第76話 キミへのプレゼント④
「値段は高くても5千円くらいに抑えましょ? あんまり高価なものだと貰った方もお返しで頑張らないといけないから」
「……愛音さんのこと好きだからあんまり言いたくけどさ、そういうこと気にする細やかさはないと思うんだ」
「うん、まぁ、そうなんだけど……年を一つ重ねてあの子も少しずつ成長するはずだから、温かく見守ってあげて?」
詞幸たちはこれまでに、靴やバッグ、帽子や文房具などを見て回っていた。
しかし、なかなかピンと来るものがない。
エスカレーターから降り、次に二人が向かったのはインテリア小物や雑貨を取り扱う店舗だった。
(ハーバリウム、ね。女子はこういうの好きなんだろうけど――)
詞幸はガラス瓶を手に取った。中は透明な液体で満たされており、いくつもの花弁が浸って鮮やかに咲いていた。まるで花の時間をそっと閉じ込めたようである。
(愛音さんが気に入るかっていうと微妙だよなあ。女子っぽい可愛らしいプレゼントを贈りたいけど、愛音さんは普通の女子じゃないからなあ。そういうとこも好きなんだけどねえ)
「ねぇねぇ月見里くん、これなんてどうかな?」
脱線しかけた思考が引き戻される。
季詠が手に取ったのは、フレームにステンドグラスの意匠が施された写真立てだった。
「へえ、素敵だね。最近じゃデジタルフォトフレームが増えてきてるから、逆にこういうの贈るのもいいかもね」
「可愛いよねっ? 愛音が好きな濃いめのピンク色だし」
詞幸は頷く。そして、
「あ、そうだっ」
ポンと手を叩いた。
「こんな言葉と共にこれをプレゼントするのはどうかな?」
前髪をかき上げ、季詠を流し目に見る。
「この写真立てに負けないくらい素敵な思い出を、二人で飾ろう」
「~~っ(失笑)」
「なんで!? いまの凄くいい台詞じゃなかった!?」
「だ、だってっ――ふふっ、月見里くん絶対そんなこと言えないでしょ? 恥ずかしがるに決まってるものっ、ふふっ」
なおも季詠は口元を押さえて肩を揺らしている。
「うっ、確かに自分でもそんな気がする…………。じゃあこんな台詞はどうかな? 写真立てだけじゃなくて愛音さんの写真も一緒に渡しながら――」
詞幸は短く咳払いを挟んだ。
「俺の瞳に映るキミはいつも可憐なんだ。キミ自身も気づいてないキミの魅力を、俺が教えてあげるよ」
「――――っ(戦慄)」
「うっそ、なんで!?」
季詠は身震いして自分の肩を抱いている。
「これもいい台詞でしょっ? いつもキミのことを見てるよってちょっと遠回しに伝えてるんだよっ?」
「うん、だから……やっぱり発言がストーカーっぽいなって」
「『やっぱり』!?」
クラスメイトからの偽りない評価に、膝から崩れ落ちそうだった。
「それに月見里くん、いまのってもしかして………………愛音が気づいてないところで隠し撮りしてるってことじゃないよね?」
「…………………………………………」
詞幸は写真立てを棚に戻し、体を180度回転させる。
「ここにも愛音さんに似合うのはなかったなあー。さ、次の店に行こー」
足早に店を後にするのだった。
「あっ、こら待ちなさい! 待ちなさいったら!」