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第77話 キミへのプレゼント⑤

「ありがとう、おかげでいいプレゼントが買えたよ」

「ふふっ、どういたしまして」

 詞幸(ふみゆき)はようやっと琴線に触れるものに出会えたのだ。目的を達成し、季詠(きよみ)もどこか嬉しそうである。

 袋をウエストバッグに仕舞いながら腕時計を見る。

「もうそろそろ1時だしお腹空いたよね? お礼になにか奢るよ」

「え、いいよそんなこと気にしなくてっ」

「そういうわけにはいかないよ。色々アドバイス貰ったのに言葉だけのお礼なんて申し訳ないよ」

「律儀だねぇ。――っ!?」

 そこで季詠は息を呑んだ。瞠目し、硬直したのも束の間、次の瞬間には詞幸の腕を掴んでいた。

月見里(やまなし)くん、こっち来て!」

「え、なになにいきなり!?」

「いいから!」

 促されるがまま傍らの店に入っていく。しかし詞幸は一歩踏み入れたところでギョッとしてしまった。

「ちょっ、帯刀(たてわき)さん、ここ!」

「え? あっ!」

 そこは女性型のトルソーが至る所に配置され、原色からパステルカラーまで色とりどりの品揃えがある――ランジェリーショップだった。

 季詠は逡巡する。

 この手の店に男性客が入るのはマナー違反。男性側が目のやり場に困るからということではなく、たとえ男女のカップルが同意の上で入店したとしても、男性の目があるとほかの女性客が居心地の悪さを感じてしまうからだ。

「…………やり過ごしたらすぐ出ようっ」

 すぐさま決断し、奥の棚の陰に隠れる。

「なんか目がチカチカするよお……。どうしてこんなところに隠れるのっ?」

愛音(あいね)たちがいたの……」

「嘘っ、なんでっ?」

 問われて、季詠はハッとした。

「……そういえば私昨日、話術部のみんなでショッピング行こうって誘われてたの。月見里くんと約束したあとだったから断ったんだけど……まさか同じ場所に来てるなんて……」

「その『みんな』の中に俺が含まれてないなんて……」

 地味にショックだった。

「誘いを断るときにね、親戚に会いに行くから、って嘘ついちゃったの……。それなのにもし私たちが一緒にいるところが見つかったら……」

「ヤバヤバな状況だね……」

 詞幸と買い物に行く、などと正直に言えるわけもなかったのでついた嘘だった。しかしこれがバレれば、女友達からの誘いを嘘をついてまで断り、男とのデートを優先したと捉えられるのは必至。

 絶対に愛音たちに見つかるわけにはいかないのだ。いかないのだが――

「まぁっ、こんな風に下着が売られているのですね!」

 聞こえてきたのは御言(みこと)の声だった。

「ど、どうしよう! こっち来ちゃったみたいだけど!」

 詞幸は囁き声で叫んだ。季詠の返答も動揺を隠せていなかった。

「とととにかく頭を下げて! えっとそれから……隙を見て脱出しましょう!」

 無言で頷き合う二人だったが、御言の声はさらに近づいていた。

「男性も中を覗けるようなところに店を構えて――これは一種の羞恥プレイですねっ? どんな下着を買っているのかを衆目に晒してその姿を想像させるという……。わたくし、なんだか興奮してきました!」

「みーさん抑えて抑えて! そういう趣旨じゃないし!」

 姿を確認することはできないが、宥めているのは詩乃(しの)のようだ。

「あれ、ナッシーなんかテンション低くない? どしたん? いつものナッシーなら『ブラジャーブラジャー、パンツパンツ!』って騒ぎそうなもんだけど」

「アタシはそんな小学生のガキみたいなこと言わないぞ……」

 溜息をついたのは愛音だ。

「自分に関係ない店なんかにいたらテンションも下がるだろ。こういうオシャレな店にあるのはアタシには大きんだよ。ジュニアブラとかブラトップとか、子供向けのが売ってるところじゃないと合うのがない」

「あぁ~、AAA(トリプルエー)だもんねぇ~。まぁ、ウチもBしかないからあんま馬鹿にできないけどぉ。みーさんは?」

「わたくしはCですが、最近ちょっときつくなってきたので、一つ上のものを買いたいな、と」

「うー、アタシを置いてどんどん成長しやがってー。キョミも知らぬ間にEカップになってたんだよなー。アタシのおっぱい成分を全部吸い取ってバインバインになってんだよ!」

 詞幸に乙女のトップシークレットを知られてしまい、季詠は顔を真っ赤にして身悶えした。

「もお、あの子ったら~~~っ! こらっ、月見里くんもどこジロジロ見てるの!?」

「ごめんっ、つい!」

 謝りながらも、もうちょっとここにいて話を聞きたいなあ、と思ってしまう詞幸だった。

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