第75話 キミへのプレゼント③
早足で移動していた詞幸と季詠の二人は、先ほどのショップから十分に距離を取ったことを確認してから足を止めた。
「ここまで来ればもう大丈夫――あっ、ごめんねっ? いきなり手繋いじゃって……」
季詠はがっちりと掴んでいた詞幸の手を放した。
「ううんっ、俺の方こそ、変なこと言っちゃって……」
「…………………………」
「…………………………」
双方とも照れてしまい、目を合わせることができない。
(帯刀さんの手、柔らかかったなあ……)
(意外とおっきかったな……。男子と手を繋ぐなんて、小学校のダンス以来かも……)
意識すると余計にドキドキしてしまう。季詠は気を取り直そうと口を開いた。
「こ、ここにはコスメショップがいっぱいあるから、ほかのお店も見て回ろっか?」
「あ、ごめん。ちょっといいかな? これは、俺の我が儘なんだけど……」
詞幸は改まった調子で言う。
「折角俺のために休日使ってアドバイスしてくれてるのに悪いけど、俺は、形として残るものをプレゼントしたい。消耗品じゃなくて、思い出になるようなものがいいんだ。誕生日プレゼントなんだから、本当は貰う側の気持ちを考えないといけないのに、でも――」
「うん、いいと思う」
最後まで言わせず、クスリと笑った。
「好きな人に贈るプレゼントだもの。きみが納得しないものを選んでも仕方ないよ。それに、やっぱり二人の関係が進展するようなものがいいよね。女の子として見てるよっていうアピールも必要だし、普通のプレゼントよりちょっといいのを贈りたいもんね」
詞幸の顔が自然と綻んだ。そのままアドバイスを求める。
「それで、愛音さんは誕生日になにか欲しいものがあるとか言ってなかった? まあ、知ってても帯刀さん自身が贈るなら仕方ないけど」
「う~ん、一応聞いたけど、それは言えないかなぁ……」
季詠は目線を逸らした。
「ええっ、なんで?」
「えっと……だって、いま私が話して、もし月見里くんがそれを買ったとしたら、私が教えたってバレちゃうもの。愛音は私たちの関係を勘違いしてるんだから、実はこっそりやり取りしてるなんて知ったらいい気はしないんじゃないかな」
「ああ~、それは確かに」
愛音は、詞幸が季詠にフラれたと勘違いしているのだ。それなのに裏で仲良くしていると知れれば、親友を盗られたと騒ぎ立てられ、再び機嫌を損ねかねない。
「じゃあ、そのものズバリなプレゼントはしないよ。参考にするだけだからさ、教えてくれない?」
「それでも駄目、駄目だよ……教えられないっ」
「ええ~、お願いっ。そこをなんとかっ」
詞幸は手を合わせてこうべを垂れる。
「だ、駄目……。私の口からは言えない……言えるわけないもの」
季詠は俯いて言葉を濁した。
「ほんのちょっとっ、ヒントだけでもいいからっ」
「もおっ、月見里くんしつこい! 口にするのも憚られるようなものだって私の態度で察してよ! それとも本当はわかってて私に恥ずかしいこと言わせようとしてるの!?」
顔を真っ赤に染めての叫びだった。
「見た目はオモチャみたいなのにあんな不潔なことに使うなんて……っ! 調べなければよかったよ、もお!」
頬を膨らませた季詠は瞳を潤ませていた。
(愛音さんなに欲しがってるのおぉぉぉぉッ?)