第55話 恋バナしたいお年頃⑦
下校時刻も近づき、今日の部活は終了となった。
「帯刀さん、ありがとね」
詞幸は部室から出ようとする季詠を呼び止める。
「え?」
振り向いた季詠はキョトンと目をしばたたかせた。
「ほら、さっき俺のことアリって言ってくれたじゃ――」
「あれは別にそういう意味じゃないからね!?」
瞬間的に季詠の顔が沸騰する。
思わず口から出た言葉だったのだろう。ややの間のあと、自分で自分の発言に驚いたように目を見開いた。
「――あっごめん、急に大きな声出しちゃって……」
室内を見回すが、他のみんなはもう外に出たらしい。
こほん、と咳払いを一つ挟んで続けた。
「ただ月見里くんがお人好し過ぎるくらい優しくて魅りょ――いい人だって知ってるから、言っただけだよ。気を使ったわけじゃないの。もっと自分に自信持っていいと思うな」
喋りならも季詠の顔はどんどんと赤くなっていった。
「というか恋人としてアリだと思った理由なんて恥ずかしいこと聞かないで!?」
「いや、俺聞いてないけど……」
「………………」
季詠が自発的に喋っただけである。
完全に自爆だった。
「もおっ、今日は恥ずかしいことばっかり!」
季詠は両手で顔を覆った。
「そんなことよりっ、愛音の誕生日プレゼントはどうするか決まったっ?」
それが恥ずかしさを誤魔化すための話題変えだということは詞幸にもわかった。
「いやあ、それがまだなんだよね。色々と考えてるんだけど悩んじゃって……」
「良かったら私も相談に乗るよ? そろそろテストだからすぐには無理かもしれないけど、テストが終われば時間ができるし、なんなら休みの日に一緒に買いに行っても――」
そこで季詠はハッとなった。
「別にデートに誘ってるわけじゃないからね!? ツンデレヒロインみたいな台詞だけど本当に違うからね!?」
「うん、それはわかってるよ……」
「そうだよね!? わざわざ言わなくてもわかるよね!? あ~~~、も~~~! さっきからなに言ってんだろ私!」
「……帯刀さん、大丈夫? もしかしてまだ体調悪い?」
季詠の言動は完全に冷静さを欠き、一種の興奮状態にあるようだった。
心配になった詞幸が顔を覗き込むと、距離を取ってわたわたと手を動かして否定した。
「違うのっ、恋愛脳が暴走してるだけだから! ほらほら、皆も待ってるし私たちもそろそろ行こう!?」
まるで逃げるようにドアの向こうに消える季詠の背中を、ただただ呆然と見つめる詞幸であった。