第62話 カラオケにて④ それぞれの歌
それぞれが思い思いの歌を披露していった。
愛音はアニソン中心に。
「――キラッ☆」
(うおおおおおおおおっ! 可愛いいいいいいいいくぁwせdrftgyふじこlpッ!)
「詞幸くん眼が血走ってますよ?」
織歌は落ち着いた曲調を好み、米津玄師などを選曲。
『Lemon』を歌っているとき――
「お前ら『ウエッ』を合唱するのやめろ!」
「きゃははははっ、これたのしー! ウエッ」
御言は『イヲピにかえて』など一風変わったものを。
「凄いねこの曲。歌詞の『イ』の上に全部点がついてて、『ピ』に変えて歌わないといけないんだ……」
「せっかくの美声の無駄遣い……。御言はどこでこの曲を知ったんだろう……」
詞幸はジャンルを問わず、人気曲やカラオケの定番曲。
「ふーみん、いま『アイネクライネ』歌ったけど、それって『愛音暗いね』ってアタシを陰キャ呼ばわりして馬鹿にしてるつもりか?」
「言いがかりだよ! ドイツ語! ドイツ語だから!」
季詠は『もしも運命の人がいるのなら』など、女性歌手の恋愛ソングを。
「おいおいキョミー、お前のオハコはそれじゃないだろー? 早くラブライブの曲を歌って踊れよー。そんでイタ可愛い姿を見せてこいつらをドン引きさせてやれよー」
「そんな風に言われて歌うわけないでしょ!?」
そして詩乃はSPYAIRの『RAGE OF DUST』などガチガチのロックを歌った。
「縫谷さんお疲れ様。カッコよかったよ」
腰を下ろした詩乃に、詞幸は拍手と共に笑いかけた。
熱の入った歌いっぷりで、うっすら額に滲んだ汗で髪が張り付いていた。
「もっと可愛い曲歌うのかと思ったけど違うんだね」
メイクでキメたりアクセサリーで飾ったり、詩乃は可愛くあることに人一倍熱心なように思える。その可愛さからかけ離れた意外な選曲だと思ったのだ。
詩乃は汗をかいたコップを持ち上げ、ストローを咥える。ミルクティーを一口飲むと、白い喉が動いた。
「普段の合コンならもっと男ウケいいの歌うんだけどねぇ。別に今日はそういうのじゃないし、素の自分でいいかなぁって」
視線を虚空に彷徨わせる。
「ホントは自分の好きな曲歌いたいけどねぇ、明るくて可愛い曲聞きたいって言われるし、そうじゃないと盛り上がんないし、女の子なんて媚びて当たり前だし……周りに合わせて好きなもの変えるのって全然ロックじゃないけどさぁ……」
声に力がないのは激しい曲で疲れたからだろうか、それとも――
「別にいいんじゃないの? 俺、そういう縫谷さんの恋愛に対する姿勢ってカッコいいと思うよ。真面目っていうか全力出してるっていうかさ。好きな人によく思われたいのは当然だもん。少しくらい相手に会わせるのは普通だよ」
詞幸は快活に笑った。
「…………………………」
「あ、あれ?」
フォローしたつもりだったが、詩乃は無表情のまま目を細めて黙り込んでしまう。
「なんかおかしいこと言った…………? あ、ごめん! 女子にカッコいいとか言うの失礼だよねっ? 可愛い! うん、言い直す! そういう姿勢って可愛いと思うよ!」
必死に弁明するも、終いにはプイッとそっぽを向かれてしまった。
「………………バカ」