第6話 <●><●>
(いい一日だったな――)
放課後。部活に向かう者と下校する者が織りなす喧噪のなか、詞幸はしみじみと今日の出来事を振り返っていた。
(席替えして愛音さんの前の席になって、一緒にお昼を食べて……一気に距離が縮まったよな)
幸せを噛みしめながら、これからの日々も同じように――いや、もっと楽しくなるだろうと夢想すると、自然に顔がにやけてしまう。
「ねえ月見里くん」
「うわっ!」
自分の世界に入り込んでいたせいで、季詠に優しく声をかけられただけだというのにビクッと肩を震わせてしまった。
だらしない顔を見られた、という羞恥を誤魔化して平静を装う。
「なァに? 帯刀さん」
だが僅かに声が上ずった。
「ちょっと聞きたいことがあるんだけど…………」
いつの間にか、教室には詞幸と季詠の二人だけになっていた。だというのに、季詠の声は囁くように密やかだ。
首肯して促す。
「月見里くんって愛音のことが好きなんだよね?」
「そそそそそそそそんなわけないじゃあないか! いいいいいったいなんの根拠があって――」
焦りながらも大仰な身振りで否定し、
「私が仲を取り持ってあげようか?」
「是非お願いします!」
風切り音が聞こえるほどの勢いでこうべを垂れた。
「はい、承ります。精一杯月見里くんの恋を応援してあげるね」
季詠はくすくすと柔らかく微笑む。しかし詞幸はわけがわからない、と首を傾げた。
「な、なんで……?」
その問いに、顎に指を当て、虚空を見つめて季詠は唸る。
「う~ん、なんでだろう。愛音は恋愛経験まったくないから幼馴染みとしてちょっと心配してて、月見里くんが優しくていい人だから、ちょうどいいなって思ったって感じかな」
「いやそうじゃなくて、なんで俺が愛音さんのこと好きってわかったの?」
必死さすら感じさせるクラスメイトを、季詠はキョトンと見つめ返す。
「え? だって月見里くんいつも愛音のこと見てるじゃない。あれだけ見つめてればすぐわかるよ」
「……そんなに見つめてたっけ……」
「うん。ハッキリ言ってストーカーみたいだった」
ガーン!
ハンマーで思いっきり殴られたような衝撃が詞幸を襲った。
「あっ、ごめ――――い、いい意味で! いい意味でストーカーみたいだった! うん、月見里くんはいいストーカーだよ!」
必死のフォローはフォローになっていなかった。