまう。
「やっぱりっ。まさかこんなところでお二人とお会いするなんて、とっても驚きですっ」
言葉とは裏腹に御言の表情はにこやかで驚愕の色など一切ない。それどころか、吹き出すのを堪えているかのように頬がひくひくと痙攣していた。
(ま、まさか最初から私たちに気づいてた!?)
季詠は己の考えの甘さを呪った。
こちらが通路向こうの愛音たちの姿を見つけたということは、相手からもこちらを視認できたということだ。
つまり、御言がこの店に入ったのは偶然ではなかったのである。
逃げるのではなく隠れるという選択を取ったことで追い詰められ、退路を断たれてしまったのだ。
「は!? なんでお前らが!?」「うわっ、マジじゃん! なんでなんで!?」
様子に気づいて愛音と詩乃が駆け寄ってくる。
「いやあ、これはそのお…………」
視線を彷徨わせ、詞幸は言葉を探す。しかし、どう説明すべきか、どう言い訳するのが正解なのか、答えが導き出せない。
「まさかお前ら……二人でデートしてたのか……?」
それは、驚きと怒気が合わさった声だった。愛音は眉を吊り上げて糾弾する。
「アタシの知らないところでそんな仲になってたなんてな……。キョミがアタシの誘いを断ったのは――嘘をついたのは、隠れてイチャつくためか……?」
「そういうのじゃないよ! 俺が帯刀さんに頼んで買い物を手伝ってもらってたんだ!」
「そうそう、話を聞いて愛音! これはデートじゃなくて――」
必死に弁明する二人。しかし、これに対して詩乃は冷然と言い放つ。
「フツーにデートじゃない? 理由がどうでもさぁ、家族でもない男女が一緒に出掛けたら、そりゃもうデートっしょ」
「「うぐっ……」」
「確かにそうですね。どのような仲かは別として、二人きりで出かける程度には親密な関係ということですよね」
御言も加勢して攻めてくる。詞幸たちに反論する暇も与えまいとしているようだった。
「てかアンタらの説明もなんか嘘っぽいんだよねぇ~。普通の買い物っぽくないってゆーかぁ、必死過ぎて逆に怪しいってゆーかぁ。そもそもさぁ――」
詩乃は一呼吸置いた。腕を組み、目を細める。
「一緒にランジェリーショップとか、ヤってない相手とは来なくない?」
「ヤっちゃったのか!?」「いやいや!」
愛音は衝撃の声を上げた。詞幸も必死に否定する。
「少なくとも3回以上はヤってないと来ないっしょ」
「もうそんなに!?」「いやいやいやいや!」
よほどショックだったのか、愛音の小さな体がよろめいた。
「そんな……嘘だろ……?」
詞幸の全力の否定も虚しく、愛音は聞く耳を持っていなかった。暖簾に腕押し状態である。
胸を押さえ、苦しそうに呟く。
「アタシのキョミが、大人の階段昇りきってたなんて……穢されてたなんて……」
「昇ってないから! 詩乃が適当に言ってるだけだから!」
「純潔を貰うのはアタシの筈だったのに……!」
「それはそれでおかしくない!?」
詞幸も弁明を試みた。
「聞いてよ愛音さんっ。俺たちは別に付き合ってるとかそういうのじゃないんだ」
「それは…………恋人同士じゃないってことか?」
「うんうんっ。月見里くんとはただの友達!」
「そう、そうだよっ。特別関係なわけじゃないよ!」
「つまり………………カラダだけの関係ってことなんだな!?」
「「違あああああああぁぁぁぁう!!」」
詞幸と季詠のユニゾンが響いたのだった。