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第68話 ビッチの生態 前編

 もうそろそろ昼休みも終わり5時限目が始まろうという時間。詞幸(ふみゆき)が後ろの席を振り返ると、愛音(あいね)は頬杖を突き、思案顔で窓の外を眺めていた。

「あれ? 古典の勉強は終わったんだ。昨日は休み時間中もずっと教科書睨んでたけど」

「ああ、さゆりんから古典よりも現代文を勉強した方がいいって言われたからな。古典の勉強はやめたんだ」

「ふうん? でもそれなら現代文の勉強した方が良くない?」

「ふふん、現代文は得意なんだよ。勉強する必要がないほどにな。なんたってアタシは小さい頃から漫画とかラノベで英才教育を受けてるんだ。漢字も語彙も知識はあるし、登場人物の心情を読み解くような読解問題だって造作もない。どのキャラが誰を好きか――なんてのを些細な描写から瞬時に察することができるほどだ」

「え?」

 傍らに立っていた季詠(きよみ)が声を上げた。

「? どうしたキョミ。なんかアタシ変なこと言ったか?」

「い、いや別になんにも……」

 どの口が言うか、と愛音の鈍さを目の当たりにしている季詠は思ったが、喉元まで出かかった言葉をグッとこらえた。

「じゃあほかの教科の勉強しないの?」

 詞幸が至極当然の疑問を口にする。

「いやー、どうもしののんについて気になってることがあってなー。気にしすぎて勉強に身が入らないんだよ」

「勉強しない理由を他人に押し付けるのはやめなさい」

 ピシャリと言う季詠。しかしその言葉を無視して愛音は続けた。

「しののんって――実は初心(うぶ)なんじゃないのか?」

 内緒話のように声を潜める。

「アイツ中学のときに彼氏がいたって話してたろ?」

 先日の部室でのことだ。初恋の相手と付き合ってみたら趣味が合わなくて1週間でフッた、という話だった。

「あんときアイツ、手を繋ごうとしてきたのが嫌だった、って言ってたんだよ。アタシはそれが妙に引っかかってな。イマドキそんな純情なヤツがいると思うか?」

「まぁ、確かに珍しいと思うけど……」

 詞幸が答えると季詠も首肯した。

「だろ? 初恋が実って、しかも中学生という思春期――いや、発情期の暴走を抑えられない時期にだ、初デートとはいえ手を繋ぐのも嫌なんてありえないだろ? 普通の中学生ならべろちゅーまでいくシチュエーションだ」

「べろ――!?」

 ダイレクトな単語に季詠は瞠目した。

(愛音さんは”ディープキス”じゃなくて”べろちゅー”派なんだ。なんか可愛い!)

 キュートな表現に詞幸は興奮した。

「そこで疑問に思ったんだよ。そんな純情なヤツが、いきなり合コン三昧なビッチに変われるか? ビッチだビッチだと散々言われているしののんだが、本当にそうなのか? ビッチのフリをしているだけじゃないのか?」

「言ってるのは愛音だけでしょっ?」

 詩乃(しの)は頻繁に合コンに参加していると自慢げに話し、確かに愛音もクラスメイトから証言を得たことはあるが、そのほとんどは自己申告だ。実際に何回行っているかは不明である。

 しかも、詞幸たち話術部員に詩乃と同じクラスの者はおらず、クラスでどういった振る舞いをしているのかわからない。ここにいる3人とも話術部の詩乃しか知らないのだ。

「だからアタシはこう考えたんだ。ルカは別として、アタシたちに恋愛経験がないのをいいことに、アイツはマウントを取ろうとしてるんだって。恋愛経験豊富なビッチを装ってな」

 この仮説に、季詠はおずおずと反論を試みる。

「じゃあこの前の恋バナ自体が嘘だったってことはない? もしくは実はほかに付き合ってた人がいてその影響で変わった、とか。詩乃がび、ビッチって言いたいわけじゃないけど……」 

「その可能性もあるが……実は、アタシがアイツをビッチじゃないと疑うのにはほかにも理由があるんだ。あのカラオケのとき、しののんはふーみんに可愛いって言われて照れてたんだよ!」

 この証言に、浮気がバレた男のように詞幸は狼狽した。

「ああああれはそういう意味で言ったんじゃないしっ。……ていうかそうなの? 俺からは見えなかったからわからなかったけど……」

「アタシもちょうど真横にいたからわかっただけだけどな。あれは男慣れしたビッチの反応じゃない。あれで疑念がさらに強まったんだよ。そこで、だ――」 

 愛音は高く拳を掲げ、宣言した。

「アタシは、しののんのビッチ調査を提案する!」

「そんなことしないでテスト勉強しなさい!」

 季詠は思わずツッコんだが、詞幸は「おお~」とパチパチ手を叩いて同調した。

「愛音さんがやる気なら俺も手伝うよっ」

月見里(やまなし)くんも勉強から逃げないで!?」

「いやいやキョミ、これは大切なことなんだよ。結果によっては、アイツから『あばずれビッチ』の称号を剥奪しないといけないんだからな」

「本人にとっては剥奪の方がよくない!? ただの蔑称でしょ!?」

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