第54話 恋バナしたいお年頃⑥
「あ~あ、夏休みまでに彼氏欲しいなぁ」
全員の恋バナが終わり、詩乃は机に両腕を投げ出すように突っ伏した。
頬杖をついた愛音が言葉を返す。
「しののんは独りの夏に耐えられないタイプか」
「そりゃそうっしょ。だって夏だよ? 一緒にいろんなトコいきたいじゃん」
「デートしてから好きになるか考えるってんなら、とりあえずそこらへんの適当な男に声かけてみればいいだろ。ふーみんとか」
「えぇ~? 詞幸ぃ~?」
品定めするようにまじまじと顔を見つめ、そして鼻で笑った。
「詞幸はナシでしょ。童貞顔だし」
「もっとオブラートに包んでよ!」
「きゃははっ、彼女いたことないんなら事実っしょ?」
ぐぬぬ、と詞幸は唇を噛むことしかできない。
「ウチはもっと男らしいのがいいの。ね、ね、皆は? 詞幸のこと、アリ? ナシ?」
「ちょ、やめてよ! 普通そういうこと本人の前で聞く!?」
詩乃はニヤリと口角を上げ、左手で詞幸を制止した。
「まぁまぁ、い~じゃん、こんくらい」
そして、詞幸にだけ聞こえるような小声でこう付け加えた。
「ナッシーの気持ち、知りたいっしょ?」
(! ば、バレてる……なんで? いや、そんなことより小鳥遊さんの気持ちか……気にならないと言えば嘘になる……)
詞幸は背もたれに体を預け、矛を収めたことを示した。
満足そうに頷き、詩乃は再び話を振る。
「じゃあ、コジャっちから反時計回りね」織歌、御言、季詠、愛音と順番に指差していく。「詞幸は恋人としてアリ? それともナシ?」
「わたしはノーコメントだ。発言できる立場にない」
「うっわ、おもんな~っ。まぁ、アンタは彼氏一筋だもんねぇ~。はい次」
「わたくしはアリです。小さい頃飼っていたミニチュアダックスに似てよく懐きそうなので」
「ペット枠!?」
アリと言われても素直に喜ぶことができなかった。
「わ、私は普通にアリだからねっ、月見里くん。あんまり気を落とさないでねっ」
「気を使ってくれてありがとう、帯刀さん……」
「んじゃあ最後、ナッシーは?」
「……うーんアタシは……」
腕組みをして愛音が唸る。
詞幸は緊張して拳を握り締めていた。その頬を汗が伝う。
彼の恋を応援すると言った者として、季詠も気が気ではない。
(お願い、愛音。月見里くんが傷つくようなことだけは言わないで……)
「……うーん……よしっ」
愛音はたっぷりと長考したあと、カッと目を見開いて声を張り上げた。
「限りなくナシに近いアリ寄りのナシ!」
(わかりづらい! でも、ああ……ナシなんだ……これは月見里くんにとって悲しい結果――)
「えへへ、そっかあ。アリ寄りのナシかあ。残念だなあ、デュフフフ」
(凄く喜んでる!?)
詞幸はにへら、とだらしない顔になって、照れくさそうに頭を掻いていた。
(なんてポジティブなの……)