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第57話 君の呼び名は 後編

「ところでさ――」

 談笑を再開してしばらくしたころ、またもや不意に彼が疑問を口にした。

「二人とも全然違うあだ名で呼ぶよね」

 詞幸ふみゆき愛音あいね詩乃しのの顔を見比べて言う。

「いきなりなに?」

 なにを言い出すのかと、眉を顰めて詩乃が訝しんだ。

「いや、ちょっとわかりづらいなあ、って思うときがあってさ。ほら、俺まだ入部して間もないから、いろんなあだ名を出されても誰のことを指してるか咄嗟にはわからなくなるんだよね」

 かといってその場で話の流れを止めて確認するのもしのびない。

「愛音さんは縫谷ぬいやさんのこと“しののん”って呼んで、縫谷さんは“ナッシー”って呼ぶよね。ほかの人はどう呼ぶのか、確認させてくれないかなあ」 

「別にいいぞー。アタシが付けたあだ名は自信作だからな。アタシのセンスの方が上だって知らしめてやる」

「まぁ、勝負する気はないけど、そーゆーことなら」

 こうして、二人が付けたあだ名の確認をすることになった。

 詞幸が尋ねて、愛音、詩乃の順に答えていく。

帯刀たてわきさんは?」

「“キョミ”!」

「“ききっぺ”」

上ノ宮(かみのみや)さんは?」

「“ミミ”!」

「“みーさん”」

古謝こじゃさんは?」

「“ルカ”!」

「“コジャっち”」

調しらべ先生は?」

「“さゆりん”!」

「“ユリせんせー”」

「俺は?」

「“ふーみん”!」

「…………“詞幸”」

 それまで普通に答えていた詩乃は、最後の最後でいきなり弱々しくなった。

「あれ? おかしいなあ。俺だけあだ名じゃないなあ。変だなあ」

 おどけたように言う詞幸に、話の行きつくところを察した詩乃が舌打ちした。

「うっっっざぁ! こんな女々しいことしないでハッキリ言えばいいじゃん!」

「いやいや、俺はただ疑問を口にしただけだよ? ハッキリ言うほどの意図があったわけじゃないよ。でも、縫谷さんにはなにか負い目があるんだね」

「うわ、むっかつくぅぅぅぅぅぅぅ!」

「わはははっ、これはしののんの負けだな! でも確かに、一人だけ呼び捨てってのは仲間外れ感が強くて可哀想だよなー。なんかつけてあげないかー? あだ名ってのは仲良しの証みたいなもんだろー?」

「だから詞幸は別にいっかぁって思ってたんだけどぉ」

「自分で誘導しといてなんだけどそんなこと言われるくらいなら別に無理してつけなくていいです……」

 意気消沈する詞幸だが、詩乃は「一応考えてあげるから」と腕を組んで瞑目した。

「う~~~~~~~~~~~ん………………」

 呻ること数十秒。彼女はようやっと顔を上げて言った。

「ナッシー((おす))」

「雑! (♂)って!」

「わははははははっ! 良かったな、ふーみん! お似合いの――」

 そこで愛音は気づいてしまった。

「っておい待て! それってつまりアタシは――」

「うん。ナッシー((めす))に改名」

「嫌すぎる!」

「え~っ、小鳥遊たかなし月見里やまなしのナシナシコンビでいーじゃん! 二人いっぺんに呼ぶときは『ナッシーズ』って呼ぶから!」

「売れないコンビ芸人みたいだ!」

(あれ? 二人で一つみたいで意外といいかも!)

 不覚にも心惹かれてしまった詞幸。しかし対照的に、愛音は髪を振り乱して拒絶を示した。

「ええい、やめだやめだ! そんなダサくて惨めな思いをするくらいならあだ名なんてやらなくていい! こいつにナッシーはもったいない!! あだ名が欲しいなんて調子に乗るなバーカ!!!」

「ええええええええっ!?」

 結果、いままでどおり詩乃は詞幸を“詞幸”と呼ぶことに決まったのだった。

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