第53話 恋バナしたいお年頃⑤
「それでは最後に詞幸くん、お願いできますか?」
季詠自身が語ったわけではないが、彼女の恋バナについては愛音が話している。女性陣全員に番が回ったため、残るは詞幸だけだった。
「結局俺なんだ……」
詞幸は過去に思考を巡らせる。いま好きな人のことを本人の前で話すわけにはいかないのだ。必然的に過去のことを話題にするしかない。
「えーと……実は俺って人を好きになるタイミングが悪かったんだよね。小学校でも中学校でも、好きになったときにはその子にはもう彼氏がいたんだ。だから甘酸っぱい思い出みたいなのってあんまりなくて……」
「なーんだ。寝取り、寝取られのドロドロ展開にはならなかったのか。つまらん」
「そんな展開にはならないよ! お兄さんのエロゲーに感化され過ぎだよ!」
と、詞幸が愛音の感性への悪影響を憂慮したところ、右側から声がした。
「あぁ、だからか~」
詩乃が何かに納得したように呟いたのだ。
なんのことかと、詞幸は首を傾げて続きを促した。
「ウチの考えなんだけどさ、ロリコンが生まれる原因って、小さいときの恋愛に未練がある男子が、その好きだったコのことをずっと忘れられないからだと思うんだよね」
迂遠な言い方だが、つまりはこう言いたいらしい。
「それって俺がロリコンだってこと!?」
「え、違うの?」
「違――」
違うよ! そう言おうと思ったのだが、詞幸は答えに窮してしまった。
それは、ここでロリコンでないと否定することは、愛音に興味がないと宣言することにならないかと逡巡したためだ。
葛藤の末、覚悟を固める。
「――そうかも」
「うっわ、認めた!」
「むしろロリコンでなにが悪いッ!」
「しかも開き直った! ヤッバ!」
詩乃がドン引きの姿勢を見せる。
嫌悪感の浮かぶ顔に少なからず傷つくが、しかし、詞幸は己の発言の意図を説明して取り繕うわけにはいかなかった。これも本人の前でできる話ではないのだ。
「なー、ふーみん。一つだけ言っておくぞ……」
その本人たる愛音が口を開いた。
大きく息を吸い込む。
「ロリコンとかちょーキモイ! くたばれッ!」
ビシッと親指を下に向けられてしまった。
「ええ~~~~~~~!!」
愛音への想いを否定しないために行った発言で、逆に愛音から否定されてしまうのだった。