第61話 カラオケにて③ 視線の意味
カラオケで歌っている最中に店員が入ってくると気まずい、というのはよくある話だが、詞幸はまさにいまその状況に直面していた。
「ご注文のお品物をお持ちしました」
大学生のアルバイトだろうか、若い女性店員が料理を持って入ってくる。
(知らない人に歌声聞かれるのって恥ずかしいんだよなあ……)
彼女と視線がかち合った詞幸は咄嗟に体ごと壁の方を向き、声を何段階も小さくした。
「待ってました! かっら揚げ、かっら揚げ♪」
「あ、こらお前! 勝手にレモンをかけるな!」
愛音と織歌のいざこざを耳にしながらもメロディーに声を乗せる。
やがて女性店員が去り、曲が終わると拍手が送られた。
気恥ずかしさから解放された安堵と達成感とが入り混じった感覚がする。
「詞幸くん、とってもエモエモのエモでしたよ」
意味をわかって使っているのか、御言からそんな賛辞を贈られ、詞幸は照れ隠しのように言った。
「カラオケって気まずいタイミング多くない? 間奏のときと歌い終わったあと、どういうリアクションを取るのが正解なのかいまいちわかんないんだよね。それとさっきみたいに店員さんが入ってきたとき、妙に恥ずかしくてさ」
「いちいち気にしすぎっしょ~。詞幸のクセに引くくらい上手かったし。てか『さよならエレジー』とか選曲がガチめなのもなんか顔に合ってなくてイヤ」
「貶す理由が難癖にもほどがある!」
詩乃がきゃははっ、と笑うと、今度は季詠が口を開いた。なぜか小声だ。
「ねぇねぇ、そんなことよりさっきの女の人、月見里くんのことずっと見てなかった?」
ドアに視線を向ける。外に聞こえるわけもないだろうに、御言も季詠に合わせて声を潜めた。
「確かに見ていました。お知り合いの方ですか?」
「いや全然。この店に来るのも初めてだし」
そもそもあの女性店員からはすぐに目線を外してしまったので見られていたという感覚すらない。
「もしかして一目惚れされてしまったのではありませんかっ?」
「ま、まっさかあ……」
季詠と御言が女子らしい発想できゃっきゃするなか、織歌は冷ややかに言い放った。
「単純に珍しい組み合わせだったからだろ。女5に男1なんて客はそうそうお目にかからないんだろうな」
「どこのハーレムラブコメだよって感じだしなー」
織歌に続き愛音、そして詩乃も自身の見解を述べる。
「詞幸もそんな何人も女の子をはべらせられるようなイケメンじゃないしねぇ~。『なにこの集まり、女子会に男子が無理矢理ついてきたの?』みたいに思ったんじゃない?」
「確かに! ふーみんには女子校が共学化したときに入学してきたスケベ野郎みたいなオーラがあるもんな!」
「それどんなオーラ!?」
詞幸は愛音にツッコまざるを得なかった。